04 童子

 スッキリして、グッスリ寝て、バッチリ目覚めた僕。

 鏡を見ればいつもの眠たげな眼だけども。

 心身ともに充実している今日の僕がやることは、ガッツリ経験値稼ぎ。


 それもゲームの知識を利用した、インチキな裏技的なもの。なんでかって言えば勇者マノンが魔界に来るまでは、表に現れることのないダンジョンで稼ぐからだ。

 今の段階だと僕だけが知ってるダンジョンだしね。


 まあ、まだダンジョンになる前のよどみで、ダンジョンマスターも知らない場所。だから正確にはダンジョンじゃあないんだけど、どうせダンジョンになるからダンジョンで良いってことで。


 知識と偽装や隠蔽のレベルがあるから、生まれかけのダンジョンを看破できた。もちろん僕以外が利用できないように、隠したままの状態にしてある。


 このダンジョンでは魔王の魔力で生み出される魔物だから、強いし経験値も多い。なので僕にとってはオイシイ狩場となっている。


 今のレベルじゃ厳しい敵も、見つからないように注意しながら倒してたから暗殺術のレベルも、それなりに高くなってきているよ。

 特に狙ってはいなかったので嬉しい誤算ってヤツだ。


 とはいっても、ネムの適正は精霊魔法士だ。

 HPは普通より少し多い程度。VITも高くはない。HP、STR、VITは後回しになっても、仕方ないといえば仕方ないかな、と。


 ステータスがカンスト近くになるまでは、僕のことは魔法士として育成するべきだと考えている。

 でもなあ、暗殺も組み合わせたら強いし、少しずつでも強化しようか迷う。


 マジックアイテムで足りないステータスを補完するのもあり、か?


「精霊ももっと使役したいし、欲しいものだらけで困るね」


 精霊の適正は木、風、水の3つ。だけどそれ以外の精霊が使役出来ないってわけじゃない。

 チャンスがあれば、どんどん狙うべきだろう。


「いた? オッケー」


 使役している風の精霊から、敵の位置を教えてもらった僕は暗殺者らしく静かに目標に近づいて確認した。

 オイシイ獲物、レッサードラゴンだ。


 僕は現代知識や暗殺者方面の知識を、精霊たちと共有している。なので水の精霊には猛毒を霧状に生成してもらった。そして風の精霊が毒霧を獲物に向かって運ぶ。

 少し待てば死にかけのレッサードラゴンの出来上がりだ。


「ジュカはごめんね? ここ、遺跡型だからさ」


 木の精霊は遺跡型のダンジョンでは力を発揮できない。使ってもらえなくて本人にはガッカリされてしまうけど、こればっかりはどうしようもないんだ。

 魔力ゴリ押しでイケなくもないけど、効率が悪いから諦めてくれ。


 木の精霊は根樹華コンジュカ童子。

 風の精霊は気浮凪キフナギ童子。

 水の精霊は泡波波ホウハパ童子。

 酒呑童子しゅてんどうじみたいなカッコいい感じで名付けした。


 でも呼び辛かったので、結局はジュカ、ナギ、ハパに落ち着いちゃったのです。

 ま、まあ、本名は他人に知られないほうが、魔法的に縛られないからイイんです。

 本人たちも喜んでくれたので、イイんです。


 精霊たち、大物相手には頼ることになるしな。

 暗殺者のスキルは対人戦には良いんだけど、大型の魔物なんかには攻撃力が足りないから、精霊魔法で対処するスタイルだ。


「順調順調」


 さすが魔王退治する前に稼ぐダンジョンだけはある。オープン前からレッサーとはいえ、ドラゴンが出てきてくれるのは本当にありがたいことだ。

 魔王様には感謝感謝だね。糧と素材になってもらおう。


 ダンジョン攻略はプレイヤーにとって時給の高いバイトみたいなもの。

 しかし今はMOBにもなれなかったザコのネムである僕。

 油断は大敵なので、シナリオ開始前にガッツリ稼ごう。


「ジュカ、樹皮の肌バークスキンを僕に」


 マノンがどのタイミングで魔王退治を始めるか分からないしね。

 それに──


「ナギ、二酸化炭素の檻。ハパは毒水の檻。2人は各個撃破」


 ──魔王はプレイヤーキャラじゃないと倒せないと思う。いわゆる"勇者の力"ってヤツが必要という設定だから。

 なので魔王退治はマノンに頑張ってもらうしかない。


 退治後はどうなるのか、ってのも気になるかな。

 プレイヤー同士の戦争パターンになるのか。

 別の魔王が台頭するパターンか。


 PvPだったりPvEだったり、プレイヤーの選択次第で状況が変わるゲームだった。

 現実になったこの世界でも、勇者の選択次第ということなのだろうか?

 PvPサーバーやPvEサーバーがあるわけでもない。


 これは今考えても、どうにもなんないか。


もう一人の自分ワンモア


「「グギョアォォォォッ」」


 暗闇に潜伏していた僕は隙を見て分身し、オルトロスの頭に同時攻撃。短剣にはハパ製の猛毒が仕込まれてるから、これで終わりだ。


「そろそろ装備のアップグレード、しよっかな」


 2週間稼ぎまくってダンマスのところに向かった。ダンマスは稼働してるダンジョンのマスターだ。レッサードラゴンとか悪魔とかその他もろもろの素材を渡して、アイテムやお金に交換してもらう。


 竜骨の短剣2本   :DEX+5% 破損耐性

 竜皮のブーツ   :DEX+5% 耐土+5%

 飛竜のマント   :耐火+10%

 水晶の首飾り   :HP+10%

 悪魔の髪の腕輪  :STR+10%

 紅目玉のイヤリング:VIT+10%


 魔王軍スタート、楽かもしれないなあ。だってダンジョンマスターと取引できるんだし。

 シナリオ開始前に中盤クラスの装備になったよ。


「ありがとうございました」


「励むが良い」


「はっ。失礼します」


 もちろんマノン用の装備も、シナリオ開始前に中盤クラスのものになる。僕と同等の品を交換した。彼女は勇者なので武器はロングソードだけど。

 追加で偽装アイテムも。


 悪魔の瞳のネックレス:偽装+20% 潜伏+20% 隠蔽+20%


 ダイジョブ。ネックレス自体にも偽装効果があるからキモくない。

 そしてこのネックレスが一番の高級品だ。

 魔王退治を目指す稼ぎ場用のダンジョン、高収入っ!


 ラストレガリアのこの世界。

 ダンジョンは魔王軍の管理下にある。

 魔界と人間界を繋いでいるのがダンジョンで、稼げる通路だよ。


 魔王軍と王国軍。どっちの陣営も、ダンジョンを使ってバイトしているのだー。

 稼げるからね。

 魔王サマ──実は親切説すらある?

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