第五章 闘え、女の子!
五の一
桃色、青色、黄色、赤色、緑色。
そして、ガラス窓の前の椅子に深深と座る
「不死の力を手に入れて、お兄さまもカシンと同じように、歴史に干渉し続けるおつもりですの?」
机の向こうに座る兄道風に、
道風はまるで巴の声が聞こえていないように、椅子のひじ掛けに片方の肘をついて頬杖をついて、もう片方の手で紫のアルマクリスタルをもてあそびつづけている。
やがて、その赤く薄い唇から、
「不死の力か」
失笑するように言った。
「人の魂をアルマの霊体とすることで永遠の命を得る、のだったか。不死になったところでどのような意味があるのだろう。考えたことはないか。
「さあ」
「人を不死にするほどの力が、この六つのクリスタルにあるのならば、それほどの力を理想などのために使うのは、
道風はそう言うと、紫のクリスタルをかるく頭上に放り投げた。
それにつられるようにして、残りのクリスタル(ブレスレットにはまったままであったが)が浮かびあがる。
六つのクリスタルは共鳴するように光を放ち、座った道風の頭上を円を描くようにして回転しはじめた。
巴たち三人は、あとじさり、部屋のすみへと移動した。
六つのクリスタルはそれぞれの色でまばゆく輝き、三人は目を細めてそれをみつめた。
やがて光は混じりあい、真っ白の光となり、道風の全身をつつんだ。
数十秒、その光は輝きつづけた。
やがて、その光が収束し、六つのクリスタルは、ばらばらと床に落ちてころがった。
「ずいぶん、あっさりとしたものだな」
道風が、自分の手を見ながら言った。
自分でも、劇的な変化があったようすではないようだった。
「あなたは、何のために、その力をお使いになられるのですか?」巴が近づいて訊いた。
「人類の滅亡」
「…………」
「くだらない人間などという生物を、この世界から消滅させるのさ」
「もし、それが冗談でないのなら、私たちはあなたをとめなくてはなりません」
「冗談に聞こえたのなら、心外だな」
「ならば、そのお命、いただきます」
「私が力を手に入れる前に、そうすべきだったな。ことが起きる前にそれを察して、私を排除できなかったのは、お前の甘さだ」
三人が、道風を囲んで、いつ戦闘が開始されてもいいように構える。
道風が椅子から立ちあがる。
その体は、いままでとまったく変わらないのに、なにか言い知れぬ畏怖を、三人にあたえるのであった。
そして、ほんの一分と少し。
三人の戦士は横たわり、苦痛にうめき、たったひとり、道風のみがその部屋にたたずんでいた。
立っている男は、無惨にころがる三人を見ようともしない。
その目は、外界を見おろしていた。
三百メートルの上空から、地上にうごめく蟻のような生き物を、今から絶滅させるのだと思うと、その喜びに体がふるえるような心持ちであった。
だが、ほとんどなすすべなく倒された三人は、ただはいつくばっているだけではなかった。
服部巴の手には黄色いアルマブレスレットが、藤林泉水の手には桃色の、百地智徳の手には青色のブレスレットが握られていた。
「けっきょく、生徒に後事をたくすなんて、教師失格だわ」
巴が手にしたブレスレットを見つめ、苦笑した。
「行け、飛んでいけ、ほんとうの持ち主のところへ」
そうして巴が念じる自分のアルマをブレスレットに込めると、アルマブレスレットが黄色く輝いた。
泉水と智徳も念じ、みずからのアルマを送り込んだのだろう、桃色と青色の光がブレスレットをつつんだ。
と、三つのアルマブレスレットが輝きながら、宙に浮きあがる。
やがて、ふっと瞬間移動でもしたように、その姿が掻き消えたのだった。
それに気づいた道風が、やっと振り返り、三人を見つめた。
「無駄なあがきだ」
どこまでも冷酷な光のにじんだ目で、三人を見つめるのだった。
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