28.地獄へと降り注いだ一閃の光

大きな音を立てて、城壁が崩れた。その瞬間に、領地内に銃弾の風が吹いた。これで今数十人が死んだ。足元にはさっきまで話していた人が転がっていて、正直もうやめたい、逃げ出したいと思った。本当に地獄だった。


十騎士が特殊衛兵と戦闘を繰り広げる中、私は銃を持った兵士に、剣を持って相対することとなった。彼らは、十の扱いにはもう手慣れている様子で、弱そうなものから順番に撃ち抜いていっている様子だった。私に銃口が向いた時、私は剣を抜いて叫んだ。


「略式神印・二式。廻!」


光の筋が大通りにいた数十人の兵士を二つに切り分けた。私は一度建物の裏に隠れたが、先程、フルパワーで神印を使ってしまったことで、もう魔力はろくに残っていない。まだよく分かっていない刻印しか使えそうにないと思っていると、隣にアルタイルが現れた。


「貴方の支援をします。存分に戦ってくださいませ。我らもその手伝いをさせていただきます故。何卒、ご勇断を」


「わかってる。私は戦う。でも、アルタイルが常に魔力を供給していたら死んじゃうんだよ。この状況どうしたら良いと思うの?奇襲だって何度も通じる手じゃないし。我儘かも知れないけど私は人を死なせたくない」


アルタイルは暫くうつむいて、私に後ろを向くように言った。その言葉に従って私が後ろを向くと、彼女はひょいと私の背中に飛び乗ってから出をリュックのように落ちないように結んだ。


確かに、これならどうにかなるかも知れない。そんな気になるほどの重さでもないから、問題はないだろう。よし、集中だ。コルトと銃弾、どっちが早い?分かるだろ?コルトのほうが断然早いに決まっている。なら、避けれるだろう?そんな暗示をかけながら私は大通りに飛び出た。


銃弾が私の足を貫いたが、それと同時にスキルを発動させ、治療した。逆に私は二式によって周囲の敵十数人をまた葬った。足元で呻く兵士の言葉には一切耳を貸さず、私はこれが戦争なのだと割り切ってそいつを刺殺した。


「意外と大丈夫なのですね。あの怯えようでしたから、相当抵抗があるものと思っていたのですが...」


アルタイルの言葉を無視し、私は何度も広範囲を攻撃できる二式を使い、そのたびに足元に肉片を転がした。他の騎士たちは銃弾を防御魔法で防ぎつつ攻撃をしているが、多対一の猛攻でその数は減少し続けている。


なんとかこの状況を打破する方法、例えば特殊衛兵を全滅させるとか...あ、そうしよう。私は魔力のより濃い方へと走りながら、特殊衛兵の下へと駆けていった。


「貴様は、あのときの...!コハルはどうした。殺したのか!?」


道のど真ん中であのときの衛兵達に出会った。全員五体満足で鎧も傷一つ付いていなかった。私は剣を構え、言った。


「そうだ」


その瞬間、全員が一斉に切りかかってきた。避けようのない攻撃を私はわざと受けた。それと同時にスキルを使用したが、その時にアルタイルが後方へと投げ出された。アルタイルは接近は危険と踏んで屋根の上に退避し、銃弾から身を守った。


興奮すればするほど動きは単調になる。


よく私に剣術を教えた師匠が言っていた言葉だ。私は剣を肩より上、つまり上段で構え、その瞬間を待った。


...今だ


「略式神印・三式。瀧(りゅう)」


滝のように、龍のように、流れる川のように、相手の鎧の隙間を狙って素早く絶え間なく踏み込み続けて、そして美しく斬り上げた。後ろで鎧が地面にぶつかる音が聞こえた。しかし、全員やったというわけではなく、隊長だけがかろうじて生き残っており、私に向けて剣を向けた。


「貴様が、私のコハルを殺したのだ!」


旦那だったのか?いや、でも、違うか、これは多分あれだ。政略結婚とかそういうのだろう。そんな悠長なことを考えていると、彼は私に剣を振り下ろした。私はそれを防いで、弾き返し、首元を斬った。鮮血が吹き出し、隊長は地面に倒れた。


アルタイルが急いで私にもう一度飛び乗り、魔力を回復した。そして、私はさらに魔力の濃い方へと向かった。もう、誰も死ななくて良いように。そう願いながら。


そして、東側の中心地にある広場に出た。


まさにそこは地獄だった。


積み重なる死体の山。渦巻く魔力。銃弾が飛び交うが、それも一発も当たらず撃った本人が死ぬ。


コルトと特殊衛兵の集団約百人が戦っていたのだ。他の十騎士は、負傷しているか、他の衛兵をしましているかで、その場にはいなかった。コルトはこれまでにない異様な魔力をまとっていて、剣を構えた。そして、低く姿勢を下げた。そして、こう呟いた。


