五の四

 あぐりたちは、広いホール二階を抜け、廊下へと入った。


 廊下といっても幅はずいぶん広く、まだホールの続きといった印象だ。


 それに、ライトは数個間隔でともっているから、薄暗く先もあまり見通せない。


「見えた!」紫が叫ぶ。「あかりのついたエレベーターがあるぞ!」


 あぐりと小町がみれば、確かに廊下の突き当たりに、エレベーターのドアが見え、その周りだけ、ぼんやりと光っていた。


「とにかく、あそこに向かいましょう」小町が言うのへ、

 

「うん」あぐりがうなずいた。


 そうこうしている間にも、セキュリティーロボはどんどん数を増やしてくる。


 無尽蔵と思える数である。


 あぐりたちは、蹴ったり殴ったり、アルマ弾をぶつけたりしてロボを粉砕しつつ進む。


「うえん、キリがないよう」


「ぼやくな、あぐり、ゴールは目の前だ」


 紫が言って、あぐりが見れば、たしかに、エレベーターまで残り五メートルほど。


「ゴールと言っても、第一ステージのゴールだけどね!」


 冷や水を浴びせるようなツッコミを小町が入れる。


「でいでいでいでいでい!」


 紫が錐を突きさすように、ロボの群れを割って行き、エレベーターへと到着する。


「どりゃぁ!」


 到着した紫は、壊しそうな勢いで、上へ向かうボタンを押す。


 運よくエレベーターはこの階にとまっていて、扉がすっと開いた。


 あぐりと小町とアオイが飛び込み、紫が追って来るロボに向けてアルマ弾を連射しながら、うしろさがりに乗り込んだ。


 小町がボタンを押して扉を閉じ、つづけて最上階のボタンを押す。


「はあ、一階、二階と抜けるだけで、もう大変」あぐりが溜め息をつき、


「まったく、最上階まで行けるエレベーターで助かったわね」小町もほっと安堵する様子で、


「ほんと、階段を駆け上がらずにすんで、助かったわ」あぐりが額の汗をぬぐう。


「なんじゃい、このくらいで音を上げるなんぞ、決戦にのぞむ気概がたりん!」と紫が言うのは、叱咤なのか、威張っているのか。


「あんたみたいに、こっちは底なしの体力持ってるわけじゃないの。私とあぐりちゃんは普通の女の子なの。脳筋ゴリラといっしょにしないで」


「なんだと!?」


「もう、やめて、ふたりとも。あとちょっとで到着するわよ!」


 あぐりにたしなめられて、紫と小町は階数表示を見る。


 高速エレベーターはみるみる数字が上昇していき、五十六、五十七、五十八、五十九、そして六十と表示され、箱がふわりととまった。


 扉が開く。


 三人は、そこに待ち受けているであろう、ロボの大軍を予想して、身構えたが、予想にはんして、薄暗い廊下がまっすぐ伸びているだけであった。


「なんだよ、身構えて損した」


 紫が一番に廊下へ出る。


 そこは、前方と左右に廊下が伸びているが、階下と同様に明かりは点点とつけられ、その先は暗く何があるのかさだかではない。


 あぐり、小町、アオイも廊下へ出る。


 出たとたん。


 廊下の暗がりから、無数のレーザーが襲いかかった。


「わわわわわわっ!」


 あぐりたちは、踊るようにレーザーを避け、両手両足を振り回して防御する。


 防御しながらも、アルマ弾を両手から射出させ、暗がりに潜むセキュリティーロボを打ち砕く。


 爆発音と煙を撒き散らし、無機質無情な攻撃は沈黙した。


「このまま真っすぐ行けば、CEO室よ」小町がわかったように言うのへ、


「なんで知ってるんだよ」紫が適当なことを言うなとばかりに返す。


「そこに案内図が貼ってあるわよ」


「あっそ」


 廊下を真っすぐ駆け抜け、つきあたりのドアを開けると、そこは秘書室で、その無人の部屋の正面のドアを紫がけたたましく開け、三人が飛び込む。


 そこは、十メートル四方の広い空間で、しかも、調度品が反対側にある机くらいしかないから、ずいぶん広く感じる。


 その薄暗い部屋の、一面ガラス張りで美しく輝く星空を背に、男がひとり、椅子に腰かけて、手のひらに何か黒いものを浮かべてそれをじっと見つめているのだった。


 男の年齢はさだかではない。


 四十歳くらいの落ち着いた壮年にもみえるし、まだ生意気さの抜けない青年にも見える。


 銀髪の長い髪をして、切れ長の端麗な顔に、うっすらと笑みを浮かべているようだ。


 その薄い唇がわずかに動いた。


「まったく、騒騒しい少女たちだ。アポイントを事前にとっていれば、苦労せずにここまでこれたものを」

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