32 「お願い……先生」

 休憩中に武器の変更をありにするか、マノンに聞いてみた。硬いとか重い魔物相手にはロングソードは不利だから。盾持ちやハンマーならノックバックもやりやすいし。


 大剣なんかはどっちの役割も、ある程度はこなせる。

 DEXが高ければ誘発もしやすいし。

 重さも大きさも攻撃力だ。


「盾とか大剣は良いとして、鈍器かあ」


 盾を持つとか大剣にチェンジは、動き自体も変わってくるしなあ。

 ロングソードと似た動きならメイス系。

 メイス二刀流なら破壊力は抜群だと思うけど。


「正直に言えば、マノンには似合いませんね」


「憧れも……ないからなあ」


 ロングソードとシールド。

 定番だけどカッコいいと思う。だというのに、マノンには受け入れてもらえなかったんだ。


「色んな状況に対応可能ですのに」


「だって先生の二刀流がカッコいいし」


 それを言われると先生は弱いんですっ。


「では装備の強化という方向で」


「先生は変えるの?」


「私はすでに暗殺者から精霊魔法士に変えてますよ」


「武器じゃないし」


 うん。武器変えるなら短剣から杖だろうね。

 でも剣技が好きなので、このままいくつもり。マノンからのお褒めの言葉をいただいて、こっそりニヨニヨもしたいし。


 精霊の力でバフも問題なく短剣に付けられるし、少し効力が落ちても問題ないくらいにはステータスを上げるのだ。

 上げればいいのだ。


 方針も決まったので明日のために休息にしますか。

 結局はレベルを上げて物理で殴るってさ、何事にも真理なんじゃないだろうか。


水の精霊ハパ、洗濯浴槽を」


「世の中で私たちだけが快適過ぎる気がしてるよ、先生」


「快適なら良いでしょう?」


「良いけど……冒険とはなんか違う気もするっ」


 マノンは臭い系女子になりたいのかね?

 僕は全力で拒否するよ?

 嫌がったって強引に洗濯浴槽をフィットさせてやるのだ。


 まあ、嫌がってはいないんだけど。


「あぁあぁぁぁあぁぁあぁあぁぁ」


 マッサージ付きのお風呂だ。

 身も心もほぐされて、リラックスしてもらう。

 もちろん僕もほぐされてリラックスタイム。


 ネムのキャラには合ってないので「あーーーーー」は言わないけど、心の中では温泉に浸かったオッサンのように声を出している。


 む? マノンが「あーー」とか言ってるってことは、女の子もオッサンの心を持ってるってことなのか?

 マノン以外とお風呂に入ったことないから、知らないんだけど。


 そのうち温泉にでも旅行してみよう。

 真実は温泉にあるはずだ。


「そのまま仮眠取ってもいいですよ」


「んーん、先生とぉぉ、一緒にぃぃぃ、ご飯食ぁぁべぇるぅうぅぅ」


 2人とも睡魔に耐えながら5分ほどの入浴と洗濯をハパにしてもらった。

 精霊さんは凄く便利だ。

 服着たまま全部綺麗になるっていう、未来を先取るファンタジー。


 木の精霊ジュカは住居を作ってくれる。

 水の精霊ハパはお風呂に洗濯に飲み水にも。

 風の精霊ナギは快適な温度を約束してくれる。

 闇の精霊ヤヤは高ぶった精神もリラックスしてくれるよ。


 手放せない大切な仲間だね。

 感情があるのかどうかは分かんないんだけど、一緒に楽しんでくれてたら嬉しい。


 食事を取った後は就寝。ジュカが守っているので2人とも寝たって大丈夫だ。ハパの人の体温ウォータベッドへ、マノンと一緒に寝転がる。

 室温はナギにお任せで、リラックス用ダークネスをヤヤに掛けてもらった。


 マノンのぬくもりは感じても、ここはダンジョン。

 ぬくもり以上は求めてはならないのだ。

 チョット寂しくてもダンジョンだから仕方ないのだっ。


「エレベーター、欲しいね」


「そうですね」


 マノン的にも寂しいだったら嬉しい。


 翌朝、マノンが宣言した。


「今日からはマッピングを優先しようと思うんだ」


「構いません。その理由は?」


「今回の探索ではマッピングに集中しようかなって」


「フム」


「でぇ……一回帰って、リフレッシュして、次の探索でレガリアを探そうよ」


「フムフム、メリハリを大事にするということですね?」


「そ、そゆことっ」


 なんかモジモジしながら言ってるから、マノン的にも寂しいだったようです。

 先生は嬉しい。

 とても。


 一緒に寝たのが女子の心のナニかに、火を点けてしまったようだ。

 僕も含めてだけど……。


 抱き合ったのがマズかったしれない。

 いや、絶対良くない。

 好きな女の子の体温と匂いは良くない。


 忍耐はツライノダ……。


 僕たちは怒涛の勢いでマップを埋めた。マップ埋めの鬼と化した。11層から20層まで6日間、マノンレーダーで怪しい雰囲気の場所にはチェックを記入しておく。

 そこまでやってから、2日かけてダンジョンから帰還。


 エレベーター欲し過ぎ問題。ただこればっかりは、どうしようもないな。管理側にならないといけないし。この国で暮らすなら魔王を倒して奪っちゃえばいいんだけど、僕の拠点はマノンの村って決めている。


 冒険者ギルドに帰還の報告をする。

 マップの提出は清書したものを出すので、まだ未提出。隠し部屋候補の場所に印が付けてあるし、確認もしてないからな。


 帰宅したら僕たちは、すぐにベニを眠らせ……ちゅっちゅの民になった。

 精霊力も全開である。


「先生のえっち! あんなの……あんなのっ!!」


「マノンだって私にしたじゃないですか!」


「だ、だってぇ……先生にも気持ち良くなって欲しかったし?」


「アッ、ま、待ちなさいマノッんんっ」


 幸い2人ともVITは一般人とは比べ物にならないので徹夜も平気。

 意味深な徹夜だって問題は──ない。

 お布団は予備を買うことになったけど……。


 僕が優位に立てたのは2回戦目の時だけだった。

 引き分けは4回戦目。

 1、3、5、6は全部負けたことをここに記す。


「先生の『もうゆるして』は破壊力抜群だった……」


「言わないでくれませんかね!?」


 マノンの「お願い……先生」だってスゴイんだからさ。

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