第12話 花菜ちゃんの実家へ

 「こんにちは!」

玄関ドアを開けて、声をかけた。


花菜ちゃんちは、いつもカギがかかっていない。

花菜ちゃんに、この辺はどこの家もこんなだよって言われて、すごく驚いたもんだ。


「は~い!!茜ちゃん!いらっしゃい!!

あがって!あがって!

疲れたでしょ~?

田舎で遠くて ごめんなさいね~!!」


家の奥からバタバタと、お母さんが玄関に出迎えてくれた。


花菜ちゃんは、どちらかと言うと、お父さん似かなと思う。

顔が、とかじゃなくて、性格というか。

お母さんは、いつもすっごく元気でハイテンションで、パワフルな人だ。

あ、でも全然イヤミがなくて、明るくて優しい人。

そんなところは、やっぱり花菜ちゃんもお母さんに似てるのかな。


リビングに入るとすぐに、

「茜ちゃん、コーヒーと緑茶とどっちがいい?」

と、聞かれた。

 

そう聞きながら、お盆にコーヒーカップをのせようとしているのが見えたから、

「じゃ、コーヒーで」

と言うと、

「やっぱり!?そうだと思った!!」

って笑った。


本当に可愛い人だ。


お葬式の時は、とても声をかけられる状態ではなかった。

当たり前だけど、突然に一人娘を失った悲しみ、絶望感で、ずっと泣き崩れていた。


それから、4ヶ月経って、お母さんは元の明るいお母さんに戻っていた。

それは、表面上かもしれないけれど。

前を向いているように見える。



「おばさま、花菜ちゃんにお線香あげさせてもらってもいいですか?」


「あっ!ありがとう!奥の座敷に行って!

茜ちゃんわかるわよね~~?」 

と、キッチンから大きな声で言われた。


「はい!わかります!」

私も大きな声で答えた。



奥のお座敷の部屋に入ると、真新しい立派なお仏壇が目に入った。


花菜ちゃん


花菜ちゃんは、花が好きで花の名前をよく知っていた。

そんな花菜ちゃんか好きそうな秋の花が、綺麗に飾られていた。

仏壇の前に座り、お線香に火をつけた。


花菜ちゃん 会いに来るの遅くなっちゃって、ごめんね。

ちょっと迷ったけど、花菜ちゃんの最期のことばの、伝えたかった気持ちを、私がちゃんと伝えるから!

だから、力を貸してね。


「茜ちゃ~~ん!!コーヒー入ったから~!

飲みましょー!」


リビングに行くと、お母さんの手作りクッキーにアップルパイ、そしてお漬け物が並んでいた。


「甘い物食べると、お漬け物食べたくなるのよね~。

で、お漬け物食べると、また甘い物食べたくなるのよね~!不思議ね~!」

そう言って笑った。


あぁ、このフレーズはお母さん譲りだったのか。


「ケーキ食べると、しょっぱいおせんべいとか食べたくなんじゃん!

で、おせんべい食べると、またケーキ食べれる!

無限ループなんだけど~!」 


って、スイーツバイキングで花菜ちゃん言ってたな。


お母さんは、お料理上手で、花菜ちゃんも料理が得意だった。

ひとり暮らしが長いから、普通にできるようになったって言ってたけど、やっぱりお母さんを見習ってたのかな。


「おばさま、電話でも話しましたけど、花菜ちゃんのことで、少しお友達にお話を聞かせてもらったりしたいと思っています」


そう言ったけど、花菜ちゃんの最期のことばを、お母さんには話していない。

話すべきかって悩んだけど、美鈴さんに相談して、ひとまず それは、伏せておこうということになった。

忘れられない好きな人の話は、女ともだちとする恋バナのようで、お母さんに聞かれるのは恥ずかしいって思うんじゃないか?って。

そんな気がしたから。



「えぇ、いいですよ。

みんなに、思い出話でもしてもらえば、花菜も嬉しいと思うし」



ホテルに泊まるつもりだったけど、そんなのもったいないからって。

お母さんのお言葉に甘えて、花菜ちゃんの家にお世話になることにした。

3日もお世話になるのも心苦しいけど。

この3日間でやれるだけのことをやろう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る