02 目指せゆりゆりルートへの道。

「いまだ発見できず──か」


 魔界に1週間かけて戻ってきた僕は、上司に報告中です。

 もちろんウソの報告だけど。


 今の段階でマノンの暗殺してしまっても、死亡フラグは回避可能だとは思う。だけどねえ……僕は勇者マノンが好きだから、そんなことをするつもりは全然ないんだ。


「は。申し訳ございません」


「良い。勇者の力が微弱がゆえに仕方あるまいて」


 16歳になったマノンは、それはもうカワイイ。キャラクタークリエイト機能があるゲームだっていうのに、マノンのままでプレイする人口が多かったくらいだしね。

 僕自身もキャラクリしないでプレイしていたよ。


 だからマノンの暗殺はしないし、仲良くなる方法を選んでると言って過言ではないのだっ。そして僕が転生してしまったネムというキャラは無表情キャラで、可愛らしいマノンとの対比が素晴らしいオープニングだった。


 中身の僕はニヤニヤが止まらない状態になってるんだよね。

 困ったことに。


 なのでキャラの表情の設定は、ポーカーフェイス寄りにしてあります。自分じゃ表情のコントロールが、できないと思うので。


 二次創作的なゲフンゲフンルートをオホンオホンです。


「あの王国であることは確実なのですよね?」


「うむ。ネムよ、引き続き勇者の捜索に当たれ」


「ははっ」


 魔王軍絶対殺すマンになる前に見つけたらいい。可能だったら暗殺も視野に入れること。ってそんな感じで上司から任務が言い渡された。僕は了解の意を返して自室に向かう。


 誤魔化し終了。


 油断はできないけど、良い感じで魔王軍を騙せてるんじゃないかな?

 僕の強化もコミコミで、順調に死亡フラグ回避は進んでると思ってるけど……どうかなあ。


 目指せゆりゆりルートへの道。


 そのためには村も滅ぼさないようにしなくちゃね。

 失敗するわけにはいかない。

 命が掛かってる僕自身のためにも、この世界で楽しむためにも。


 僕が転生した"ラストレガリア"は、失われた秘宝のレガリアを求めてプレイヤーが奮闘するゲームだ。


 バトル、クラフト、開拓、陣地を発展させて国の運営などなど。

 秘宝のレガリアは神々が創った物という設定で、プレイヤーの作った拠点全体にバフのかかる壊れアイテムだった。


 勇者はそんな世界に湧く、プレイヤーキャラのこと。

 勇者マノンはプレイスタイルが決まっていない初心者用のキャラだ。


 ステータスの成長率が平均的だからな。

 どんなプレイスタイルにも合うんだ。

 あと凄く魅力的なキャラ。


 勇者マノン。

 LV毎に──HP35 MP15 STR3 VIT2 INT2 DEX2 AGI2


 一方ネムである僕の成長率。

 LV毎に──HP20 MP20 STR2 VIT1 INT3 DEX2 AGI3


 プレイヤーごとに湧く場所は変わるけど、勇者マノンの場所だけは固定されていた。ティザームービーにもなってたし。

 場所が分かってるから、僕は転生したあとすぐにマノンのところに向かったんだ。


 前世の記憶と共に、診療所で目覚めたネムである僕。

 エルフの女の子になってるし、魔王軍の暗殺者だったし。っていうことがネムの記憶で分かったんだよ。


「ネムが頭を打った瞬間に、僕が死んで転生したんだろうか?」


 そこら辺は分かんないね。

 とにかくネムは勇者捜索、および暗殺任務のための訓練していたみたいだ。

 その記憶でさ、ンッ? ってなったんだよね。


 魔王軍の暗殺者で、勇者暗殺の任務。倒したことのある敵幹部。


 自室に戻った僕は鏡を見て気付いたさ。

 マズイってね。マズイって言うか、アカンって言うか。

 だって勇者を殺しに行って、返り討ちに合うキャラだし。


 毒で村人全員を殺して勇者も、って時に勇者が覚醒する。

 つまり僕は死ぬ訳さ。

 ラストレガリアのオープニングムービーでね……。


 僕が転生してしまった、このネムというキャラ。ゲームスタートした時点でもう死んでるんだけど、カワイイからわりと人気があったんだ。

 二次創作界隈でも盛り上がってた。


 チュートリアルちゃんって……ね。


 僕もこのキャラは好きで、オープニングムービーを見るためにゲームを起動した覚えもあり。


 するとどうでしょう!?

 なんでか僕に死亡フラグがっ!


 死んで、目覚めて、その直後に死亡フラグに気付くとか。

 泣けるじゃあないか……。


 僕はプレイヤーのためのコンボ練習台という役割で、この世界には参加しないと誓っているっ。


 前世の死亡フラグだった病気、僕は回避できなかったことは転生したことで理解できた。

 だからこそ、今度は絶対に生き残ってやると頑張ったんだよね。

 死亡フラグの回避。


「これはゲームの知識とチート能力のおかげかな。正直助かったよ」


 もう僕がマノンに殺されることはなくなったと、思っていいんじゃないかなって考えてる。あとはどれだけ魔王軍を誤魔化せるかだな。

 僕の強化は魔王軍に滞在してるほうが、ダンジョンを利用しやすいので。


 なるべく早く最強を目指さないとな。マノンに殺される心配はなくなったとはいえ、覚醒勇者と同じくらいにはならないといけない。

 当然、敵だって強化されていくしさ。


 僕的に魔王軍を裏切る未来は決定してるんだから。


 僕がマノンの村にレガリアを使って、最強の国に育てるのもありかなあ?

 あの村のご飯は捨てがたいよねえ。ステ強化食材をふんだんに使ってるから。でもそのためにはランダムに発生する、レガリアを探し出さなきゃいけないけど。


 そういえば転生して驚いたことがまだあった。名前が設定されてたんだよな、このキャラ。ネムって名前、絶対眠たそうな目のせい。

 チューとリアルのトリアルちゃんじゃなかった。


 というかなんで暗殺者なんだ?

 運営の趣味なんだろうか?

 エルフなんだし、どう考えても精霊魔法士が適正クラスじゃん?


 実際のところ、フィジカルの伸びはいまいちだったから、僕は魔力操作とか魔力増強とかの方面で伸ばしてる。

 精霊も使役できたし、これが正解だと思う。


 なんて考えながら歩いてたら、鬱陶しいヤツが正面から歩いてきた。


「よーぅ、ネム。相変わらずメスの臭いさせてんなぁ」


 ゴブリンジェネラルのナントカ君。

 ゴブリンたちはなあ……メスなら何でもいい感じの種族だから面倒なんだよ。人型はもちろん、四足歩行の動物でもオッケーっていうヤツら。


 生まれてくるのも全部ゴブリンだし。


 ファンタジー世界の住人というより、SFのクリーチャーを感じちゃうよね。

 僕は普通に女の子と致したいので、僕を候補に入れるのはやめてくれ。

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