第6話 初詣と映画
学生時代、毎年 年末年始は実家に帰っていたけど、今年は仕事が忙しいから帰らずに、東京にいるねと親に言ってあった。
初めて、東京で1人で迎える新年だった。
年が明けて、初詣に行こうかと石川さんに誘われた。
だいたい、都会の人は、どこへ初詣に行くのだろう。
考えたこともなかった。
「風見は、いつもは実家に帰って、初詣はどこへ行ってたの?」
「うちは、あ、親といつも行ってましたけど、
善光寺です」
「おー!善光寺!有名じゃん!長野なんだ!」
「長野ですよ」
「あはははは!さーてと、着いた」
【 川崎大師 】
えっと……お寺なの?神社なの?
大師?ってなに?
参道からすごい賑わっていた。
なんかわかんないけど、アメ屋さんだらけ。
トントン トントン 飴を切る音が響いている。
アメが有名なの?
「俺は昔からここなんだ。
初詣、風見と行きたかったから、実家帰らないでこっちにいてくれて良かった」
と、笑った。
一昨日のドライブもそうだし、今日の初詣も、なんで私が誘われたのか、わからなかった。
暇そうだったから、誘いやすかったのかな。
だけど、初めて1人で寂しく過ごすと思っていた年末年始が、石川さんのお陰で、思いがけず なんだかとても楽しいものになっていた。
混んでるから、はぐれないようにって、手を握られた。
緊張した。
デートみたいじゃん。
ってゆうか、デートなの?
付き合えよ!って言われたけど、それって一緒に行こうよって意味だよね?
お付き合いしましょうって意味じゃないよね?
ものすごい混雑状況。
お賽銭をあげる場所までなかなか進めない。
石川さんは、私を自分の前にひっぱり、守るように 後ろから抱きかかえられるような感じになった。
私のお腹にガッツリ手を回されている。
「風見、大丈夫?」
耳もとで言われてドキッとした。
「大丈夫です……」
大丈夫ですって答えたけど、大丈夫じゃないくらいドキドキしてる。
落ち着け 私。
ちょっと振り返って、
「あの、ここは何の神様なんですか?」
と、石川さんに聞いてみた。
「なんの神様?
弘法大師なのかな。
厄除けと、縁結びのご利益があるんだよ」
縁結び
押し合い圧し合いしながら進み、ようやくお賽銭箱の前まできた。
けど、バッグからお財布を出すこともできないくらい。
はい と、石川さんが私の手に500円玉を握らせてくれた。
「あっ、すみません。ありがとうございます」
その500円玉を投げて、お詣りした。
その後、食事をして、帰りの車の中で、明日は
どうする?って聞かれた。
どうする?って、特に何も用事はないですがと答えた。
じゃ、明日は映画 観に行こうか?と石川さんは笑った。
その日は、私のマンションまで送ってもらって別れた。
次の日
石川さんが迎えに来てくれて、郊外のショッピングモールの中にあるシネコンで映画を観た。
石川さんが観たいと選んだのは、コメディタッチの面白い映画だった。
自分では、こうゆう映画は選択しないな~って感じだったけど、すごく面白かった。
2人でだいぶ大笑いして観た。
映画館で、こんなに声出して笑うことある?ってくらい。
映画を見終わって、食事をしながら、映画の話をして また笑った。
すっごく楽しい1日だった。
会社の仕事納めから、まだ数日だけど、一気に親密な関係になっている。
親密と言っても、手を繋いだくらいだけど。
男の人と手を繋ぐなんて、大学の時に付き合っていた彼氏以来で、それだけでドキドキする。
石川さんにとっては、どうってことないのだろう。
私のことを好きだって訳じゃないだろうし。
明日は、どうする?と石川さんは私の顔を見た。
「明日も、風見に会いたいんだけど」
「私も、石川さんに会いたいです」
と答えた。
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