第37話 花菜ちゃんの日記

 12月


 花菜ちゃんのお母さんから電話をもらった。

花菜ちゃんの部屋を、少し片付けることにした、と。

絵も欲しい物があったら、もらってと言ってくれた。


そして、花菜ちゃんの机の引き出しから、昔の

日記帳みたいなものが出てきたと。


「なにかね、私は見ちゃいけない気がしてね……やっぱり、若い子には若い子のプライバシーみたいなのがあるじゃない?

親には覗かれたくない みたいな?

でも、そこに書かれてることは、きっとあの子の本音だと思うから。

いつ頃の日記かわからないけど、たぶん10代の頃のかなぁ。

考えたんだけど、日記帳 茜ちゃんにお渡ししたいの。

宅急便で送るけど、いいかしら?」

と言われた。


週末、いただきに伺いますと伝えた。



 土曜日、花菜ちゃんの実家に行った。


花菜ちゃんのお母さんは、日記帳と言ったけど、それは、手帳というか、スケジュール帳のような物だった。


開いて1ページ目に詩が書かれていた。

有名な詩

作者は、誰だっけ?

石川啄木?

あ、島崎藤村だったかな?



初恋


まだ あげそめし 前髪の

りんごのもとに 見えしとき

前にさしたる花櫛の 

花ある君と思いけり

やさしく白き手をのべて

りんごをわれにあたえしは

薄紅の秋の実に 人恋そめし はじめなり



一字一字 丁寧な字で書いてあった。

私の知っている花菜ちゃんの字よりも、幼いけれど、しっかりとした字だった。

この初恋の詩を、花菜ちゃんはどうゆう気持ちで書いたのだろう。

この頃、初恋をして、この詩に共感していたのかな。


その手帳には、小さな字でぎっしりとうめられていて、そこには花菜ちゃんの青春が詰まっていた。 


ニキビが鼻の頭にできて、恥ずかしい、とか。

体重測定したら、一学期より2.5キロも太ってた!!、とか。

前髪切りすぎて失敗した!、とか。


スケジュール帳に、いっぱい書き込まれていた。

年を見ると、中学3年の時の物のようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る