オープニングで勇者に殺されるザコ暗殺者のエルフ少女に転生しちゃったので、その前に勇者ちゃんと仲良くなっておこう ~悪役転生はキビシイです。フラグはどっか行ってください~

ヒコマキ

01 末永く利用させていただきたい所存でございます。

 転生してからこの1年、僕は冒険者と偽って"主人公"の住む村に何度も滞在している。名目はこの地域の調査っていう適当なものを捏造中です。

 この地域の植生は、なぜか効果が高いのも儲けものだった。


 主人公で"プレイヤーキャラの勇者"が住む場所だからだろうか?

 主だった都市や街から距離のある村。

 一般人なら半年くらいかかるような、そんな村。


 僻地過ぎだよね。


「隙あり!」


 まさに隠れ里といった雰囲気。

 でも特に凝った設定はありませんよ、っていうそんな村。


「ありませんが?」


 修行にちょうどいい枝でペシィと勇者ちゃんの腕を叩く。


「いたーっ」


 勇者マノンが16歳の時のイベント。

 僕が村人全員を毒殺したあと、覚醒した勇者マノンが僕を殺して、決意と共に村を焼いて出て行くだけの場所だ。


 マップの端っこに作っても仕方ないのかも?


「もー、せんせーに勝ーてーなーいーっ」


「当たり前です。だから教えているんですよ、マノン」


 のちの勇者だけに筋は良い。まだ11歳だしステの数値が足りていないだけ。

 勇者マノンに剣の修行を付けている僕はというと、チート能力で強化しております。今の勇者ちゃんに修業を付けるくらいは問題ないよ。


 まあレベル毎のステータスポイントを自由に振れるので、そのおかげもある。


 魔王軍側には設定されてなかったからか。

 僕が元プレイヤーで、知識を持っているからなのか。


 理由は分からないけど、ゲーム内のメニューがスキルとして僕に生えたんだ。メニューを開くとインベントリ、ステ振り、スキルツリー、キャラメイクが使えるようになっている。


 これのおかげで僕の未来は、かなり明るくなったかな。


 僕にペシィされて木剣を落としたマノンが、ダッシュで殴りかかってきた。

 受け止めて抱っこする。


「今日はここまでにしましょうか」


「はーい。ね、ね、水浴び行こ? 先生」


「そうですね」


 村の側に流れてる川に行き、覗き対策に風の精霊を呼んで見張りをお願いした。

 木の精霊には壁を作ってもらう。

 水の精霊には温度を調節してもらって、川を露天風呂にしちゃうのだ。


「みんなありがとう」


「精霊さん、ありがとう!」


 お転婆勇者のマノンが脱ぎ散らかした服を畳んで岩の上に置き、僕もお湯になった川の中に入る。さっき散々訓練したのに元気だなあ。

 今は水の上を走ろうとしてるよ。


「マノン見て、ほら」


「えぇっ? なんで? どうやって立つの?」


「私は水の精霊さんに頼みました。はい」


「やったっ」


 マノンも水の上に立たせるよう、水の精霊に頼んだ。

 お風呂の上に立ったら意味がないんだけど、楽しそうだからまあ良いか。

 ダッシュして、ヘッドスライディングしながら近づいて来るマノンを抱きとめて、お湯に浸からせる。


「遊んでないで汗を流さないと」


 勇者マノンの暗殺。

 それがネムというキャラになった僕への任務。


「あひひひゃひゃっ、こ、こちょっこぅひゃーだめー!」


 その指令が出されるまで、あと4年半。

 それまでの間に魔物を倒しながら、魔力操作と総量を上げる予定。まあ、僕は暗殺任務をスルーするつもりなんだけど。


 村人も殺すつもりはないしね。

 そうなると勇者マノンが覚醒するかどうかは分からなくなる。


 でも覚醒勇者になると、かなり強くなるからね。死亡フラグ回避のために色々仕込んでおかなくては。

 だから念のために時間をかけて、この村の全員と仲良くなっておきますとも。


 この世界では病弱だった前世と違って、死亡フラグを回避できるはず。

 シナリオをしてるからな。

 今度の人生は生き残ってやるさ!


「マノーン、ネムちゃーん。ご飯にしませんかーっ」


「食べるー!」


「ご相伴しょうばんにあずかります」


 呼びに来たマノンの母親に、ご馳走になることを伝える。

 この地方の植生は効果が高い。

 つまり──ステータス的にもオイシイのだ。


 勇者のための食材だよね、絶対。

 この村は僻地だし、魔物なんかもよく出てくる。だけど村人の戦闘力も食べ物のおかげで高い水準なんだよな。


 冒険者ランクで言えばC級が5人、他の人もD級はあるって感じか。とはいっても戦士って感じではなく、狩人系だから対人戦はそれほどでもないかな。

 マノンは既にD級上位クラスの前衛職にはなれるね。


「バランス良く食べなさい」


「先生、ニンジンは許してぇ」


「ネムちゃんがマノンのママになろうとしてるわ」


「しっかり者だねえ」


「い、いえ、そういうわけでは」


 僕はちゃんと理由を話した。


「極秘にしておいたほうが良いと思います」


 この地方の食材は、身体能力が上がるということを。商売して壊滅したら僕も困るし。

 末永く利用させていただきたい所存でございます。


「ねえねえ、先生。私も──」


 モグモグしながら、僕のフィールドワークに付いて行きたいと、一生懸命おねだりしてくるマノン。

 冒険者になりたいと、ずっと言ってた。


 んー……そうだなあ。

 そろそろ実戦を経験させてもいい頃合いだと思うけど。


「私的には"あり"です」


 チラリとマノンのご両親を見ると、2人とも頷いた。


「お願いしてもいいかい? ネムさん」


「ネムちゃんが付いててくれるなら安心よね」


「やったー!」


「分かりました。それじゃあ次回こちらに寄らせてもらう時にでも」


 もう帰る予定だしね。

 それにマノンの装備もある程度は用意してあげないと。


「それじゃ、修業はサボらないように」


「ちぇ、先生も一緒に暮らせばいいのに」


「フフ、ではまた来月」


「絶対だよ!」


 来るさ。死亡フラグを壊すためにね!

 この辺りの食材も、集めておいて損はないんだしさ。


「マノンの力量を見て、お土産のレベルが変わりますからね」


 僕はそんな忠告をして、魔界に戻ることにした。

 次来る時は砂糖かハチミツでも買って来ようかな?

 グレープフルーツが酸っぱいから食べずらいし、甘味はみんなも喜んでくれると思う。

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