序章⑨ 天使の説明

神の宣誓の後、周りに混じって雄叫びを上げていたことが今になって恥ずかしくなる。

異様なほど気分が高揚したが、流石に冷静さを失っていた。

集団催眠ってきっとこんな感じなのかもしれない。


頬をぽりぽりと掻きつつ横の明音を確認する。

秋灯と同じく甲高い叫び声をあげていた彼女も今は我を取り戻している。


明音も恥ずかしかったのか、こちらをチラチラ確認してくる。

目と目が合って、とても気まずい。

お互い苦笑いをしつつ、さっきの雄叫びには触れないことにした。


周りにはまだ熱気が漂っているが、いくらか落ち着いてきた。

ほとんどの参加者は荒い呼吸のまま、地面にしゃがみ込んでいる。

時間にして十分にも満たない宣誓だったが、それでもどっと体力を使った。


苑内のどよめきが徐々に収まってきた頃、秋灯達の上空。黄金の柱の傍から何かが降りてくる。

ざっと百人を超える人の影。背中に翼を生やし、頭の上に光の輪っか。よく見るとブロンドの髪の西洋風の女性や、黒髪で平坦な顔つきの女性もいるが、全員が全員り物のような整った顔をしている。大抵の人が想像しやすい天使の姿があった。


正直、数が多かったから虫に見えた。


天使たちは、秋灯たち参加者の上空十メートルくらいで留まり大きく翼を広げる。

白い大きな羽を動かしているわけではないのに、普通に空中に浮いている。

さっきから物理が働いていない。


一人の黒髪の天使が手に持っていた錫杖を口元に近づける。


「参加者の皆様、私は今代の試練において日本地区の運営を執り行わせていただきます《守位天使》と申します。御神により次代への試練の宣誓が行われました。明日より試練が開始されますが、それに先立ち試練の参加、不参加に関わる留意事項についてご説明させていただきます。まず自身の左腕をご覧ください」


天使らしき女性の声が辺り一帯へ響いていく。

神様のように頭に直接響いてくるわけではないので冷静に聞くことが出来る。


秋灯は言葉の通り確認するが、左腕にはいつの間にか黒地のアームバンドが巻かれ、その中にスマートフォンに似た機械が入っていた。いつ付けられたか、まったく気づかなかった。


「こちらの機器reデバイスを用いまして、本試練の条文、規定、周知、通達、解凍等を行わせていただきます。初めに表示される画面に試練参加に辺り条文を記載させていただいております。こちらを読み、下記へ目を通していただき【参加】のボタンを押すと試練への参加者と認められます。条文の規定に納得できない方、試練の参加を拒否したい方は【不参加】のをボタンを押していただくようお願い致します」


普及している携帯端末にわざと似せているのか、違和感なく手になじむ。

ただ、神様とか天使とか象徴的な存在と現代の機械が噛み合わない。

それに淡々と説明してくるあたり、ショップの店員を連想させる。


「なお、本日までであれば【不参加】を押した場合、他の人間と同じよう神の庇護の元で時間凍結が実行されます。しかし試練へ参加し後程敗退した場合、時間凍結は実施されず他の人間と同様の処置は行われませんのでご注意ください」


つまり試練の敗退は死ぬことなのだろうか。

そこらへんぼかされている気がするが、少なくとも元の生活に戻ることは出来なそうだ。


「本日零時までに【参加】【不参加】のボタンを押していただくようお願い致します。また、ボタンを押さなかった者は参加の意思なしと判断し試練へ不参加とさせていただきます。なお引き続き、参加者同士の争いは禁止させていただきます。条文への質問、疑問等ありましたら、各天使にお聞きください。それでは、試練宣誓並びに規定の周知は以上となります」


黒髪の天使の説明はあっさり終わり、空中でホバリングしていた他の天使が一斉に降りてくる。

苑内の各所に降り立ち待機するようだが、参加者達は茫然としていて動き出すまで時間がかかった。

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