五の三

 I.G.A.S.タワーの正面入り口は、なんなく開き、三人と犬一匹は一階エントランスホールへと足を踏み入れた。


 そこは三階までは吹き抜けになっていて、正面に受付、左右にエスカレーターやエレベーターがあった。


 が、その広大な空間はまったくひとけというものが感じられず、空虚で閑散として、不気味な静寂に包まれていた。


 セーラー服姿の三人は、さてどうしたものかと、ぽかんと辺りをみまわすのだった。


「誰もいねえな」紫が生唾を飲み込んで言った。


「残業してる人とかいないのかしら」あぐりはちらりと時計を見た。


 ホールの正面にある金色のアーティスティックで大きなアナログ時計の針がさしているのは午後八時十三分。


「いくら終業時間を過ぎているとはいえ、ここまで人の気配がないということがあるのかしら。こんな大企業なのに」小町も首をかしげる。


「まあ、残業しない方針の会社なんじゃね?」紫が安直に答えを導き出す。


「警備員の人もいなさそうよ」あぐりが言った。


 と、小町が何かに気がついたように、


「人じゃない警備員というのもありそうよ」


「え?」とあぐりが小町に振り向いた瞬間であった。


 小さな、しかし静寂をやぶるようなモーター音が数カ所から聞こえてきた。


 三人があたりをみまわすと、どこからか、赤い色の半球形状をした高さ五十センチくらいの物体が、わらわらと三人に向かって近づいてくる。


 おそらくその丸い体の下面についている駆動輪で動いているのだろう、床をタイヤでこする走行音をキュルキュルと鳴らしながら近づいてくるのだ。


 またたくまに、十数機の丸い物体に三人は取り囲まれてしまった。


「セキュリティーロボのようね」小町が歯噛みするようにつぶやいた。


「どどど、どうしよう」あぐりがとまどう。


「どうしようもこうしようもねえ、ぶっ倒して突き進む!」紫がふたたび安直に答えをだす。


 ロボの体の正面についているカメラが緑色に光る。


 いくつもの緑の目が無機質にあぐりたちを見つめてくる。


「しゃくだけど、紫ちゃんの言う通りかもしれないわ。変身しましょう」


 小町の言に、


「うんっ」


「おおっ」


 あぐりと紫が応じる。


「「「アルマイヤー、トランスポーテーション!」」」


 声を合わせて唱えると、三人はピンク、青、黄色の光をはなって変身した。


「突撃!」


 紫の合図とともに、三人が走り始める。


 自分たちに向かって来る不審者を警戒するように、セキュリティーロボの目が赤色に変化し、頭の頂点部分が上に向けて伸びる。


 伸びた部分には、何か筒状の機械が姿を現した。


 直後、ちらりと筒の先が光って、何かが射出される音がした。


 ヒュン!


「きゃっ!?」


 あぐりがあわてて立ちどまりつつ、発射された正体不明のものを手でガードした。


「レーザー砲?」即座に小町がその攻撃の正体を見抜いた。


 あぐりがレーザーを受け止めた手のひらを見つめると、小さな丸い焦げあとのようなものがついていた。


「ひっ、変身してなかったら、私、死んでた!?」あぐりが悲鳴をあげた。


「変身してりゃ、大丈夫ってこった、突き進め!」


 紫が叫ぶとともに走り始める。


 あぐりと小町も続いて走り始める。


 セキュリティーロボは彼女たちからつかず離れず距離をとって並走し、四方八方から、レーザーを発射する。


 三人は、レーザーを手ではじきつつ、アルマ弾を放って、ロボを粉砕しつつ突き進む。


「わはははっ、どんどん来やがれ!」


 紫は何かストレス解消でもするように、パンチ、キック、空手チョップで、つぎつぎにロボを破壊していく。


 さながら、自衛隊の戦車を蹴散らしつつ進撃をつづける大怪獣である。


「と、ところで、どこへ向かって走ってるの、私たち!?」


 あぐりのもっともな問いに、


「知らん、ひた走りに走るまでよ!」紫はノープランである。


「めざす敵はおそらく最上階にいるわ。とにかく、動いているエレベーターを探しましょう」三人にくっついて走る犬のアオイが冷静に答えた。


 三人はとまっているエスカレーターを駆け上がり、二階へと到達した。


 そこのホールも、もう、足の踏み場もないほどセキュリティーロボであふれかえっていた。


「どんと来いやあっ」紫が先頭切って走り出す。


「動いているエレベーターがなかったら?」


「心配症ね、あぐりちゃん、その時は、階段を駆け上がるだけの話よ」


「それもそうね。……って、小町ちゃん、このビル、何階建て?」


「六十階ちょうど」


「ひええええっ」


 ロボットの残骸を無数に残し、三人はひたすら前進する!

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