23.連携プレイ
「刻印・終焉。一式」
コルトがまず先制攻撃をした。敵の炎魔法や土魔法、さらには風魔法など、多種多様な魔法が撃ち込まれ、コルトの刻印を打ち消した。次に、アルタイルが刀を構えて魔印の詠唱をした。
「魔印・退神降魔」
私は魔力温存のために、オシャンティーナの隣で剣を構えてその機会じっと待っていた。
「刻印・狼烟!歩!今だ!」
「刻印・極結」
コルトの狼烟で視界を奪った瞬間、私の氷で足元を凍結させた。すかさずそこにオシャンティーナが岩で追撃し魔法使いを圧殺した。これで終わってくれれば良かったのだが、敵は洞窟要塞の天井を破壊した。どうやって破壊したのかはわからないが、天井の岩が私達を押しつぶす前にオシャンティーナが私達を外へ押し出してくれたので幸い怪我はなかった。
しかし、外には先程の魔法使いよりも格段に強そうな全身重装甲の人間部隊が来た。わずか五人だが、一体何の部隊なのか、コルトに聞こうと彼の方を向いた所、顔が今までになく真剣だったので相当強い部隊だということが分かった。
「我は王国栄誉近衛騎士団、第一隊隊長のアリゲーターである。敵なれど礼儀はありと見た。貴様らの名を頂戴しよう」
すると、コルトは剣を天に掲げて名乗った。
「俺は魔王連邦軍魔王近衛十騎士団団長、コーランドだ」
なぜ本当の名前を言わないのかと思ったが、その瞬間、私は昔のことを思い出した。そういえば、街の人から魔王殺しって呼ばれてたけど、もしそれが本当だったとしたら魔王連邦軍が反逆者を活かして、尚且つそれを手元に置いとかなければならないほど軍が弱っているということを知らせてしまうのではないか、そんな事を思ったが、アリゲーターという男は鼻で笑って言った。
「嘘だろう?魔王殺しのコルトだ。貴様の顔は昔から片時も忘れたことも無いわ!総員!抜剣!」
王国軍が一斉に剣を抜いた。剣はそれぞれオーダーメイドのようで、それぞれの武器は特徴的な色と見た目ををしていた。どうやら武器の種類までもが違い、メイス、ハンマー、短剣、直剣があった。私も緋色の剣を抜こうとしたが、剣に手をかけたタイミングでオシャンティーナに止められた。もう暫く待て。そうすれば好機が見えると言って私の手を抑えた。
しかし私は普通の剣なら刻印の技も一つしか無い役立たずだ。あの剣ではないと、ああいう技は出せないというのは目に見えている。刻印がこのタイミングで新たに発現するわけもなく、ただ剣を力任せに振るうだけだ。
じりじりと近寄ってくる王国軍に、私達は一歩ずつ、また一歩ずつと後退を強いられた。コルトは何も言わずに、私達と後退を続けている。
そしてついに、私達は囲まれ、身動き一つ取れなくなった。その時、コルトが小さな声で司令を飛ばした。
「歩は眼の前に居る短剣と、アルタイルはメイスと。オシャンティーナはハンマーとやれ。俺は団長とあの直剣を殺る。お互い手出しは絶対にするな、絶対にだ。俺の合図で行け。分かったな」
全員が小さく頷いたのを確認してから、コルトはもう一度刻印を使った。
「刻印・終焉。零式」
コルトのその合図で私達は一斉に指定された相手へと飛び込んでいった。剣を大きく振りかぶった挨拶代わりの一撃を相手は短剣で防いだ。少し離れて距離を取り、周囲の確認をしてみた。コルトの零式は一瞬で敵の懐に潜り込んで狼烟を纏い、下から相手を切り上げる技で、直剣の騎士に防がれたが逆にその剣を折り、今は隊長の相手をしている。
オシャンティーナは投げナイフでハンマーの軌道をずらして今は距離を取るため、森の奥地へと誘導している。アルタイルはメイスに武器を折られないように立ち回り、木の上に登ったりして移動を繰り返して攻撃を避けている。
「スキル発動」
私の前の敵が短剣を空中で振った。それと同時に魔力がとんでもない密度とスピードで私に向かってきているのが分かった。急いで剣に魔力を込めた防御したが、剣は真っ二つになり、危うく私も真っ二つになる所で、ギリギリ回避できた。しかし、武器がないこの現状私は持っている緋色の剣も使うことが出来ずに他で敵の攻撃を避けるしか選択肢がなくなってしまったのだ。
短剣を振る速度がだんだん上がってきた。私はなんとかそれを回避しつつ、極力変則的な動きで先読みされないようにした。どうやら風魔法のようなもので、空気を圧縮し、その反発で自身が回転し、より早く次が発射できるという仕組みだろう。なら、回転を止めればよいのだが、どうしたものか。このまま早くなられたら、もう回避はできない。
「スキル発動・真」
スキルの速度が、飛躍的に上がった。もうこれは後五秒もすれば私は細切れになってしまう。もう考えるのは無しだ。あの作戦で行く!速攻で決める。殺せなくてもいい、無力化さえできれば、それで十分だ。
敵の方へ走り出す。スキルが私の下腹部に命中したが、まだかすり傷だ。何度も何度も飛んでくる風魔法を、急所に当たらないように他の部位へあてながら敵の方へと走っていった。
スキルが私の首に命中した。真っ二つになり、私の意識が途切れる寸前に、残った力で、スキルを使った。
「スキル発動」
