6.お泊り会
コルトと別れた後、フェニーが私を家に招いてくれた。とんでもない豪邸だ。どことなくホワイトハウスに似ている。玄関までの長い庭を歩いて扉を開けて中に入った。
「お、お邪魔します...」
玄関先で私が少し縮こまっているのを見て、フェニーは
「まあまあそんなに固くならないで。私達もう友達なんだし」
と言って振り返り、私の頬に手を添えてニッコリと笑った。そうですね。私がそう言うと、フェニーは少し口をとがらせていった。
「もう、友達なのに、敬・語・は・ナ・シ!いい?」
「あはは、わかったよ。フェニーちゃん」
私がそう言うと彼女は少し頬を赤らめた。あれ、もしかしてちゃんって禁句だったりする?
「あ、あのさ。一つお願いなんだけど。歩ちゃんのこと、アユミンって呼んでもいい?私のことも好きなように呼んでもらってもいいから」
彼女の発した言葉に私は思わず吹き出してしまった。
「な、何笑ってるのよ!そんなに変だった?」
「いやいや、違うよ。そんなに恥ずかしがることでもないのにって思っちゃって。もちろん好きなように呼んでいいよ。笑ってごめんね。フェーちゃん」
私のあざとい笑みにフェーちゃんは顔を真っ赤にして叫んだ。
「あ〜もう!暑い!汗かいちゃった。ね、一緒にお風呂はいらない?」
「ゑ?いいけど...」
この国はそうい
「何突っ立ってるのよアユミン。行くわよ」
そう言って私は彼女の家の玄関から真っすぐ廊下を走って私を脱衣所に連れ込んだ。
装備やその他の服を変わった形の洗濯機に入れて...あれ、洗濯機?あるの?いや、これだけ大きな街なんだから、文明もそこそこ発達していてもおかしくはない...か。いやでも、この洗濯機、社会の資料集で見たことがある気が、たしか...二槽式洗濯機とか言う名前だっけ。
これは現地民案件だな。聞いてみよう。
「ねえ、フェーちゃんこの機械ってどうやって使う...」
もう脱いでいたが、何がとは言わないが絶壁だった。これ、私よりもないんじゃないか?
「ああ、それね。洗濯機っていうの。使い方は、中に服を入れて、この蓋を開けて、ほらここ。黒い球体があるでしょ?ここに魔力を流すの。そしたら自動で水魔法と弱い炎魔法と風魔法が展開される。そこに洗剤を入れれば、服がきれいになるの」
私の邪念を遮って始めたフェーちゃんの説明を聞く限り、洗濯機の仕組みは随分と簡単なようだ。
「ふ、ふーん。説明ありがとね。入りましょ」
私は彼女を急かすように浴場に連れ込んだ。彼女の家の浴場は広く、十人は一緒に入れるような見た目だった。
「わあ、広い!」
今すぐにでも飛び込んでやりたかったが、フェーちゃんがお互いの背中を流そうと言い始めたので、仕方なく私は背中を差し出した。人に背中を流されるというのはなかなか奇妙な体験だった。
自分では届かないところまで綺麗に洗ってくれて心地よいものだった。私が彼女の背中を流していると、風呂にもう一人入ってきた。
「あ、フェニー団長。お友達ですか?」
お風呂の中でもメガネを付けているおさげの女性が入ってきた。きれいなドーム状だ。私達のどことは言わないが二人分の高さを合わせても遠く及ばない。
「ええ、そうよ!私にもついにお友達ができたの!」
フェーちゃんが自慢気にそう言うとメガネの子はくすっと笑って私に一礼して体を洗い、湯船に浸かった。今度は私がフェーちゃんの背中を流す番になった。彼女は少し長い髪を自分の体の前にやって、私はあるものを見た。うなじだ。きれいなうなじだった。特殊な癖を展開した私は気づけば人差し指でなぞっていた。
すると彼女の体は一度大きく反り返ってすぐに戻って、私を頬を赤らめながら見た。
しまった。嫌われたか。そう思ったが、彼女は何も言わずにもう一度前を向いた。
「早く、洗ってよ」
その後は静かに彼女の背中を流し、湯船に浸かった。知らぬ間にメガネの子はいなくなっていた。
「ふう〜、あったまるね〜」
私が大きく伸びをしてそう言うと、フェーちゃんは少し不機嫌そうに言った。
「さっきのアレ、なんなの?」
あ、やっぱり怒ってるのかな?
