第34話 石川さんとお墓参り

 花菜ちゃんのお墓は、小高い丘の上にある霊園。

とても景色がいい。

今はちょうど、紅葉が見ごろという感じだった。

一周忌で夏にきた時には、蝉の声がうるさいくらいだったけど、今日は、とても静かだった。

花をいけて、お線香に火をつけた。

手を合わせて、石川さんは花菜ちゃんに話し始めた。


「花菜、久しぶり。

永瀬さんは いい友達だね。

花菜の代わりにいっぱい怒ってくれたよ。

俺はひどい男だったね。

ごめんな。

花菜のこと、簡単にヤラせてくれそうな尻軽女なんて思ったこと1度もなかったよ。

逆に真面目で、カタい子だって思っていた。

いっぱい、いっぱい 後悔したんだ。

花菜、もう1度会いたかった。

また、話がしたかったよ。

長野は、良い所だね。

こんな綺麗な紅葉は初めて見たよ。

花菜に教えてもらった、アルストロメリア買ってきた。

いろんな色があるんだな。

何色にしようかって、迷った。

あとね、ダリアとスターチスと、なんだったか、グリーンの葉っぱ。

俺が選んだんだけど、やっぱ組み合わせセンスないかな?

今日は、これで勘弁しといてね。

花菜、

花菜の手料理、おいしかったよ。ほんとだって。

名前のない料理ってやつ、あはは、ほんと おいしかったよ。

……いっぱい いっぱい 言いたいことはあるんだけど……

わかってくれてるよね。

花菜、ありがとう。 楽しかった 」



石川さんは、「愛してた」も「大好きだった」も言わなかった。


ただ 「わかってくれてるよね」 って。

花菜ちゃんは、わかってくれてる。

私も、そう思った。


私は、声には出さずに、手を合わせて心の中で、花菜ちゃんに話した。


花菜ちゃん、石川さん連れてきちゃって、ごめん。

嫌だったかな?

思ってたより、悪い人じゃなかった。

花菜ちゃんを裏切ったのは、今でも許せないけどね。

だけどほんとに、好きだったんだってさ!

新幹線で、ずっと、語ってたよ!!

花菜ちゃんの話できて、私も少し嬉しかった。

あと、報告遅くなっちゃってごめん。

花菜ちゃんが忘れられない人って、酒井俊平くんでいいんだよね?

美鈴さんと、会ってきたよ。

花菜ちゃんの気持ち伝えようと思ったけど、わかってたよ。

両思いだと思ってました、って。

会いたかったな、って言ってたよ。



 霊園をあとにして、石川さんが善光寺に行ってみたいと言った。


「永瀬さんは行ったことあるの?」


「はい。花菜ちゃんと、3回くらい」


「へぇ~。初詣?」


「あ、初詣もありますよ。花菜ちゃんち、ご両親も一緒に行きました」


「初詣も ってことは、初詣じゃなくても行ったんだね?」


「はい。御開帳って知ってますか?7年に1度の大きなお祭り?みたいなのに行きましたよ」


「7年に1度って、オリンピックよりも長いんだね!次はいつなの?」


「たぶん、3年後?くらいかな?あ、テキトーですよ!!詳しくは、ご自身で調べて下さい」


「あはははは!永瀬さんは、おもしろいね」


なにが おもしろいんだろう。

でも、イヤな気はしなかった。


「そう言えば、今日って、視察ってことですけど、善光寺のあと、どこかに行くんですか?」


「視察ね!!俺、テキトーに報告書作成するから大丈夫だよ。

永瀬さんは、同行しましたってハンコだけ押してくれれば」


「テキトーに報告書なんて作成できるんですか?」


「俺、仕事できちゃう人だから。あはは」


「お墓参りは、内緒ですよね?」


「そりゃ、そうだよ!!

えっ?バラす?

お墓参りの為に帰国してきたなんて、ヤバいって!あはは!」


信州蕎麦を食べて、善光寺を参拝して帰ってきた。


「永瀬さん、今日は、1日ありがとうございました」

そう言って、石川さんは私に頭をさげた。


「こちらこそ、ありがとうございました。

花菜ちゃんの話 したくなったら、連絡してください」


「あはははは!朝は、めっちゃ にらんでたのに、優しくなったじゃん!!」


「石川さんが、悪い人ではないってわかったので、とりあえず、けんか腰はやめときます」


「ありがとう。

花菜は、いい友達と出会えたな」


東京駅で石川さんと別れて家に帰った。


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