脳内で展開したスキルは正直賭けだったが、上手く言ったようで、宙高く待った私の首に、私の肉体がウニョウニョと生えた。そしてそのままの勢いで短剣の騎士を押し倒し、両腕を抑えて短剣を奪った。他の騎士の追撃は抑えてくれていたようで、私は騎士と少しの間会話した。
「くっ...放せ!」
力は私のほうが強かったのでらくらくで抑え込めた。
「放したら私を殺すんでしょう?」
「なら殺せ!こんな惨めな姿、見られたくもない!」
「武器もないのにどうやって殺せと言うんだい?」
その瞬間、武器が私の腰めがけて一直線に飛んできて、私の腰、つまり元あった場所にくっついた。まあこれで剣は使えるようになったが、その前に一つやりたいことがあった。
鎧の騎士の中って、どんな顔してるんだろう?声的には青年か女でもおかしくはないんだが、体格的に男っぽいしな。どんな顔してるんだろう?そんな好奇心から、私は彼の黒い兜を引っ張って取ってみた。
「なぜ兜をとる!?」
私はその顔に唖然とした。女の人じゃないか!ああ、しかも!金髪碧眼の美女!この世界の人って強い人は基本的に顔もいいのかな?騎士様はお貴族様ってどこかで聞いたことあるから、もしかしたら相当お金持ちの、いやいやそんなことはないか。私がうーんと唸っていると、彼女は頬を赤らめて顔を背けた。
「...ろ」
「ん?」
「服を着ろと言っているのだこの露出狂!」
その時私は初めて自分が服を着ていないということが分かった。まあしかし、この体を他人に見られた所で恥ずかしがるような私ではないのでそのまま存分に辱めてやることにした。都邑からは私は本物の露出狂のように自身の身体をさらけ出して喜ぶというただの変態とかしていたが、途中で私に一枚の布が被せられた。
慌てて抑えていない、もう片方の手で布を取ると、コルトがカメムシを見るような目で私を見ていた。私は苦笑いを浮かべて布をきちんと体に巻き付けた。なんだかローマ人の気分だ。
「終わったの?」
「ああ、団長の腕が切り落とされた瞬間に転移されたよ。恐らくそいつ以外は全員転移して撤退したんじゃないかな」
「あれ、じゃあ何でこの娘(こ)撤退しないの?もしかして転移したら私ごと持っていっちゃうから?」
「そんな訳無いだろ。お前がのしかかったタイミングで転移用の術が組み込まれた鎧の部分が割れたんだろ。大体は手首にあるって聞いたが、お前、握る潰してんだもんな、鎧」
彼女の腕を見てみると、手首の部分の鎧だけ、ひしゃげて潰れていた。彼女は仲間にほっていかれたことが相当ショックだったのか、泣き出してしまった。放すわけにもいかないので、コルトの方を見てみると、彼は二つの選択肢を私に提示し、十秒以内の決断を迫った。
「こいつを今ここで殺すか、捕虜としてお持ち帰りするかどっちがいい?」
殺すのはちょっとあれだし、かと言って持ち帰ったとしても、魔王城であんな感じに暴行されるのは女騎士の宿命だし、どっちのほうがこの騎士にとっていいんだろうか...そう思って彼女のかを見てみると、半泣き状態のまま、全力で首を振っていた。
多分殺してくれと言っているようだが、これだと敵の思う壺じゃないか?私達を殺そうとしてきたんだからそれ相応の罰は受けてもらわないと困るか...
「よし、決めた!連れて帰る!」
私がそう言うと、木々の間から、木の葉まみれになったアルタイルと、土埃まみれになったオシャンティーナが出てきた。一応二人にも聞いてみた。
「私の服を汚したのですから、それ相応の罰は受けてもらわないといけません」
とオシャンティーナ。
「私はどっちでも良いのですが、同じようにあの陰湿な攻撃を習っているのなら、ただで死なせるわけには生きません」
とアルタイル。どっちも半ギレ状態で答えてくれた。一応コルトはどっちでも良いということで全会一致で捕虜にすることが決まった。捕虜になると聞いて、騎士ならば潔くと言って一切の抵抗はしなかった。
「うーん...君、名前は?」
オシャンティーナが魔印を使って鉄を地中から引っ張り出してきて作った即席の手錠を掛けながら聞いた。
「コハルだ...」
「ふーん...?え?」
「変な名前だと笑うんだろう?」
金髪碧眼で日本人名で、しかも自分の名を気に入っていない。つまり召喚者や転生者ではないか。なら...
「お母さんかお父さん転生者か召喚者じゃない?」
「!?なぜ分かった。まさか貴様も!」
「うん。私は歩っていうの。召喚されてここに...」
泣いてる。何で?私なんか気に触るようなことした?あ、もしかしてあれか?さっきの露出狂プレイをした人間が自分の親と同じ人種って分かって自尊心がめちゃくちゃになっちゃったのか?それなら済まないことをしたが、どうやらそれで泣いているのではなさそうだ。
「良かった。私の名前を理解してくれる人がいて、良かった。」
そんなに嬉しいことなのかと思いつつ、私は手錠を付けられた捕虜、コハルを引っ張って、敵の増援が来ないうちにさっさと撤収することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます