22.籠城作戦

森の中には、もう騎士団が駆けつけていた。騎士団だけならまだなんとかなったが、先程の特殊衛兵も数人紛れ込んでいる。そして俺の隣にいる歩とベートーヴェンはまだ気絶していた。ベートーヴェンには一応回復魔法を掛けておいたが、これでは自力での本国帰還は厳しいものだろう。一応助っ人を呼んでおいたが、正解だった。そろそろ到着するはずなのだが...あ、来たな。


「よっ!コルトきゅん!かわいいバベルくんが来てあげたよ〜!」


「静かにしろ。バレたらまずいことになる」


「はーい。それで察するにベートーヴェンを連れ帰ればいいんだよね?」


「そうだ」


この小柄で長くバサッととした紅蓮の髪を後ろで束ね、長く伸びたアホ毛を重宝している少女のような見た目をしたこいつはバベルだ。種族は死神らしい。冥界からテンションが高すぎるから冥界の雰囲気を壊しかねないという理由で現世に送り込まれてきたそうだ。いつの間にか十騎士なっていた。昔からずっと小柄なままだが、実力は確かなもので、純粋な攻撃力で言えば、三番目ほどだ。


しかしその子供ながらの体格のせいか、時折子どものような我がままな振る舞いが連携を乱すため、あまり集団戦闘には向いていない。しかし、死神ということもあって、暗殺など、単独任務は完璧にこなしている。


武器はオーダーメイドで、黒く、そして若干紫色に光る大鎌を愛用している。鎌の形状も特殊で、刃部は全体的に解く、刀のような見た目だ。また、両刃であるため推しても引いても刈れる。そしてなんといっても最大の特徴は、先端内側についた突起だ。これがあることで分厚い鎧を着た敵を逃さずに引っ掛けて逃がさないという変わった戦法も取れる。


「多分ボクの撤退時に戦闘になると思うからこの娘(コ)が起きてからだけど、多分大丈夫だよね?」


「いや、正直厳しいな。お前もあの衛兵を見てなにか思うことはないか?」


「まあ...そうよだね。あれが束になってかかって来たら、正直ボク一人で勝てるかどうか半々だね」


二人でこのままここで考えていても何も変わらない。そう思った時、瀕死のベートーヴェンが口を開いた。


「東に...もう使われて無い塔があったはずや。どうせバレるんやったら...そこで籠城したほうがええやろ」


「ま、そうなるよね。でも、あそこ、『アイツラ』の反応があるから、ボクとしてはあんまりお薦めはできないかな。敵か味方かも分かんないやつを頼るなんて得策じゃないと思うよ。コルトきゅん」


「アイツラ...ああ、レイス教の。そういえばさっき会ったな...」


「そうなの!?ボク、正直アイツラとはあんまり関わりたくないんだよ。だって、あんなに良い年した大人たちがこぞってありもしない伝説を勝手に作ってそれが未来だとか言い出す集団なんだよ?」


俺達は暫く考えあぐねた結果、結局塔に向かうことにした。恐らく歩が居るから敵対はしないというのが俺達の最終意見となった。


「そういうことだ。歩。起きてるんだろ?」


「あ、バレてた?起きたけど体動かないし、なんかすごい話し込んでるしで話しにくかったんだよね。ねえコルト君。おんぶしくれない?」


特段断る理由はなかったので、仕方なく背負っていくことになった。バベルに手伝ってもらいながら歩をおぶったが、死体を背負っていると言っていいほどどこにも力が入っていなかった。ベートーヴェンは若干体が動いているのに、無傷のはずの歩の方が全く動かないことを察するに、完全に魔力を使い切ったのだろう。


「全く、戦闘狂かお前は」


俺以外には歩の魔力切れには気づいていないようで、当の本人でさえも全く気づいてい無い様子だった。仕方ないといえば仕方ない。普通、魔力切れを起こした魔族は消滅するから、見たこともないのも当然だ。まあ俺はあるんだが。俺の師匠が目の前で魔力切れで散っていったからな。




              ◆◇◆◇◆◇




「おお、やはり『始まり』よ!吾輩共をお助けに参上なさったのですか!」


塔に着くなり、私は意味の分からない言葉の洗礼を受けた。とりあえず体に力が入らない問旨を伝えると、一切失望せずにこれは主の与えた試練なのだと言ってなぜか喜んでいた。それから、一人仲間を呼んだ。連れてこられた人も、ペストマスクを被り、黒い帽子に黒い羽がついていたので、恐らくオシャンティーナと同じ部類のものと思った。声や黒い髪の長さから女性だということが分かった。それに、見落としていたがペストマスクのデザインが若干違う。


