第22話 塾へ
中学の時に花菜ちゃんが通っていた塾をお母さんに聞いて、美鈴さんと行った。
15年前、当時の花菜ちゃんを知っている講師の方に話を聞くことができた。
「渡辺です。
風見さん、風見花菜さん。
えぇ、覚えていますよ。
たいへん優秀な生徒さんでしたからね~。
確か、○○高校へ入られたと思いますが。
あそこは、当時もですが、かなり偏差値の高い進学校でしたから」
50代くらいの小太りの先生は、首からさげたタオルでおでこを撫でながら笑った。
「風見さんが、亡くなられたのはご存知ではないですか?」
美鈴さんがゆっくりと言った。
「えっ!亡くなられた?……風見さんが?」
「はい。去年の夏に、交通事故で」
「そうだったんですか……それは、何も知らなかったとはいえ……すみません」
そう言うと、タオルをはずして、私達に頭をさげた。
「いえ、亡くなられたのは東京でしたし、ご存知なくても仕方ありません。
お気遣いなく。
私達は、昔の花菜さんのことを知りたくて、少しお話を聞かせていただきたいのですが」
美鈴さんは、アナウンサーさんみたいな、リポーターの人が取材してるみたいに、淡々と丁寧に話した。
「その当時、花菜さんと同じ時期にこちらに通っていた人で、花菜さんが通っていた○○中学とは違う他校の先輩で、仲良くしていた、お医者さんの息子さんて方に心当たりはないですか?」
美鈴さんがそう言うと、先生は不思議そうな顔をして、手を顎にあてて少し考えていた。
「当時、この建物では、1年生と2年生のクラスがあったんですが、1年が月水金、2年が火木土というように曜日で分けられていたので、それ逆だったかもしれませんが。
そんな感じで分かれていて……
3年生は、別館の建物でしたし。
風見さんが他校の先輩とかかわることはなかったと思いますね。
お医者さんの息子さん……
いたのかもしれないですが、すみません、思い当たらないです」
「そうですか」
「風見さんのお家は確かちょっと、ここまで通うには、遠かったと記憶しているのですが、違いますか?
たしか親御さんが送り迎えをしていたと思いますし……
塾では、私語禁止だったので、他校の同学年の女子とでさえも、言葉を交わすこともしていなかったんじゃないかと思いますが」
「えっ!私語禁止?厳しい塾ですね!!」
と、私が言うと、申し訳なさそうに、先生はタオルを手に取って汗を拭った。
「えぇ、当時の経営方針はそんな感じでした。
今は、方針転換してアットホームな感じを全面的に出してますよ。
時代の流れですかね」
と、照れたように笑った。
「ありがとうございました」
塾をあとにして駅前の通りを歩きながら、先に口を開いたのは美鈴さんだった。
「なんだろう……なんか、しっくりこないね」
「うん……」
「同じ塾で他校の仲良い先輩、医者の息子の。
そんなの、あぁ○○君ですね!って言われると思ってたのに……」
「うん。
そもそも、この塾じゃなくて、夏期講習とか、冬期講習とか、別のところも行ってたのかな。
じゃなきゃ、あり得ないじゃん!
ここでどうやって他校の先輩と知り合いになれんのよ!」
「うん……そうだよね……」
それから、美鈴さんも黙り込んだままだった。
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