05 「私の弟子は凶暴である」

 お子ちゃまから少女へと成長して、何がとは言わないが立派に育ったマノンと行動中の僕。村近辺のフィールドワークは何度もこなしているので、ご両親から行動範囲を広げる許可をもらえた。


「ねえ先生、本当にゴブリンの大群に滅ぼされちゃう村があるの?」


「ええ」


 その理由。

 マノンのパーティ加入候補である、戦士と魔法士の村壊滅フラグを折るためだ。


 マノンは僕んだから誰にも渡さない。

 そして正体を悟られないために、変装もキッチリ済ませてある。

 パーティ加入フラグも折ってやるのだっ。


 成長したマノンは、凄くカワイイので!

 運営の用意したキャラなんかに渡すわけにはいかないのだっ!

 マノンにはちょっかいを出されないように念入りに偽装する。


 彼女への理由は、適当なものをでっち上げて誤魔化した。


 ラストレガリアは恋人とか結婚のシステムもある。

 僕はいつもマノンでプレイして女の子と結婚してたよ。

 男はいらない。


 マノンは、凄くカワイイので!

 これは何回も言うべき凄く大事なことなので!

 初心者用キャラ? は? だからなに? みたいな。


 王国軍のパーティメンバー候補については、装備だけ剥いで除名がマスト。

 これは多くのプレイヤーが行っている行動だ。

 絶対なのだ、なのである。


 YouTubeでずんだもんも解説してたし。


 あと魔王軍にバレたら、ダンジョンが利用できなくなるからっていうのもある。襲ってくるヤツらはゴブリン兵団の内の1つだし。


「どうやったら魔物に襲われるとか分かるの?」


「魔物の分布を見て分析すれば、おおよそではありますけど分かりますよ」


 そんなわけない。

 知ってただけ。


「うー、先生ってば相変わらず凄いのが、意味分かんないくらい凄い」


 勇者は混乱している。

 そのうち出来るようになるよと誤魔化しておいた。

 勇者なら成長すればホントに出来るようになるかもだし?


 問題は僕の成長だ。


 スキルツリーの新ルートが解放されないという謎が出てるんだ。現段階の上限である+25%まで取ってるんだけどな。

 しかもステータスにバフの掛かるパッシブスキルのルートだけしかない。


 +1+3+5+7+9%で+25%のバフ。

 HP MP STR VIT INT DEX AGI。

 この7ルートはパンパンになってるというのに。


 ルートが増えないから!

 スキルの強化もしたいというのにっ。

 スキルはあるのに強化ができない。


 もどかしさが憎い……。


 シナリオの都合上なのか、上位クラスの暗殺者になっているせいで、盗賊系の忍び足とか罠発見と解除のスキルがないのも、僕が気に入らないポイント。

 今は精霊にお願いしてる感じ。


 魔王軍側にはスキルツリーが設定されてなくて、これ以上の成長が出来ないとなるとマズイよなあ。

 ステアップはチートスキルのおかげで、可能だけど……。


 ステータスはポイントを大量に投入しないと効果が薄いしなあ。

 1UP、1pt……100とか上げたくても100ptだよ。

 10LVアップが必要だよ……1LVアップで100pt欲しいです。


 スキルを得られるオーブを、ダンジョンマスターに交換してもらおうとしても、そんなものはないとか言われちゃったし。

 もしかして勇者覚醒後なのか?


 もしかしてシナリオスタートがトリガーになってる?

 いや……精霊に頼んでるから生えないのかもしれないか。


「先生!」


「予想より展開が早かったみたいです。急ぎましょう」


 剣戟の音や悲鳴が響いている。夜襲だと思っていたな。ゴブリン兵団は昼間から働いているようだ。パーティメンバー候補のキャラ説明には、日付だけで襲われる時間までは書かれてなかったからなあ。


「もう少し早めに行動するべきでした」


「まだ間に合うッ! 行きます!!」


 僕たちに樹皮の肌バークスキンを掛けるよう、木の精霊ジュカに頼んだ。


 ここのボスキャラはゴブリンキャプテンのようだ。

 今のマノンでも余裕をもって倒せる弱い魔物。


 風の精霊ナギに調べてもらったが、ゴブリン兵は80前後。以前は1部隊に60匹くらいだったはずだから、増強されてる様子。

 マノン用のいい餌になるはずだ。


 だけど……村が襲われているという状況で、マノンはちゃんと動けるかどうか。


「マノン、落ち着いて行動」


「は、はいっ!」


「私は村を守りに行きます。マノンは殲滅を!」


「了解ッ!」


 ナギの力を使い、高速移動しながら水の精霊ハパに毒の水を使ってもらう。

 ゴブリンたちにはデバフをプレゼントだ。


「ハパはマノンのサポートを」


 ハパは回復系のスキルを使用できるから、念のためにマノンへ付けておく。教えたことを実行すれば、彼女なら問題なく殲滅できるはずだ。

 もし村人に怪我人がいたら、ため込んであるポーションを使えばいい。


 あとはこれ以上被害が広がらないように、村を守るのが僕の役目かな。

 僕は木の上を忍者のようにシュパシュパ移動する。

 見えた。


 ではお助け開始しますか。


「協力しよう」


「す、すまない」


「ありがとう!」


 声掛けして僕も参戦。

 さすが勇者パーティ候補になる戦士と魔法士か。レベルはまだ低いんだろうけど、ゴブリン兵団をなんとか押さえ込んでるみたいだね。


「ジュカ、彼らにバークスキン。そのあと村を守るように外壁を強化。ナギは引き続き私の補助と、二酸化炭素でゴブリンの無力化を」


 あまり僕が倒しちゃうと、マノンの経験値が減っちゃうから残しておきたいが、そういうわけにもいかない。候補キャラにも経験値が流れちゃうし、村の損害も増えるからな。


「ここは私に任せてもらっても構わん。村の中に侵入されておらぬか?」


 余裕があることを見せるために、サクサクとゴブリンを始末しながら「ボウヤはお家に帰んな」と、悟らせないように提案。

 乗ってくれるかな?


「ひ、1人で大丈夫なんですか?」


「そうだよ! いくらなんでもっ」


「問題ない。見よ──」


 ゴブリン兵の奥を指さす僕。

 ピョーンピョーンと跳ね上がる、ちぎれたゴブリンが見えるでしょ?

 現実になったせいか、ダンジョンじゃないせいか。


 死体が自動で消えてないのでオカシナ光景に。


「私の弟子は凶暴である」


 それにこの場もナギによって、あらかた片付き始めている。僕はポーションケースを渡して、怪我人の治療も頼んだ。

 いいからいいから、お礼とか良いから。


 さっさと帰るのです。

 今すぐ!

 早く!


 経験値がもったいないんだってば。


 EXPエリアコントロールみたいなスキル、生えないかな。

 そしたら独占できるのにね。

 経験値を。


 僕は強欲ですので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る