5.コルト流クエスト攻略

コルトの後について行き、一時間ほど歩いて魔王城に近いギルド本部と看板に書かれた建物にたどり着いた。私達のギルドは魔王城の城下町を守る城壁の隅にあるからこれは致し方ないことだとエリーが言っていた。


看板を見て思い出したのだが、この前コルトから教えてもらった、とある基礎魔法のようなものがある。


それは話す言語系統が一緒であれば、魔力をめに集めると文字も一緒に見えるというものだ。全く、ここは日本人に便利な世界だ。


そして私はコルトが私が来ているのを確認してから、ギルド本部に入った。ギルド本部には世紀末ヒャッハーな男から公爵家の金持ち息子、アニメの主人公のような人まで、多種多様な人たちがいた。


そう、人なのだ。


魔王の領地だから角の生えた人形モンスターや、スライムのような異形が闊歩していると思っていたが、人間まみれだ。だが、人間だとしても、一つ気になることがあった。


本部の人間全員がコルトを怯えるよな、蔑むような、怒るような目で見ていた。


「魔王殺しだ」


「十騎士の汚点、この国の汚点だ」


「ヒャッハー!やべえやつもいたもんだ」


ヒソヒソと、とんでもない言葉が聞こえてきたが、コルトは何も聞こえていなかったかのように受付嬢に話しかけた。


「この中で一番危険度の高い討伐任務はあるか?」


コルトの威圧的な態度とは反対に嬢の反応は穏やか、もっというと少し恥ずかしがっているように見えた。


「あ、あの、こちらになります。あ、それで、よかったら今度お茶でも...」


するとコルトは今までにないイケメンスマイルで彼女を見て言った。


「ごめんね。また今度、行ってあげるよ(キラッ)」


嬢は顔を赤らめて笑顔でクエストの出撃認可状を出してコルトに渡した。


「行ってらっしゃいませ。コルトさ...あれ?誰ですかその子?」


ようやく私に気づいたようだ。恋は盲目と言うがこれほどまで盲目になるのか...


「ああ、この子は俺の新しいギルドメンバーだよ(キラッ)」


コルトが今までになく気持ち悪い行動をしているのを虫唾の走った顔で見る私の顔を見たのか、嬢は本気で私を睨みつけた。


「行くぞ。歩」


コルトが私の手を引いてギルド本部から出た。それから本部近くの石板の上に立った。


もしや、これは、ワープとかしちゃう石なのでは!?と思う私の予想通りに私達は石板から出る光に包まれ、次の瞬間には後ろに魔王城と城下町を囲む城壁があった。


これが、外か。


外は、なんて、なんて


「なんて荒廃しきってるんだよ!」


私が思わずツッコミを入れてしまうほど城壁の外は荒廃していた。地平線まで広がる荒野。なんか汚い空。元々建物があったと思われる瓦礫も触れただけで崩れ落ちてしまうほど風化していた。


「なんで...こうなってるの?」


私がコルトの方を見ると、彼は少し首を傾げて言った。


「あれ、言ってなかったっけか。これは昔起きた聖戦と呼ばれた戦争のせいでこうなったと言われている。勇者と大きな魔獣が戦った結果こうなったらしい。大きな魔獣は魔王じゃないからな。魔王は当時この城壁を立てて引きこもってたんだ。だからここだけ荒廃を免れているんだ」


わあ、魔王様チキンなんだね。とは絶対に言わない。


そのとき、地面を割るような轟音とともに、ちょっと腐りかけの龍の上半身が土の中から生えてきた。


「うわキモッ、何あれ?もしかしてあれが討伐対象なの?」


「ああ、そうだが」


「ちょっと初めてにしては少し大きすぎるんじゃ...」


そこで私はあることを思い出した。コルト君、本部で一番危険度の高い討伐任務をって言っていたよね。じゃあ、これって相当やばいやつなんじゃ....


私がそう考えている間に、コルトは私の少し前で移動して、剣をスラリと抜いて私に向かって言った。


「今からこの世界での基本戦闘事項を軽く教える。見様見真似でやってみろ!」


私も剣を出して彼と似たような構えを取った。これがまた体に馴染んで前から習っていたもののようだった。やはり初心者には初心者なりに配慮をしているんだろう。


私がそんな事を考えているうちに彼は呪文のようなものを唱えた。呪文と言ってもほんの一言なのだが。


「刻印・終焉」


すると彼の顔にはタトゥーのような黒い文様が浮かび上がった。形は三日月が乱雑に組み合わさったような模様だ。それが左頬にだけ浮かび上がっていたのだ。いや、刻まれていると言ったほうが的確かもしれない。それから彼は黒く光るモヤモヤを剣にまとわりつかせ、更にこう言った。


「一式」


すると彼はモヤモヤがまとわりついた剣を龍に向かって振り下ろした。無論剣が届く距離などではなかった。しかし龍の体は一瞬にして見事なまでに真っ二つになって、またも轟音とともに地面に落ちた。龍の肉体はすぐに溶けるように消滅した。


「何...今の?ねえどうやるの!私もやってみたい!」


何故かって?そんなの決まっている。か・っ・こ・い・いからだ!!あぁ、厨二心がくすぐられる!まるでなろう系小説とかアニメに出てくるかっこいい王子様みたいじゃないか!私も使えたらなぁ...うへ、うへへ...


