7.決闘!フェニー・ライズ

「ん...んんっ」


夢も見ないほど寝心地の良いベッドから起きて、体を起こそうとした。


動かない。


隣を見てみると、フェーちゃんのカワイイ顔が近くにあり、彼女の腕と足が私に絡みついていた。これは男子なら一度は想像するシチュだなと思ったが、あまりにも抱きつく力が強く、肋がきしみ始めたので、私は彼女を起こした。


「起きて、起きてよフェーちゃん。朝だよ。私死んじゃうよ」


私がそう言うとフェーちゃんは飛び起きて一瞬で着替えて私の方を見た。


「早くやろうよ!」


何だこの子、自分のほうが起きるの遅かったくせに。そう思った後、着替えようとしたところ、フェーちゃんが私に新しい服を差し出してきた。


「これ、どうしたの?」


私が聞くと彼女はさも服を差し出すことが当たり前のような口調で言った。


「あなたの着てた服、メイドさんが、魔力の補正もなんにもないし、装甲だって無いから弱すぎて捨てちゃったらしいわよ。それでこの新しい服、あなたにあげる。メイドさんが買ってきてくれたんだって」


ふーん、ありがたい、のかな...と思いながらフェーちゃんから受け取った服を着た。それからわたしたちは朝食会場への長い廊下を歩き始めた。


この時間で紹介しよう!私の今のスタイル&キャパなどを!


まず身長は百六十五センチ。体重は秘密♥それで黒髪短髪。ボブに近い感じ。目は生まれつきの漆黒(だーくねす)。ここまでは普通の日本人ね。


もらった服のデザインについてだけど真っ黒で硬めの生地のトレンチコートにスーツ生地のようなズボン、そして綿のシャツの上にスーツ生地のチョッキというなんともおっさんみたいな装備だ。


これで体が守れるのかと聞かれてもよくわからないとしか言えないが、動きやすく加工されてはいる。


それで、話を戻して体力テスト(自前)だけど握力が少なくとも六十八キロ。三十秒の腹筋、腕立て、反復横跳びが、それぞれ少なくとも四十回、四十二回、七十二回ってところだ。


で、剣術だが、剣道とは別に、私は昔お隣の怪しいイケおじから教えてもらった謎剣術が私が習得している唯一の型で、最大の弱点は、『自分と同じ技を繰り出されたら確実に相打ちになる』らしい。しかしその場合は稀で、ほとんどは、より早い方に軍配が上がるそうだ。


まあ私の動体視力と筋力なら銃弾も叩き切れると言っていたが、実際はどうなることやら。しばらくしてフェーちゃんが鎧を完全装備して私を昨日の中庭ではなく、フェーちゃん邸宅から少し離れた簡易闘技場に連れて行ってくれた。


簡易闘技場にも緑色の結界があり、準備が終わるとすぐに私は罪深之剣を出した。そして全身を鎧で固め、昨日と同じ日光を反射し、緋色に輝く剣を抜いたフェーちゃんと相対した。


「どんな結果になっても、恨みっこなしね」


「分かってる」


お互い、息を大きく吸った。風邪がお互いの間を通り抜けてゆく。


息を、吐いた。


一瞬の静寂の後に、お互いに切りかかった。


さすが異世界、相手も人間の速度じゃない。私と同程度だ。


剣を打ち合ってみて、すぐにわかったことがある。


これ、勝てるな。


一度大きく距離を取って剣を構えた。

すると私に呼応するかのように彼女も剣を私に向けて構えた。彼女の構えを見るに、まだ剣の達人というわけではなさそうだ。ところどころ、荒い部分が目立つ。


しかし彼女には魔法がある。昨晩の魔法を撃たれたら、どうなるかは目に見えている。


「炎・第一章・獄炎」


彼女はおそらくそう言いたかったのだろう。しかし私はそれを許さなかった。彼女が詠唱を始めるタイミングで一気に切り込んだ。彼女はすぐに魔法の詠唱を止めたが、もう遅い。短期決戦なら、これしか無い。


