第18話 私と花菜ちゃん

 私は、一言で言うと、平凡な人。

これという特技もないし、熱中する趣味もない。


就活で、何十社も受けては落ちて、奇跡的に入れたこの会社でも、配属された部署は、重要な仕事があるわけでもなく、割りとノンビリとしていられる。

やりがいがある仕事ではないけど、普通にそこそこのお給料が貰えて、そこそこの生活ができる。

だから、別に不満もなかったし、それでいいじゃん!!と思っていた。


高望みはしない。

ムリっぽいことには、最初から手を出さない。

好きな人ができても、片思いで告白もしない。

告白してもダメだろうから、諦める。

そんな生き方をしてきた。


東京生まれ、東京育ち。

共働きのサラリーマンの家庭で、3人姉妹の真ん中で育った。

姉はとてもしっかりした人で、優秀な人だ。

そして、容姿もいい。

妹は、とても愛嬌があり、みんなから可愛い可愛いと言われるような子だ。

私は、なんの取り柄もなく、普通な人だった。


中学校時代は、バレーボール部に入った。

部員数も多くて、レギュラーにはなれなかった。

男子バレー部のカッコイイ先輩を好きになった。

片思いで告白もできないまま、先輩は卒業してしまった。

それから、今度はクラスメイトを好きになった。

同じクラスにいて、告白して断られたら気まずいから、告白はできなかった。

片思いのまま、卒業して、その人とは別の高校に進学して会えなくなった。


高校では、テニス部に入った。

誰でもエントリー出来るような大会に出させてもらうくらいで、大した活躍もなかった。

同じテニス部の男の子を好きになった。

仲良くなって、何人かで一緒に遊びに行くようになった。

遊園地とかカラオケとかゲーセンとか。

でも、個人的な付き合いにはならなかった。

高校3年の夏に、同級生に告白された。

初めて告白されて、嬉しかったから、付き合ってみることにした。

だけど、お互いに受験生で忙しく、デートらしいことは5回だけ。

遠出することはなく、近くの映画館で映画を観て、ファミレスで食事やお茶するくらいのデートで終わってしまった。


大学も都内の大学だったから、家から通った。

そこでも特にやりたいことを見つけられなくて、ひたすらバイトをしていた。

自宅だから、別に食うに困るということでもなかったから、楽しそうと思ったバイトをいろいろやってみて、つまらなかったり、キツかったら辞めた。

パン屋さん、ドーナツ屋さん、ファミレス、結婚式の巫女さん、洋服屋さん。

その洋服屋さんの、同じくバイトの年上の男の人と2人でお酒を飲みに行った。

朝 目覚めたらラブホテルのベッドの上で、真っ裸だった。

初体験は、好きな人とでもなく、全く記憶にもないという始末。

そのあと、その人とお付き合いするということにもならなかった。

私から誘ったんだ、とか、酔っぱらった勢いで、というようなことを言われた。

それで、その洋服屋さんは辞めた。

その後も、何人かと付き合ったような、付き合ってないような感じで大学生活は終わった。


そして、就職。

もう6年目になる。

同期入社の子も、何人か結婚している。

この会社で、この部署で特に何か成し遂げたと言うこともなく、5年も経ってしまった。

この先長くいても、キャリアアップするわけでもない。

早く寿退職したいなぁ。

相手もいないのに、そんなことを考えてばかりいた。

同じ部署の男性陣は、優しい人が多かった。

だけど、言い変えれば、仕事ができなくてこの部署に流れてきたような、人たちだった。

いい人だけど……って感じの人たち。

昔の言葉で言えば、窓際族ってゆうやつなのかな。

たぶん、この先 出世はしないだろう。

独身男性も何人もいたけど、ちょっと年が上過ぎるかな。

社内恋愛が無理なら、出会いを見つけなきゃだけど、積極的に出会いを求めてもいなかった。

恋に恋するみたいに、いいなぁ 早く結婚したいなぁと思っていた。


私は小さい頃から、新しいことを始めるのが苦手だった。

アルバイトをいろいろ変えてやったりしてたのだから、無理ということではない。

やってみれば、大した事ないけれど、引っ込み思案で、新しいことを始める為に腰をあげるのが、かなりおっくうだ。

だから、現状維持ということが多い。



そんな私とは対象的に、花菜ちゃんは何にでも積極的に取り組む人だった。

仕事も忙しい部署で、クタクタになってるのに、日課だからってジョギングしたり、ジムに行ったり。

美術部だったから、絵画が好きなんだ、って、

美術館や展覧会にはよく行っていた。

冬は、スキーにスノボ。

夏は、スポーツ観戦で、野球やサッカーの試合を見に行ったりしていた。

地域のボランティア活動をしたり。


同じ1日24時間なのに、なんでこんなに違うんだろうと思っていた。

今思えば、短い人生を必死に生きていたようにも感じる。


そんな花菜ちゃんがやり残した後悔……

伝えたかった気持ち……


その思いは、私しっかりと受け取ったから。

絶対絶対、伝えるからね!!


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