14 勇者のアジテーションが発動した。

 ロープでグルグル巻きにして捕縛しているチンピラ団に、お話をうかがった。厄介だというチンピラボスのことを。


「お前が言う暴力も経済力も権力も、持ってるお方なんだよ」


 簀巻すまき状態だというのに、ニヤニヤしながら自慢げに教えてくれた。

 Bランクの冒険者で、5日後には戻ってくるから覚悟しとけって。


「Bランク程度で無法な振る舞いを咎められていないとなると──貴族ですか」


 チンピラボスのお名前と、ご住所を聞き出しておく。聞いたところ、どうやらボス自身が率先して他人のものを奪ったりするタイプのようだし。

 それならダンジョンに籠る冒険者っていうのは好都合だ。


 魔王軍の僕はダンジョンが便利に使えるからね。ダンジョンから出てくれば、僕たちに絡んでくるだろう。チンピラ団が報告するって僕の前で騒いでるし。


「──様はこのギルドのトップパーティなんだよ!」


「へっへ、お前らも飼われることになるぜ」


「こんなのばっかりなんですか?」


 チンピラを引き取りに来た憲兵に聞いてみたら、憲兵は頷いた。

 コイツらの主が戻ってくれば、すぐに釈放することになると言って、チンピラたちを連れて行った。


「ダンジョンで狩場を独占している。5日後の帰還予定で、サブパーティと2つと一緒に潜っている、ということですか」


 Bランクのチンピラボス貴族1、パーティメンバーは手下のCランクが3人。

 サブパーティ1はC4人。2つ目はD4人。

 ってことか。


「たいした戦力ではありませんね」


「でも私設軍って言ってたよ?」


「それでもさっきのチンピラ程度なんでしょう」


 サブパーティの1つがDランクばっかりみたいだし。

 Fランクかと思ってたのに、Dランクだったんだよなあ。なんか思ったよりも王国民の戦闘力が低い。


 やっぱり魔王軍の襲撃をいくつか潰したのがマズかったんだろうか。特にパーティメンバー候補の子爵家襲撃を回避したからな。

 貴族一家が無事だったせいで危機感が減ってしまったのかも。


 マノンの練習というか実戦用にも、魔王軍の襲撃を利用したし。

 このままじゃ王国の冒険者が弱いままだ。それだと魔王軍と王国のバランスがとても悪い。


 どっちも便利に使える状態が良いからな。

 他所の魔王に王国が蹂躙されても困るし、マノンの故郷がある国だからね。僕が拠点にするのなら、あの村が良い。


「夕飯を食べながら色々と相談しましょうか」


「私、お腹ペコペコだよ」


「焼き肉パーティにしましょう」


 そんな風にわりと暢気な僕たちは、ギルドにいる人から変な目で見られた。


「問題ありません」


 問題しかねーんだよっていう心の声が聞こえた気がする。


「ダイジョブ! 先生がいたら──いつでも、なんでも解決するんだからっ!」


 人々に勇気を与える勇者の言葉。

 勇者のアジテーションが発動した。

 なんか使い方が間違ってるような……?


「お肉を食べて元気を付けようっ!」


 お肉をマジックバックから出しまくるマノン。

 違うよな!?

 安心とお肉を提供する勇者のアジテーションに、僕は驚愕するしかなかった。


 ゲームじゃないマノンは天然なのかもしれない。


「ねー、先生。柚子胡椒は残ってる?」


「残ってます……」


 とりあえず帰宅しようか。


 ゲームでは悪徳貴族が狩場を独占、そんな話はなかった。シナリオが変わったのか、王国サイドで処理していたというシナリオはあっても、冗長と判断されてなかったことになったか。それはプレイヤーじゃ分かんない。


 レガリア探しの邪魔になるし、消えてもらおう。

 ダンジョンなら誰かが消えても証明できないし。

 多少不自然でも、戦闘が発生する場所だから。


「マノンはどうしますか?」


 ジュ~。


「悪い人ならやっつける!」


 ジュジュッジュ~。


 初心者には、いかにも悪者な山賊なんかがベストだろうけど……大丈夫かな?

 悪人とはいっても貴族だから、見た目も清潔な可能性があるよ。もしマノンが戸惑うようなら、僕が処理してしまおう。


「甘いです」


 カチャチャッ。


「先生のガードは硬いなあ」


「それは私が育てているお肉。譲りません」


 師匠と弟子が、お肉の取り合いをするのは様式美だって教わっている。

 なにが様式美なのか分かんないけど、その師弟もお肉が食べたいだけなのではないだろうか。


「もうちょっと食べようよ」


 僕たちも食べたいだけだし。

 じゃれてるだけだし。

 2日後の決行に向けて、力を蓄えるのだ。


「そんなにすぐ見つかるの? ダンジョンの奥地だったら移動にも時間が必要だし」


 出発は明日でも良いんじゃないかって、マノンは提案してくる。

 早くダンジョンに行きたいんだろうな。

 しかし僕は魔王軍所属の暗殺者。


「ダンジョンは魔王軍のものですので、私たちは便利に使います」


 階段なんてまどろっこしいものは使わない。

 エレベーターが使えるので。


 探し物がある?

 ならば検索機能だ!


「便利でしょう?」


「何それズルイ! 魔王軍ズルイ!! 神様の試練じゃないの? ダンジョンって」


「試練と言えば試練かもしれませんね」


 魔界から魔王軍をポコポコ吐き出す出入り口だし。

 人間界の栄養素を魔界に取り込む出入り口だし。

 魔王軍管理で運営してるよ。


 ダンジョンに湧く魔物もお宝も、人間界からの栄養素でダンジョンマスターが作ってるよ。

 なので魔界は損していない。


「悪徳貴族どころじゃない悪徳さだよ……先生ぇ」


「魔王軍は侵略者ですし」


 そういう設定だから僕のせいじゃない。


「魔界は荒廃した世界です」


 世界のバランスを取るために、平均化しようとしているのかも。どっちかが消えると、どっちも滅ぶのかもしれない。

 だから熱湯と水を混ぜてぬるま湯にする、みたいな動きになっているのかも。


 神様の考えることは、人には難しいね。


 っていう理由をでっち上げて説明した。

 だってそこまで設定されてなかったはずだし。


「じゃあ魔王を倒す勇者の使命って何なんだろう?」


 使命なんて設定されてないよ。

 僕が村人を皆殺しにしたから、仇討するのが勇者マノンのシナリオだし。

 そしてそんな現実は回避した。


「魔王も色々産まれますしね。勇者はカウンターということでしょう」


 そういうことにしておいて。

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