五の七(第二部完)
「なめるな、小娘ども!」
叫んで、道風は体からアルマを放出させた。
三人は吹き飛ばされ、ヘリポートの端へと転がって行った。
道風がすっと浮きあがる。
ヘリポートからさらに二、三十メートルも上空に、白い服をまとったその体が浮かぶ。
手のひらが、天空に向けて差し上げられ、その先に黒い塊が形成されていく。
「あのブラックホールが世界を破滅させる前に、お前たちを消滅させてやろう」
「そんなことは、させない!」
あぐりはもうこまかいことはなにも考えていなかった。
ただ、自分と友達を守ることしか頭にはないのだ。
そして、その想いをアルマにし、全身にまとわせ、怨敵に向けて飛びあがる。
まとった薄紅色のアルマは鳥の形になり、夜空にはばたいた。
道風が手を振り下ろす。
「ダークマター!」
黒い、十数メートルの直径の塊が、突っ込んでくるあぐりにむけて放たれた。
黒い塊があぐりと激突する。
「うおおおおおっ、負けない!」
あぐりの叫びにこたえ、ヘリポートから紫と小町が、あぐりへアルマエネルギーを注ぎ込む。
「「うけとれ、私たちの想いの力!」」
そそがれたエネルギーを得て、あぐりのまとうアルマの鳥が、鳳凰のように巨大化していく。
そして、ダークマターが鳳凰の放つアルマエネルギーに耐えきれなくなり、砕け散った。
「ばかな!」
道風が叫んだ時には、すでに鳳凰がその体に激突している。
「おのれぇぇぇぇぇッ!」
「うおおおおおおおッ!」
道風の叫声と、あぐりの気合い声が混じりあう。
凄まじいエネルギーの突撃に、道風ははじき飛ばされた。
その体は、三百メートル向こうの、名津岐駅ツインタワーのいっぽうのビルの屋上までふっ飛ばされて、その屋根を打ち砕いてとまった。
薄紅色の鳳凰はぐるりと夜空を駈け、I.G.A.S.タワーのヘリポートへと舞い降りる。
「あとはあれをなんとかしないと」
まとったアルマを収束させ、あぐりは夜空を見上げた。
紫と小町も空を仰いだ。
三人は息を飲んだ。
夜空でもはっきりとわかるほどの暗黒の球体が、仰ぎ見た先に浮かんでいる。
それは、さっきよりもさらに大きく成長しているようだ。
「なんだかんだと考えている暇はないわ!」
あぐりの声に、ふたりがうなずいた。
「とにかく、私たちの目いっぱいのアルマを、あのくそったれブラックホールにぶつけるしかないな!」紫が言う。
「アルマで作ったブラックホールなら、アルマで消せる!やりましょう!」小町が言う。
そして、三人が同時にうなずいた。
三人の少女が、天を刺すように高高と両手をブラックホールへと向けた。
「とどけ!」
「私たち全力のアルマ!」
「悪しき野望を打ち砕け!」
あぐり、紫、小町が叫ぶ。
「「「はあ!」」」
三人は同時に、その両手からアルマの砲弾を放った。
ピンク、青、黄色の砲弾は長い尾を引き、大気を引き裂き、天蓋をつらぬき、すでに宇宙空間に到達しているであろうブラックホールに突き進む。
三人のアルマが、ブラックホールへと到達した。
ブラックホールは、アルマに押されるように、その形状をゆがめはじめた。
「「「砕け散れ!」」」
三人は、さらにアルマを増大させ、送り込んだ。
アルマ弾は巨大化していき、やがて、ブラックホールすらも凌駕するほどのサイズへとふくれあがった。
「「「はあああああっ!」」」
気合いの叫び声が響きわたる。
ブラックホールはアルマの弾丸に飲み込まれ、その質量を一気に縮小させていった。
三色のアルマの弾丸が空に弾け、オーロラのように夜空に輝いた。。
アルマの虹がやがて消えた夜空には、すでに、暗黒の穴は消滅し、おだやかな、いつもの星空が広がっているのだった。
三人は、目と目をみつめ、そして抱き合った。
感動と、悪を打ち破った達成感と、戦いが終わった安堵とが混じりあい、笑い、称え合った。
ビルの屋上に流れる、三人の少女のはじけるような姿と美しい声を聞きながら、犬のアオイは満足げにほほ笑んだ。
この世界を救った純真な少女たちに、
アオイはそう願わずにいられないのだった。
(つづく)
天煌装忍アルマイヤーF(第二部) 優木悠 @kasugaikomachi
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