「一式・閃」


私の一番得意とする技、閃。それは足以外の力を一瞬抜いて一気に加速する技。


「なッッ!」


彼女が何かを言うまもなく私は彼女の鎧に切込みを入れ、脇腹を裂いた。浅い。しくじった。


「や、やるじゃない」


「そこっ!」


私はそう叫んで、もう一度彼女に向かって攻撃を繰り出した。まあそこと言っても数か所在ったのだが。


二式・廻


私は彼女の足元で動きを一瞬止めて、一気に数回切った。


「ウッ...!」


彼女は少し戦意を失い始めた声を出し始めた。


「その鎧、柔らかいんじゃないの?」


私が少し挑発してみると彼女は鬼の形相で言った。


「く、くっそぉぉぉぉぉぉお!」


やれやれ、引っかかっちゃったな。最後に私は彼女の耳元で異世界に来て、チートムーブをかました後の決め台詞を囁いた。


「怒りは人に冷静さを失わせるんだよ」


すれ違いざまに剣の柄で彼女の鎧の首元を思い切り殴った。


ガシャンという音とともに彼女は地に伏した。


「あぁ、私の負けね。アユミン。あなた強いのね」


「フェーちゃん。今にも気絶しそうだけど、一つアドバイスしておくね」


「ん?...なぁに?」


「鎧、着ない方がいいと思うよ」


本当だ。昨日の戦いでは鎧を来ていなかったが、準備運動では私よりも早い圧倒的なスピードを見せていた。


「ええ、本当な...の?...先生からもらったものだから、ずっと着てたんだけど、そうなのね...」


彼女はその言葉を最後に気を失ってしまった。しばらく経っても再生しなかったので、昨日のことをよく思い出してみた。


ああ、そうだ。フェーちゃん最後にこんなこと言ってたな。


「戦闘終了」


私がそう言うと、昨日のように結界は彼女の傷を修復した。彼女が目覚めると同時に急に外からコルトが入ってきた。


「あ...あれ?先生?なんでここに?」


起きたてのフェーちゃんがコルトに聞いた。


「ああ、ちょっとここであのフェニー様が戦ってるって聞いたからちょっと見に来たんだが、すごい一瞬で負けてるな」


一回ディスった後に、さらにボロボロのフェーちゃんに頭をコンコン叩きながら、さらに追い打ちをかけるように言った。


「お前魔法ばっか使わないで刻印もちゃんと使えよ。どんな相手にも舐めてかかったら痛い目見るからな」


一応彼なりの忠告をしたのか、事を済ませたような顔をした彼は私に向き直っていった。


「俺と一回やってみるか?」


コルトとやるのか...正直勝てるか怪しいが、ここはフェーちゃんに聞いておこうか...


「やめといたほうがいいよアユミン!死ぬよ!まじで!」


そんなに危ないやつなのか。でも、それでもいいか。俄然燃えてきた。


「いいよ、やろう」


私がそう言うとフェーちゃんは、ちょっと私準備してくると言って、どこかへ行ってしまった。


「まあいいか。じゃあ、俺がこのコインを投げて地面についたら始めるぞ。いいか?」


「わかった」


少し距離をおいて、剣を構えた。コルトはまだ背中に剣を差したままだ。


コインが投げられた。コルトが剣に手を伸ばした。


剣を掴んだ。


コインが地面についた。


一気に加速して彼に切り込んだ。


瞬きをした。居ない。


「まだまだだな」


背後からコルトの声がした。


次の瞬間、私の右腕がなくなっていた。


生まれて以来感じたことのない激しい痛みに悶えながら、まだ空中に浮いている剣に手を伸ばしたときだった。次は左腕がなくなった。地面に倒れ込むと同時に意識が遠のき始めた。


「戦闘終了」


コルトがそう言うと瞬く間に私の腕元通りになった。


「っはぁ、死んだかと思った」


少し興奮気味の私を見て、コルトは私を変態を見る目で見ながら言った。


「なんで腕切られたのに喜んでんだ。大体の召喚者はここで心が折れて商人とかになるんだが。変態か?お前...」


そんなのは簡単だ。


「自分より強い人に初めて出会ったし、それに、もっと高みを目指せるような友人もできたし!」


私がそう言ってコルトの顔を覗き込むと、彼は少し顔をそむけて言った。


「大切にしろよ」


彼らしくない優しい言葉に少し戸惑ったがうんと頷いて彼と一緒にギルドまで帰った。やっぱり私の居場所はここなのかもしれない。


自分が楽しめるところが居場所なんだ。そんな簡単なことを考えた。


「ふふっ」


「どうしたんだ、急に笑って」


「なんでも無ーい」


私は笑顔でこの人たちの隣りにいられる。だから、今は、ここがいい。買い物しながら二時間かかった帰り道も彼と一緒ならすぐに感じた。あ、決して好きになったけじゃないんだからねッ!

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