第9話 突然の終わり

 そんな密やかな付き合いは 3ヶ月続き、突然終わりがきた。



毎週、月曜日には朝礼があったけど、その日は金曜日。

人事異動があるということで、臨時に朝礼があった。


部長が部署の全員を見渡して口を開いた。


「今日発表の人事で、前々からの希望が通り、

石川が上海に赴任することになった」


えっ!?上海!!うそ!!


「じゃ、石川!一言!」


「はい。

こちらの部署では、丸5年間お世話なりました。

鍛えていただき、大変勉強になりました。

上海に行っても、皆さんのお役に立てるように頑張りたいと思います。

それと、わたくし事ですが、かねてより婚約しておりました彼女と、この度 籍を入れました。

初めての土地での慣れない生活になりますが、

夫婦で助け合っていきたいと思っております。

ありがとうございました」



青天の霹靂……ってこうゆうことを言うのかな。

なにがなんだか、わからなかった……



婚約者って……


それって、私じゃないんだよね?


婚約者がいたの?


婚約者がいて、私と付き合ってたの?


私のことを抱きながら、婚約者と入籍してたの?


なんで……

なんで、そんなこと……


信じてたのに……

ただの遊びだったんだ……

私のことは……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私が花菜ちゃんからこの話を聞いたのは、5月の、入社2年目研修の、泊まりのホテルの部屋でだった。


4月の頭ごろ、花菜ちゃんは体調を崩して2週間近く会社を休んでいたけれど、これが原因だったんだと思った。



「バカみたいでしょ?

遊びだったなんて、全然気づかなかったの。

婚約者がいるなんてことも、全然知らなかったし……

ほんとにバカみたい。

本当に、バカみたい……」


そう言って泣いていた。



 それから、また1ヶ月くらい経って、

「なんか、キツかったけど、イタかったけど、

いい社会勉強だったなと思うよ。

私って、こんなにも簡単に騙されちゃう人だったんだなって、反省した。 

私、茜には石川さんのこと話したかったんだけど、絶対に会社の人には内緒にしてくれって言われてて、どうりで~って感じだよね。

結婚詐欺師とかじゃなくて、まだマシだったよ!

アリ金全部とられるところだった!あはは!

ってゆうか、私 石川さんに好きだって言われてないんだよな~

だから実際は、私が勝手に付き合ってるような気になってただけで、騙された訳でもなかったのかもな~

簡単にヤラせてくれる尻軽女に見えたってことなのかな?

実際、すぐに部屋に招き入れてるわけだし。

んーーーー!!

これからは、気をつけなきゃって思ったよ。

あ~~あ~~

ちょっと、恋するのは 当分いいや……

なんかすっごく疲れた」

 

そう言って笑った。


疲れたって言ったけど、身も心もボロボロに傷ついたんだと思う。


 

 後々からわかったことだけど、石川さんの女ったらしは、有名みたいだった。

特に、まだ右も左も分からないような新人がターゲットで、どのくらいで落とせるか同僚と賭けをしていた時もあったらしい。


今回の花菜ちゃんとのことは、自分の結婚話も進行中で重なってたからか、誰にも秘密で内緒にしていたみたいだった。

花菜ちゃんにも口止めしていたから、全く社内で噂になることもなかった。


「俺は根っからのバイヤーなんだよな!

いいブツがあったら、手に入れたいと思う。

で、それをいかに早く、効率良く手に入れるかにこだわりたい。

1度手に入れたモノには、もうあんまり興味がなくなるんだよな~」


お酒が入ると、そんな風に同僚に話していたということだ。


最低な男!!


でも、仕事が出来るから、社内での評価は高かった。

海外赴任してくれてホント良かった!!

花菜ちゃんの前から消えてくれて。

花菜ちゃんの傷が、深手になる前で。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私が知る限り、花菜ちゃんが会社に入ってからの交際は、この石川さんとの付き合いと、その

1年半後に出会った諒くんとの付き合いだけだ。



忘れられない人……


石川さんではないと思う。


きっと、もっと 前。

大学、高校、中学……

さかのぼって調べよう。


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