8.授業①
フェーちゃんとのお泊り会からしばらくして、私はこの世界についてコルトの授業を受けることになった。
どこからともなく持ち出した机と椅子に私は座り、彼は私の机に資料の紙束を置いて説明を始めた。本当は基本説明事項はギルド入団直後に話す予定だったのだが、予定が狂いまくったので今になったという。
「じゃあ、始めるぞ」
ギルドの裏庭、私が以前周囲を凍らせた場所にコルトと一緒に行き、彼はこの世界について、魔法や魔術、そしてクエストのときにつかっていた『刻印』と呼ばれるものについての説明を始めた。
「まあまずこの世界だな。ここは魔王直轄地域・アシュルケナーつまり首都だ。魔王はこの国、ラグナロク連邦の女王という立ち位置で最高権力者、議会の法も彼女がノーと言えば否決される。そういえば、アシュルケナー以外にもたくさんの都市があちこちにあるらしいが、今はほとんど隣国の神聖エデン国に襲われ壊滅状態と聞いている」
「はい!質問いいですか?」
私はコルトに聞いた。
「この前、財政難って言ってたけど、この国もしかして滅びかけだったりするんですか?」
私の率直な質問にコルトはなんのよどみもなく答えた。
「そうだな。俺は数ヶ月後クーデターでも起こしてやろうと考えてるんだ」
「ん?え?まじ?」
「大マジだ!」
これってここで言っていいのかな?私が密告したりすればコルト君、処刑されるんじゃないの?コルトは私が考えていることがわかったのか、懸念している点について少し語った。
「まあこの国の平均的な生き物の半分の力が一気に俺に襲ってこない限り俺は死なないよ」
あれ?もしかしてこの人めちゃくちゃ強いのでは?
「なんでそう思うの?」
理由を尋ねてみると、コルトは偉そうにはにかんでいった。
「俺、この国の騎士団の中で一番強かったから」
ああ、やっぱりやっぱり俺TSUEEEEEEE系なのか。
ん?でも、強かったって?過去形じゃないか。今はもっと強いのがいるってことなのか、じゃあ逃げ足が早いってことなのかな。
「おい、何ぼーっとしてんだ。授業に戻るぞ」
「アッハイ」
それからは日の沈むまで授業をされた。もちろん超長いので簡潔にまとめたものが以下のものになる。
・魔術
詠唱をして大気中や自身の魔力を消費して何回でも魔力の尽きるまで打ち続けることができる。決まった型しか無く、現時点ではもう全て解明済みとのこと。主な属性は日、水、風、地、光、闇。そして純粋な魔力を流し込み体を強化または弱体化させる。つまりバフとデバフだ。魔術は道具を用いてしか発動ができない。剣に仕込むなり、杖に仕込むなり、体に仕込む形と用途は多種多様だ。
さらに魔術は『章』『項』『行』に分かれており、『章』は属性、『項』はその属性の用途、要は飛ばしたり叩きつけたりっていうことだ。そして『行』、これは魔力を魔術として変換するための最重要工程らしい。一流の魔術師はこの『行』の名前をいうだけで魔術が使えるのだそうだ。
・魔法
魔術師がある一つのものに決まった属性の魔力を流し込み、それを取り出して球体にしたものだ。厳密にはこれは魔法球といい、放たれたものを魔法というらしい。元々はあんまり強くもない一回打ち切りの、切り札にもならなかったゴミだったが、技術の進歩と魔術の洗練により、より高度で高密度な魔法を放てるようになった。また一般人が適当にその辺の球に魔力を流し込むだけでも小さな魔法は作れ未だ何種類あるのかは分かっていないが、生き物の数だけあるという学者もいるらしい。
・刻印
太古の昔から世界に存在し、万民が使用しているのにもかかわらず分かっているのは刻印使用時には自身の魔力しか使われないということだけという、謎に包まれた力だそうだ。
ほとんどの生物に生まれつき備わっているものらしいが、刻印を発現できるのは極限られた一部のものだけだそうだ。また、刻印使用時には自分の肉体の何処かに紋様が刻まれるそうだが、階級が高い刻印であるほど顔に濃く、低いほど四肢の末端に薄く出るそうだ。
ちなみに刻印の階級は強いか弱いかで大体は判断できるらしい。
コルトの場合は頬に濃くはっきりと出ていたのでおそらく階級の高い刻印なのだろう。
私はこれから頑張って無理矢理にでも出すらしい。コルトが言っていたのだ。
その他にも、うだうだ言っていたがまあ簡単に言うと固有スキルということだ。
「つ、疲れた...」
数時間に及ぶ休憩なしのぶっ続け授業により、私のライフはもうゼロに近かった。
「じゃあ次はこの国のギルド及びその関係機関についてだな」
まだやるのかよ!もう夜だぞ!
