一の五

 まばゆい光に包まれ、体のラインが丸出しの、白いボディースーツのような露出の多い姿に、あぐりの体が変身した。


 男たちは、いっせいに鼻の下がのびる。


「あんた、そんな格好して、恥ずかしくないのかい?」あきれたように善珠が問う。


「恥ずかしいわよ!っていうか、中の人が恥ずかしがってるわよ。さっさと終わらせましょ」


 久しぶりの闘いの興奮からか、善珠は顔を狂喜の笑顔でゆがませ、


「さあ、おっぱじめようか!」


 善珠が言いざまライフル銃をかまえる。


 かまえ終わった瞬間には、最初の一発が銃口から撃ちだされ、青白い霊気をまとった弾丸が流星のごとくアオイに向けて走った。


 すんでのところでアオイはかわし、霊気の弾丸は蒼天へ吸い込まれるように消えていった。


 見物人のみんなが、邪魔にならないように、公園の端に退避していく。


 みんなが充分に離れたのを見届け、アオイはひとつふっと息を吐いて戦闘モードへとスイッチをいれる。


 アオイが走った。


 善珠を中心点にして、半径十五メートルほどの円を描いて走る。


 弾をかわし、弾倉マガジンをカラにするための疾走である。


 それを体を回しながら追い、善珠は弾を撃つ。


 最初の数発は、アオイの後を追うように放っていたが、だんだん先読みをしはじめ、アオイの足元や鼻先をかすめるようになってきた。


 装弾数十五発。


 撃ち尽くした善珠はマガジンを抜く。


「いま!」


 とアオイは善珠に向けて一直線に突進した。


 善珠は抜いたマガジンを多喜に向けてほうり、多喜のほうから入れかわりにBB弾装填ずみのマガジンが投げ返される。


 受け取った善珠はすぐにマガジンを銃に差し込み、銃口をアオイに向ける。


 アオイはぴたりと足をとめる。


 銃口は、鼻先三センチ。


 超至近距離射撃が、発射された。


 アオイはのけぞって、霊気弾をかわす。


 バランスをくずし、アオイは倒れ込む。


 善珠がのしかかるように、アオイの顔に銃口を向けた。


「卑怯なんじゃないの。弾倉をもらうとか」


 と恨み節のアオイに、


「闘いに卑怯もクソもあるかい!」


 引き金が引かれる。


 アオイは転がって弾丸をよけ、弾丸にえぐられた地面から砂塵が巻き上がる。


 よけざま飛びあがったアオイは、善珠の顔面に回し蹴りを放つ。


 善珠はそれをかがんでよけ、よけつつ銃を撃つ。


 アオイは、バク転で弾丸をさけて、さらにバク転をして距離をとる。


「ハア、ハア、ハア」


 この短時間の戦闘でアオイの息があがった。


〈ちょ、ちょっとアオイさん、無茶しないでよね、私の体なんだから〉


「わかってるって」


〈凪子さんも傷つけないようにしてよね〉


「やってるわ、極力ねっ」


〈極力って〉


「うるさいわね、気が散るでしょ。気が散ったらあなたも凪子ちゃんも大ケガしちゃうわよ」


 あぐりのアオイがにらむ先の、その凪子の善珠は、銃をかまえてふたたび狂喜に口もとをゆがめている。


「いいねえ、闘いはこうでなくっちゃ。四百年の間、きゅうくつな碁盤に閉じ込められていた鬱憤を晴らさせてもらうよ」


 アオイはかまえて、息を整える。


「こんなすぐに息がきれるなんて、あぐりちゃん、明日から鍛えなおしだわね」


〈ええっ、ゆるして〉


「さて、この体で、やれるかしら」


 アオイはふっと息を吐いた。


旋律せんりつ律動りつどう!」


 叫んだアオイが上空に飛んだ、とその場にいる誰もが見た。


 が、アオイは大地を蹴って善珠に向けて矢のように走っている。


 善珠は、跳んだ影に惑わされず、走り寄るアオイに弾を撃つ。


 アオイの体が三つにわかれ、真ん中の残像だけが弾丸を受け掻き消えた。


 左右のアオイが、善珠に殴りかかる。


「私の左眼で、残像分身なんて見破れるんだよ!」


 善珠の左眼が黄金色に光り、上空に向けて銃を撃った。


 ふたりのアオイは、善珠の体をすり抜けて消滅する。


 いつの間にか上空へと跳んでいたアオイの本体は、体をひねって攻撃をかわした。


「凪子ちゃんの体なのに、あの左眼が使えるなんて!?」


 着地したアオイは、残像分身を残しつつ、後方に跳ねる。


 それを追って、善珠が撃つ。


「もっと速く、もっと、もっと!」


 叫ぶアオイの体が十数体に分身をし、善珠を取り巻いた。


「くっ!」


 善珠は歯噛みをした。


 狙いが雑になって、撃つ弾丸は、残像ばかりを撃ち抜いていく。


 さすがに黄金の左眼でも、高スピードで動き続けるアオイをとらえきれなくなってきた。


 が、彼女には長年戦場で鍛えぬいてきた闘いの勘があった。


 くるりと体を回す。


 まわしつつ、目の前のアオイにいた銃を撃つ。


 が、


 カチリ。


 引いた引き金から渇いた音がしただけだった。


「弾切れ!?」


 善珠の悲痛な叫びが公園にとどろいた時には、背後に回ったアオイが、


 トン。


 首筋に手刀を、力をこめず入れていた。


「くっ」


 おのれの敗北を悟り、善珠はその場に膝から崩れ落ちるのだった。

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