第33話 石川和哉 2

 意外だった。


婚約者がいながら、遊びのつもりの軽い気持ちで花菜ちゃんと付き合った。

結婚が決まって、上海赴任が決まって、じゃ、

そうゆうことで!って、花菜ちゃんを捨てた。

それは、確かにそうだったけど、そこに愛はあったんだって話。


私に信じてもらえなくても、亡くなってる花菜ちゃんなら、わかってくれる。

わかってもらいたいって、涙ながらに語った。


演技しているようには思えなかった。

心の中を、さらけ出したって感じがした。


「そうですか。わかりました」

と、静かに私は言った。


石川さんは、えっ?って、真っ赤な目で私の顔を見た。


「最低な男だった!ゲス野郎!死ね!!って思ってたのは、私だけです。

花菜ちゃんは、たぶんそんな風に石川さんのこと思ってなかったと思う。

好きだなんて、言われてもいないのに、ホイホイ家にあげて、簡単にヤラせてくれそうな尻軽女に見えたんだろうね、遊ぶには丁度いいって。

反省しなくちゃ!

って、自分のことは責めてたけど、石川さんのことを悪くは言ってなかった。

あんなに傷ついてたのに……

なんか、一緒にいて、楽しかったんだよな……

って言ってましたよ」


「はぁ…………ありがとう。

花菜の話は、誰にも言えなかったから、君に聞いてもらえて、有り難かったよ」


「いえ、私も……花菜ちゃんの話聞けて嬉しかったです」



長野駅に着いた。

花菜ちゃんのお墓は、新幹線で長野まで行き、

在来線に乗り換えて5駅、そこからバスか、タクシーで……と話したら、じゃ、レンタカーで行こうと言われた。

私は免許も持ってないから、その発想がなかった。


その前に花を買いたいって、花屋さんに寄った。

お墓にお供えしたいので、丈をこのくらいにしてください、とか。

包装は簡素でいいです、とか。

アルストロメリアは今は時期ではないですか?

とか、店員さんと話していた。


花を買い、レンタカーを借りて、ナビで検索し、大体わかったよと、車を発進させた。


石川さんの行動にはムダがない。

仕事ができる人って、こうゆうところかと思った。


「お花 詳しいんですか?」


「えっ?俺?全然!詳しくないよ」

と笑った。


「さっき、いろいろ名前言ってたじゃないですか?」


「あぁ、花菜の受けうりだな。

花を買ってくと喜んだって、言ったでしょ。

買ってく花の名前をほとんど知ってて、これは何何、これは何何って、教えてくれて。

ほとんど覚えられなかったけど、そのアルストロメリアって花が、長野県が全国トップシェアだって教えてもらってさ。

あと、長野県の県の花はリンドウです!ってさ。県の花なんて物があるのも知らなかったし。

俺、神奈川県なんだけど、やまゆりだって!

知らね~!!ってさ。あはは!」


「私も、東京は、ソメイヨシノだよって、教えてもらいました」


「そうなんだ!他の県までなんで知ってんだよ!って感じだよな」


「花菜ちゃんは、いろんなこと知ってて、ほんと頭も良くて、しかも努力家だった」


「あぁ。そうなんだな。あはははは!

あっ、いやっ、ごめん!笑うとこじゃないんだけど。

花菜のことを話せることが、すげー嬉しい」


石川さんは、目に涙をためて笑った。

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