「お前、とんでもなく気持ち悪い顔してるぞ...」


「んっ!?ああ、失敬失敬。オホンッ、それでコルト君。一体どうするんだい?」


赤面しながら聞く私をコルトはため息を付きながら見た。


「はぁ、見様見真似でやってみろって言っただろ」


うわっ何だこいつ。教えてくれないのかよ、ケチ。どケチ。減るもんじゃないのに。そう思いながら私は剣をコルトと同じ構えにして呟いてみた。


「刻印開放」


そうすると私の周りから黄金に輝く煙が立ち上り剣にまとわりつく...はずもなく、私はただ人前でカッコつけて何もできなかった痛いやつになってしまった。


「...できないんだけど」

私ができないのを見てコルトは何かを思いついたようで


「よし、あいつを呼んでみるか。じゃあ自分で帰ってこいよ」


と言って、私を置いて帰ろうとした。急いで後をつけようと後ろを振り向くと、コルトだけワープして帰ったようで、そこに人影はなかった。


「あのクソ野郎...帰ったらしばき回してやる」


そう言って私は、帰ろうと城壁の前に立ち、見上げた。ざっと二十メートルくらいか。イケるな。


「せーのっ、よいしょっ」


という私の掛け声とともに私の体は城壁の上まで持ち上がった。言っただろう?私の体は普通じゃないって。たかが二十メートルくらい、低い低い。


あたりを見渡しても、見えるのは知らない町並みと、遠くに見える魔王城のみ。さてどうしたものかと思っていると、城壁の見回りの男が私の後ろにいた。


「お前、こんなところで何をしている!」


捕まったら確実に面倒なことになると思って、急いで城壁を飛び降りて、とにかく魔王城の方向へ突っ走った。魔王城近くのギルド本部に着けば、ギルドに帰れるかもしれないと思い、私はそこで急に思いとどまった。


「私の家って、あそこでいいのかな。」


たしかにみんな優しくて、コルトだっていい人だ。でも、私の居場所はここじゃない。魔王にでも直接掛け合って元いた世界にでも返してもらおう、そう思った。


それから普通の道を私が全力で走れば何人か轢殺することは目に見えていたので、建物の屋上を伝って魔王城まで直線距離で行くことにした。十分くらい走って休憩を挟もうと足を止めたときだった。


「あなた、こんなところで何してるの?」


急に背後から女性に話しかけられた。私の腕を振りほどけない程強くつかんでいる。なんて握力なんだ。捕まる。その言葉が私の脳裏をよぎったときだった。


「...もしかして、あなたって召喚者?」


もしや、これは理解者登場なのでは!?と思い弁解を行った。


「はい、急に召喚されてギルドの人たちにおいていかれて困っているんです」


「ふーん、そうなんだ。私はフェニー。フェニー・ライズ。よろしくね。あなたは?」


初めての理解者に私は心を踊らせ、彼女の顔を確認するため振り向きながら自己紹介をした。


「私は、神木 歩って...」


ものすごい装備だ。全身鎧。それも全部三センチ以上はある装甲だ。


「あなた、神木 アユミッテっていうのね。少し変わった名前だけど、よろしく」


「ああ、違うの。私はアユミッテじゃなくって歩」


「あら、あなた名前が二つあるの?」


「いやそうじゃなくって...」


「ここにいたのか。歩、心配したぞ」


急にどこからともなくコルトが現れた。汗ばんでいて、息も切れている。私を探したんだな。こいつ。


「人を呼びに行って帰ってきたら急にいなくなってるから急いで魔力探知でお前の痕跡を追いかけてきたんだが、こんな所にいたんだな」


安心したのかコルトが大きく一回ため息をついた。


「あ、そうだ。その呼んでた人って一体誰な...」


「会いたかったよ。せんせーい!!急に私を呼び出しておいて、一緒に行ってくれないなんてひどいよ」


フェニーはコルトに向かって鎧を着たまま飛びついた。


「え、どういうことなの?」


「詳しくはまた今度説明する。もうそろそろ日が落ちるし、まあ交流がてらに今日はフェニーの家に泊まっていくといい。今後も長い付き合いになるだろうしな」


コルトはほとんど何も言わずに私と、彼に抱きつくフェニーを剥がして何処かへと去ってしまった。


あいつ、私を連れ帰るのが面倒なだけだっただろ。

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