3.能力の発現

「ねぇねぇアユちゃん、ちょっとこっちに来て!」


エリーに連れられて、私は建物の裏側まで移動した。そこには、ありとあらゆる武器が落ちていて、どれも持った途端に崩れ落ちてしまいそうなほどぼろぼろだった。その中で、一番新しく見える剣、と言っても錆びているが、エリーはそれをひょいと持ち上げて、私に持たせた。それからエリーも近くに落ちていたボロボロの短剣を拾い上げて、私の方を見て、言った。


「今からエリーの言うことを言ってね。」


私はコクリと頷いた。すると、エリーは、真剣な面持ちで、目を閉じて、こう唱えた。


「神聖なる我らが神、クロノスよ。いま一度われの力を知らせ給え。能力開放(アビリティ オープン)」


その瞬間にエリーの持っていた短剣が白く輝いたかと思うと、パッとその明かりは消え、短剣は、薄い緑色になっていた。


「え?今、何したの?」


私がそう尋ねると、エリーは笑ってこう言った。


「今のが、うーん...君たちの世界でいうところの、たぶん、属性がわかる?的なやつなんだけど。わかった?難しいよねー」


私はうなずいて、エリーに先ほどのような呪文を言うようにを促した。さすがに私もバカではないので、二回目で覚えて、なんかなろう系小説みたいな展開だなと思いながら私も唱えてみた。エリーがずっと目を夜の猫のように輝かせながら、じーっと私を見ていた。私は少し緊張しながらも唱え始めた。


「神聖なる我らが神、クロノスよ。いま一度我の力を知らせ給え。【能力開放】」


するとエリーは緑色に変化したものが私は、なんと!なんと!な、ナ、ナント!


まったくもって変化しなかった。


こういうのってさ、普通さ、全属性がさ、手に入るとかじゃないの?それかさ、剣が爆発してなんて魔力なんだすごいぞって言われるやつじゃないの?


「ねぇ、私間違った?」


エリーに問いかけてみると、首をかしげて、近づいてきた。間違ってないと思う、そう言いたかったのだろう。しかしそれを言う前に私の剣に変化が起き、エリーが謎の力で飛ばされた。


なんと、何の前触れもなく、剣の隙間から冷気が噴出したのだ。そして辺りの地面を氷漬けにし、剣の表面がめくれるように崩れ落ちた。表面が完全に崩れ落ちたかと思うと、剣に目をやった私は唖然とした。


「これが...さっきの剣なの?」


そう、その剣は、完璧に透明な氷の剣の形をしたものに変わったいたのだ。エリーは顔がちょっと凍ったま

ま近づいてきて、私の足元をじっと見た。


私もエリーにつられて、足元を見てみると、剣の脱皮跡のように、ボロボロになった金属に氷がこびりついた破片がいっぱい落ちていた。風がひゅうと吹くと、それらの破片は、跡形もなく霧のようになって消えてしまった。私達がその場に立ち尽くしていると


「どうしたんだ!」


と、不意にコルトの声がして顔を上げてみると、とても殺気立った顔で息も切れていた。右手には、鞘から抜かれた剣が握られていた。その剣は、刀のような形をしていて、みねは黄色く、刃部は黒かった。つばに当たるであろう部分には黄色く透明な球体の中に黒い玉のあるものがついていた。


「「どう...したの?」」


私とエリーが戸惑いながら聞くと、コルトは怒ったようにこういった。


「どうしたもこうしたもない!何だあの魔力は!俺の結界がなかったら危うくギルドが吹っ飛ぶところだったぞ!おい、歩。一体何をエリーから教わったんだ!」


私が何を言おうか戸惑っていると、エリーがコルトにまるで珍しい宝石を見たかのような目で


「ただ、能力開放をやっただけなんだよ!すごくない!?もうギルドに入れちゃおうよ!」


こう叫んだあとにコルトは、下を向いて、


「これだから召喚者は...」


と、大きくため息を付いたのであった。


「召喚者だったらなにか違うの?体質的な何か?それとも、考え方とか?」


私は、そう言ってコルトに近寄った。するとコルトは、


「体質、だな。召喚者は、基本的に魔力の吸収がめちゃくちゃいい。カラッカラに乾いたスポンジくらい

に、だ。それに、それの出し方もうまい。普通なら一ヶ月かかるところを一日でやってのけたりする。それくらい、だと思う。たぶん。あと、お前の場合、筋肉?かな。それも関係してると思う」


と言って私が近づいた分、コルトは遠ざかった。何なんだこいつ、と思いながら。氷の剣に目をやった。冷気が顔に当たっているのがわかる。


きれいだ。


そう思うと同時に、なにか懐かしいような、物悲しいような不思議な感覚に襲われた。頭を振ってその感覚をなくすと、コルトはいつの間にか消えていた。エリーに聞いてみると、ものすごいスピードで逃げるようにして帰っていったという。何なんだ、あいつ。本当に。


そう思っていると後ろからコルトが現れて、なにか棒状のものを渡してきた。


「うわびっくりした。何、これ?スランラップの芯?いや、でもそれにしては黒いか。あ、わかったかもしれ.....」


「剣だよ、さっきの呪文をもう一回唱えてみろ。そしたら、『生えてくる』から。俺はここで見ておくよ。あ、それと、棒は穴を上に向けておけよ。変な方向に伸びたら困るから。」


私の言葉を遮ってコルトが入ってきた。はぁと大きなため息を、コルトに聞こえるようについてから、もう一度こう唱えた。


「神聖なる我らが神、クロノスよ。いま一度われの力を知らせ給え。能力開放」


すると、コルトの言ったとおりに、棒の先端から上に向かって、光の筋が伸びた。光の筋の動きがある程度の長さになったところで止まったかと思うと、今度は、その光がだんだん弱くなっていった。


これで剣が見える!どんな色だろうやっぱりさっきのから考えると、水色かな、これで私も、かっこよく白馬の王女様みたいなのになれるのかな!なろう系の主人公みたいに!


しかし、私のそんな期待とは裏腹に出てきた剣の色は、真っ赤だった。しかも形もいびつで、まるでそれは、血塗られたナタのようだった。


「うーーーーーーーーーーっわ。なぁにこれぇ。」


私が残念に思って剣をゆっくりと下ろすと、戻ってきたエリーが寄ってきて、ニコニコしながら、こういった。


「じゃぁ、、この剣の名前は...【罪深之剣(ギルティス・ソード)】なんてどうかな、いいよね。ね!ね!!じゃあ、決まりね!」


呆然と立ち尽くす私にコルトが近寄ってきて、肩をぽんと叩き、


「まぁ、あいつだからそういうこともあるさ」


といって、上機嫌なエリーと一緒に、私と、この罪深之剣を置いて帰ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る