「もうやめて!とっくに私のライフはゼロよ!」
「...今日やるわけ無いだろ。また今度だ。明日にでもやろうか。まあ今日はこれで終わりだ。帰るぞ」
私はコルトがってきた紙束を抱えてギルドに持ち帰った。夜、ベッドに寝転がって紙束もとい授業プリントを眺めていると、あることに気がついた。
『刻印は使えば使うほど神に近づく』
コルトは何もここを説明していなかったが一体どういうことなのだろう。また聞いてみるか。
「あ~っ!疲れたっ!早く寝よう!」
紙束を放り出して私は死んだように深い眠りについた。
夢を見た。
夢を見ていると分かっている夢だった。明晰夢というものだろう。
夢の中の私はある部屋の中にいた。夢を見ている私が寝ている部屋だ。
意識がほどける寸前の状態を保ちながら布団の中にいた。
不意にコルトの声がした。
「おい、行くぞ。早くしろよ!」
夢の中で目覚めたのかと思って起き上がろうとしても、体が重く、動かない。
「コルト君!体動かないからちょっと助けてほしいんだけど」
私がそういったか言えていないかはわからないが、彼はわかったとだけ言った。
彼は一体どこから話しかけているんだか、全くわからない。上?下?右?左?全体からと言ってもいいかもしれない。不意に部屋の扉が開き、ある一人の男の人が入ってきた。
男の人は何かを言ったが、何も聞こえなかった。
でもすごく暖かかった。
ありがとうと口をついた言葉がこぼれ落ち、そのあとすぐにコルトが入ってきた。
ああ、そこにいたんだ。
夢はそこで終わった。
◆◇◆◇◆◇
目が覚めた。
朝の太陽の光が私の体を照らした。起き上がって着替えて、朝食を取った。
やはりここのご飯は美味しい。なんでだろう。日本じゃないのにご飯が美味しいってきっとなにか繋がっているところでもあるのか見しれない。いや、でもフェーちゃん邸宅で食べたご飯はあんまりだったな。純粋にコルトの料理がうまいだけなのかな。
私が朝食後に歯を磨いていると、エリーが起きてきた。いつもは昼間で寝てるのに朝に起きるなんて珍しい...ん?あれ?誰だこの子?洗面台の鏡に写ったのはエリーなのだろう。でも、それにしてはえらく成長していると言うか、大人のお姉さんになってる?いつも来ているきぐるみが、今にも破れそうなほど伸び切っている。
「ふぅぁあ...おはよ。ん?アユちゃんどうしたの...?そんな顔して」
いつもはロリ声のエリーだが、今は大人のお姉さんの声になっている。
「え、エリーちゃん、どうしたの?その体?」
まだ自分の体の変化に気づいていないエリーが彼女の鏡に映り込んだ姿を見てやっと気づいたが、特に動揺もせずに話しだした。私よりも背が高くなっていると言うのに今まで気づいていなかったのだ。
「ああ、これね。刻印のせいなの。大昔の戦争で、刻印を使いっぱなしでずっと戦ってたから、魔族としての器では魔力の足りなくなった魂が、外部に抜け出そうとして、それを抑えるためにエリーの魔族としての肉体が一部ワンランク昇格したんだよ。それで一部が上位魔族、それ以外が普通の魔族の肉体になってるから、時々こうやって肉体が変化しちゃうんだよね。じゃあエリーはご飯食べてくるから」
『神に近づく』ってこういうことなのかな。種族として進化することに近いのか?
チンパンジーが刻印を使いっぱなしにしていたら人間になったりするのかな。
「ああ、難しいなあ」
歯磨きを済ませ、私はコルトの授業を受けるために彼と裏庭に向かった。
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