オシャンティーナのものは真っ黒レザーだが、彼女のものは茶黒のレザーで目元には雫の青い模様が彫られていた。ちなみに服は全く一緒だった。あと違うのは、武器くらいか?オシャンティーナは投げナイフで、彼女は一般的な刀を...刀!?この世界に刀あるの!?まあ良い、あるもんはあるんだ。


「うちはアルタイルと申します。では、今から魔力回復魔法をかけますのでじっとしていて下さいね」


彼女が京都弁のようなイントネーションでそう言って魔法を私にかけようとした時、コルトが割って入って彼女の手を掴んで言った。


「お前、そんな事したら死ぬぞ。分かってるだろ」


キョトンとしている私に、彼は説明をした。


「魔力回復魔法はな、自身の魔力を供給するんだ。それで、アルタイル。お前は魔人だろう。まず死ぬが、歩の魔力容量に耐えられたとしてもお前は立つことも出来ないぞ」


私が止めようとしたが、彼女は彼の手を振り払い、大丈夫ですよと言いながら私に魔法をかけ始めた。


「うちは魔力を空気中から吸収して自分の魔力に変換することが出来るんです。つまり、分かりますよね?」


「無尽蔵なのか、チートじゃん」


私がそ言うと彼女はふふっと笑って、それから暫く私の魔力を回復し続けた。


「これで元通りです。それで何で、お礼の代わりと言っては図々しいですが、貴方様の剣を見せて頂けないでしょうか?」


私は何の躊躇いもなく剣を抜いた。緋色に光る剣を見て彼女は少し見とれていた様子だったが、すぐに私に剣を収めるように言った。そして私に再度魔力回復魔法をかけた。それを見てコルトは驚いた顔をした。いや、コルトだけではない。ベートーヴェンもなにか作業をしていたバベルも、何なら顔の見えないオシャンティーナも黙りこくって私の剣を見ていた。


「お前のその剣。抜いてるだけで魔力を消費するのか。さすが神器だな。なにか特異的な能力とかはないのか?」


「神印?ってものが使えるようになったかな」


私のその言葉に、オシャンティーナ以外が凍りついた。そしてアルタイルは左手の小指と薬指を絡めそれ以外の指を折りたたんだハンドサインを私に近づけた。そして、決め台詞の如くこう言い放った。


「どうか、主のご加護がありますように」


オシャンティーナのような変人が言うのではなく、アルタイルのような女性が宗教的な事を言うだけで、こんなにも違うものなのかと思っていると、バベルが言った。


「準備できたから、ボクたちはもう行くよ!コルトきゅんたち、後は頼んだよ!」


「すまない...ワイのせいで、こんな事に...」


「大丈夫だ。悪いのはあの悪魔だ。さっさと帰って休め」


「転移・魔王城」


バベルがそう言い放つと同時に、私が転生時に見た光と同じものが部屋の中から天を貫いて、彼らはいなくなった。それと同時に、塔の下の扉が破壊される音がした。オシャンティーナは投げナイフを胸元から数本取り出し、アルタイルは刀を抜き、コルトも剣を抜いた。私が剣を抜こうとした時、コルトたちに止められ、近くに落ちていた一本の剣を渡された。仕方なく私はそれを受け取ったが、それはここが元軍事施設ということも表していた。


階段を猛スピードで上がってくる音が聞こえ、私達は身構えた。それが部屋の前まで来た途端、急に足音が止んだ。


それと同時に、アルタイルが全方位に結界を張った。


その瞬間、入口と後ろ、それから天井から炎魔法が打ち込まれた。一瞬にして塔は崩れ落ち、私達はかろうじてそこから脱出した。今度は着地と同時に、オシャンティーナが両手を地面について何かの詠唱をした。コルトが何故か驚いた顔をしていたが、私はそんな事を考えている暇もなかったため、ただ周囲の警戒をしていた。


「魔印・創造。顕現せよ、前哨基地」


周囲の地面が移動を繰り返し、そしてその岩石は一瞬にして魔力で補強、削られ、形が整えられ、簡易的な洞窟要塞が誕生した。それは、ドーム状で入口は一つ、岩で塞がれている。そしてドーム内は炎のランタンがいくつも吊り下げられており、オシャンティーナは自分が手を話したら要塞の動きはすべて停止すると言った。崩れることはないらしいが、どうも心配だ。なにせ今にも崩れそうな岩石があちこちを空中移動しているからだ。まあそれは足場か、攻撃するためのものなのだろうが...


「まあ、仕方ない。暫くは籠城して、敵を退け次第撤退するぞ」


コルトの指示に、全員が了解し、全員が各々の武器を構え、私がオシャンティーナを守りつつ、入ってくる王国騎士団と特殊衛兵をコルトとアルタイルで迎撃し、それをオシャンティーナが岩石で追撃するという作戦になった。


入口の岩が砕かれ、敵がなだれ込んできた。


作戦、開始!

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