「ごめん...」
「いや、謝らなくていいから。その、ね?私のうなじ、どうだった?」
「どうって?」
「...かった?」
「え?なんて?」
「綺麗だった?私のうなじ」
返答次第ではとんでもないことになる予感がする。というよりなんだ?うなじの質問って。ワケワカメだ。
「...あ、綺麗だった...?」
自分なりの最高の答えを出したつもりだった。
「じゃあ、これでおあいこね」
フェーちゃんはそう言って笑い、わたしの耳に小さな息を吹きかけた。
全身を妙な感覚が走る。私のひどい赤面っぷりを見たフェーちゃんはくすっと笑っていった。
「もう上がりましょ!のぼせちゃう」
お風呂から上がってフェーちゃんの寝衣を貸してもらったが、やはり少し、ほんの少し胸元がきつい。夕食だと言って私を長い廊下を曲がりくねった先にある食堂まで案内してくれた。
「団長!夕食後に手合わせ願います!」
あ、さっきの眼鏡の子だ。
「いいわよ。あ、そうだ。アユミン、ちょっと見学していったら?」
急な見学のお誘い、面白そうだ。
「もちろん行くわ!」
その後高級ホテルのような夕食を摂って、彼女らとともに中庭に向かった。
中庭には闘技場のような整備された硬い地面と、それを覆うドーム状の透明な緑色の結界のようなものが張っていた。いや、結界だろう。絶対に。アニメで見まくったやつだ。
「まあ、ここで見ときなよ」
フェーちゃんはそう言うと、眼鏡の子と一緒に結界の中に入っていった。
「じゃあ、始めようか」
フェーちゃんはいつの間にか腰に差していた剣を抜いた。
「さあ!来い!」
彼女の掛け声に合わせて眼鏡の子が持っていた大きな杖を掲げて呪文を詠唱し始めた。
「紅の項・三行目・黒煙」
すると、彼女の足元から真っ黒の煙が立ち込め、結界の内側に充満した。それに続いて、もう二つなにかの詠唱をし始めた。見えないから何をやっているか全くわからないが、そこそこ大きな戦闘をしているのだろう。
「同項・一行目・炎柱。緑の項・一行目・風刃」
煙がうずまき、間から炎が見えるようになった時、フェーちゃんの声が聞こえてきた。
「炎の段・一章・獄炎」
それは一瞬の出来事だった。突如として黒煙と炎が晴れ、眼鏡の子に向けられたフェーちゃんの剣先から太陽のような光の球体が発生し、それがすぐさま眼鏡の子に向かって放たれた。
ドームの中がものすごい光で満たされ、それは一瞬でもとの空間に戻った。
気がつけば眼鏡の子は地面に倒れていた。全身やけどまみれで、生きているかも怪しい状態だ。
「戦闘終了」
フェーちゃんの声に反応するかのように緑色のドームは一度大きくうねった後、眼鏡の子にレーザーのような細い光を当てた。すると眼鏡の子の体はみるみる内に回復していって十秒ほど後には完全に復活していた。
「ありがとうございました。団長」
ちょっと半泣きの眼鏡の子がフェーちゃんに挨拶して、どこかへと去ってしまった。
「ねえ、明日の朝私と勝負しない?」
いつの間にか私の隣に来ていたフェーちゃんが私の耳元で囁いた。突然の決闘申込みに困惑しながらも彼女のキラキラと輝く目に負けて承諾した。
「でも、私、まだ魔法とか全然使えないよ?」
唯一の懸念点を言うと、フェーちゃんは魔法が使えなくても大丈夫と言ってくれた。なぜ大丈夫なのかと言うと、フェーちゃん曰く
「よく見てれば、魔法も剣で叩き切れるから問題なし」
だそうだ。うん、全く意味がわからない。
「今空きのベッドがないから、私と添い寝しよっか」
と言われ、胸に一抹の不安を抱きつつも、その日はフェーちゃんの大きなベッドで二人一緒に寝ることになったのだ。この世界はインド人並みに距離が近いのか?そんな事を思いつつも彼女のうなじを前にしながら私は眠りについた。
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