4.探索

二人からギルドハウスと呼ばれているこの建物のソファに寝ころびながら私はコルトに聞いた。


「ねぇ、コルト君」


「なんだ」


「ずっと疑問に思ってたことなんだけど...」


本当にこの世界に私が来てからずっと疑問に思ってたことなのだ。とても重要なことなのだ。私の常識が崩れ去った瞬間でもあったからだ。


「この世界の魔王って、白色が好きなの?」


「は?」


とてもくだらないことなのだが、聞きたかった。ここの王様が魔王だということは最初から知っていたのだが、魔王といえば、黒なのだ。それなのにこの世界の魔王ときたら、お城から何まで、全部白を基調としたものになっている。これではまるで勇者陣営にいる気分だ。


「お前、そんなことが聞きたかったのか?」


「うん」


そうするとコルトは大きくため息をついてから、こういった。


「そんなことないぞ」


意外だった。こんなに真っ白なものが多いのになぜそんなこともないのか。理由を聞いてみるとコルトは少しニヤニヤしながら言った。


「今この国は財政難だからだ。それで一番コストの抑えられる白を使っているんだ。ちなみに、魔王はピンクの信者級にピンクが大好きだ。」


ピンクか...それも意外だった。何も返事せずに黙っていると、コルトはどこか外へ行ってしまい、ギルド内には私だけ取り残されてしまった。


ほかのみんな、と言ってもエリーだけだが、コルトが私のお守りをするといって、エリーをいったん実家へ帰らせたりしている。この国はいま長期休暇中らしい。つまり、つまりだ。私一人だけということは、


「探検し放題じゃん。やったね」


私はにやつきながら、一階の探索を始めた。


まず玄関からだ。扉を開けてまず見える廊下の一番右の手前にある部屋は、エリーの部屋で、入ってみると、約八畳ほどのスペースの中にベッドとタンスと大量の人形が足の踏み場もないほどぎっしりと詰まっていた。人形はすべて小さな女の子が持っているようなかわいらしい動物のようなそうでないようなものばかりで、どれもきれいに保たれていた。ベッドの布団はくしゃくしゃになっていていて、ところどころ汚れていた。タンスの中には着ぐるみがたくさんあって全部同じものだった。もしかしてあの子中何も着てないのかな。


布団の形を整えてから、今度は向かいの部屋に入った。この部屋は、この世界のキッチンといったところで、コルトの手によって、エリの部屋の数千倍綺麗にされていた。


なぜそこまできれいにするのかというと


「料理とか掃除も全部俺がやるからな。綺麗なほうがやりやすい」


と言うのだ。それでは、エリーはいったい何をしているのだ。そんなツッコミが入りそうなので、ここで彼女の普段やっていることをご紹介しよう。まず彼女はこのギルドの団長をしていて、いろいろな会合などにも参加している...らしい。


そのほかは...ない。半分ニートみたいなもんだ。


それから、先ほどの廊下の突き当りの部屋が武器庫になっている。ここはコルトから立ち入り禁止令が出されているのだが、今日は入ってしまおうと思う。


大きく息を吸って扉を開けると、そこには、重そうな、巨大で、二メートルは優に超える斧が置かれていた。そのほかには、コルトの謎の剣も置かれていた。その隣に、私の罪深之剣(シンフル・ソード)も置かれていた。私の剣もつい先日鞘を作ってもらったのだ。


私がその部屋の探索をしている途中に、小さな木箱が部屋の隅にあるのを見つけた。コルトのものだろうが、開けたら怒られるだろうが、好奇心に負けてその箱を開けるとそこには、一つの仮面と、仮面と一緒に貼られた写真のようなものと、緋色に光る腕輪を発見した。仮面のほうには興味がなかったが、腕輪には、なぜか異様なまでの既視感を覚えた。それに、腕輪から


「つけて、つけて、つけてよ」


という声が聞こえたように思え、そっと取り出して、服のポケットに忍ばせた。それから部屋を出ると、


「なにしてる」


と、コルトの声が聞こえてきた。見つかったという気持ちから、冷や汗が滝のごとくあふれ出した。

「あ、あの、あのねコルト君。こ、これ、これには深いわけがあって」


「なにしてたと聞いているんだ」


本格的に恐怖を覚えた私は、あわててポケットから腕輪を取り出し、頭を床に擦り付けて謝った。


「なんだ、その腕輪」


衝撃の一言だった。てっきりコルトのものだと思っていたのに...


「え、でもあの木箱はコルト君のものじゃないの?」


「それは俺のものじゃない、お前が勝手にどこかで拾ったものなんじゃないのか」


コルトはそれから怖い顔をして、ため息をついた。


「箱の中身を見たんだな」


「あ」


そのあと私は、コルトにギルドからつまみ出され、一晩外で泣きながら夜を明かすことになった。夜中に、ふと腕輪のことを思い出したので、ポケットから取り出してつけてみた。すると腕輪は、強く金色に輝いて、一回ぶわっと大きくなったかと思うと、すぐに私の手首の大きさピッタリまで小さくなって二度と取れないように巻き付いた。


翌朝、帰ってきたエリーが私の手首を見るなり、大きな声で叫んで、屋根裏部屋から重そうな本を取り出してきた。

「どうしたの?そんな大きい本もって」

エリーは私を無視しながらページをぱらぱらとめくり、パッと手をとめて、私に見せた。


そこには...なんて書いてあるんだ。


そういえば話す言語が一緒なだけで、書く言語が一緒だとは限らないのだ。何も読めねぇ。


「なんて書いてあるの?」


「歩ちゃんのその腕輪だよ!それ、ランクⅩ(テン)の武装品だよ!なんで持ってるの?しかもそれ、世界にたった一つだけなのに!」


「え、あ、えっとね、実は、」


「どんな効果があるんだ」


私が戸惑っているとコルトがぬっと割り込んできた。エリーはコルトの顔をじっと見ながら、


「わかんないの、データが少なすぎるの。まだ存在しか確認されてないから」


と言った。するとすぐさまコルトがどこからともなく私とコルトの剣を取り出してこう言った。


「確かめに行こう」


「確かめるったってどこにいくの?」


コルトは私の言葉を聞いてふっと笑い、


「お前たちの世界で言うクエストだよ」


と言って私の手を取り、ギルドの外へ飛び出した。コルトは歩くのが速く、小走りで追いつけるのがやっとだった。この時私はこう思った。


やっと異世界ライフらしくなってきた!ここから私のさいっこうの生活が始まるのだ!私は高鳴る胸を抑えられずに、青い空のもとスキップをしながらコルトの後をついていった。

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