「刻印・狼烟。刻印・終焉。一閃」


その瞬間に、コルトの検索から出た魔力の霧は周囲を包み込み、一瞬で晴れた。しかしそこには元いた特殊衛兵たちの姿はなく、ただの肉片が大量に転がっていた。


コルトは私を視認するなり、微かな笑みを浮かべて地面に倒れ込んだ。恐らく魔力切れだろう。その隙を狙っていた他の兵士が銃弾を打ち込んだが、私がそれを弾き、二式で解体した。コルトを物陰まで運んでいると、彼がめを覚ました。それと同時にアルタイルが思い出したように彼に言って魔力を送り込んだ。


「そういえば完成しましたよ。地下帝国。また今度見に来て下さいね」


アルタイルが魔力を送り終えるとほぼ同じタイミングで、魔王の訃報と、新魔王ノブナガの就任の知らせが届いた。そしてそれの意味することは自明であった・


「結界が、消える!」


結界が中心から霧散し始めた。そして、それと同時に爆撃機が視界に入った。


そこからは一瞬の出来事だ。大量の爆弾が一度に落とされ、周囲は一気に炎と煙、それから人の叫び声と血と肉に包まれた。深呼吸をして、我を保ち、コルトを連れて地下壕に避難した。


地下壕の中は小さな一つの伝統が室内をぼんやりと照らしているだけだった。私は苦しさ紛れに彼に質問を投げかけた。


「ねえコルト君。さっきの技ってなんなの?一撃であんな人数を葬れるなんて、私あんな技見たこと無いよ?」


コルトは、少しためらった様子を見せたが、小さくため息をついて、見られたのなら隠せないなと言って話し始めた。


「あれは一定の魔力を代償に大昔にレイスが使っていた突技の縮小版なんだが、俺はまだ魔力がレイスほど無い。だから一回使用で全魔力を消費する。ちなみにレイスは百閃という技を使えたらしい。まあ純粋に俺の百倍だな」


「ちょっと待ってください!貴方が全魔力を消費するなら、どうしてあのタイミングで使ったのですか?いくら歩様が近くにいるからと言っても危険すぎます!」


コルトはアルタイルの説教を聞き流し、私に向かってそういえばと切り出した。


「歩、お前が近くに来た時、神印使わなかったか?」


「あ、そういえば、使ったね。あのときの騎士団長とその仲間たちだった」


「殺したのか」


「うん」


少し暗い雰囲気になった所で、アルタイルが急に私の肩を揉みながらに言った。


「リラックスです。リラックス。貴方様はこれからも『始まり』としての責務が山程待ち構えているのです。なので、どうかそんなに焦らないで下さい。誰も貴方を攻めたりはしませんから...所で、歩様はあの技はどこで知ったのですか?二式までしかない我々の文献にはない新しいものでしたので」


そうなのか...いや、それなら私にこの技を教えてくれたイケオジは誰なんだ?少なくともこっちの事情を知っている人間だろうし。言っても良いのかな、これ。うん、まあ良いか。


「子供の頃に近所の人に教えてもらったの。確か、本名は知らないんだけど、一応名乗ってた名前は...」


「パンドラか?」


コルトが見事そのイケオジの名前を言い当てたことに空いた口が塞がらなかった。やっぱり有名な人だったんだろう。一体誰なのかを彼にに聞いてみた。


「パンドラはな、レイスの最大の親友だったんだが、ある力を会得したせいで暴走し、レイスに殺された。それがレイスが今のような歴史を作ってしまった最大の要因だと言われているんだ。で、その会得した力の中に、刻印、スキル、魔術、魔法とは違う系統の力、つまり神印があったとされている。恐らくそいつはパンドラをよく知る人物か、はたまた本人の生まれ変わりだろう」


ほえー。あのイケオジがそんな人だったのか...あれ?でも何で私がそれを使えるんだろう?おかしくね?その疑問は口に出す前に肩をずっと揉んでくれているアルタイルが答えた。


「歩様は我々の伝承に出てくる『始まり』なのですから、そこまで気にしなくてよいのですよ...?それに、あなたは我々だけではなく、この星の全ての生き物の希望なのですから!」


「わ、わかった...」


にしても、アルタイル、マッサージ上手いな。もうちょっとやってもらおうかな。なんか鼻歌うたいだしたし。爆撃音と鼻歌ってこの世の終わりみたいなセットだけど、それをかき消すほどの快感。すごいな。


「アルタイル。歩のマッサージをいつまでやるつもりなんだ?しかも嬉しそうだし。楽しいのか?」


コルトが私の疑問を変わりにアルタイルに投げかけ、彼女は嬉しそうに答えた。


「私は嬉しいのです。なにせ、レイス強の最重要人物の『始まり』に出会い、尚且つ触れられるのですから。我々からすれば神に触れているも同然なのです。あ、歩様、横になっていただいてよろしいですか?腰回りを少し...」


「うん、分かった。こう?」


「はぁ...」


コルトが大きくため息をついた。結局コルトも仮眠を取り始めた。それから数時間の間私達はすっと地下壕に避難し続けていて、外に出たときにはもう夜になっていたのだった。

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