39.無血クーデター

戦争が終わって初めてのトップ官僚と各騎士団長、それから魔王を交えての会議がある。俺はここで『例の計画』を発動させる。ノブナガの言葉に嘘偽りがなければ簡単に事が進むはずだ。少し騒ぎになるだろうから歩には来てほしくない。まあ軟禁状態だと聞いているから大丈夫だろう。さて、この計画は俺が数年前、俺が十騎士になり、地球のことを知った段階から他の十騎士たちと相談していたことだ。


その概要はこうだ。


まず全権を持つ魔王を封じ込める(これはノブナガが魔王になったから問題ない)→官僚達は確実に情報を漏らすので、先にマスコミに金を渡して会議より先にその情報を世間に出させないようにする→地球と少しでも衝突があれば、騎士団総出でなんやかんやと言って、地球と和平を望む売国奴共を炙り出す→売国奴共がキレてあれこれラジオか何かで一気に国民にそれを伝える(国内放送になっているため)→そして俺がクーデターをちらつかせ始める→売国奴は魔王に俺が何かを企んでいると話し出す→魔王、とぼける→更に俺が山脈において要塞国家『アトランティス』の樹立を宣言する→そして魔王に事前に準備した条約文書を叩きつける→官僚にも一応読ませ、売国奴共、キレる→魔王、すっとぼけ→そのままサインして終了→その後、地球にその旨を伝える→地球は俺の国家に銃口を向ける→戦争をおっぱじめる→どんな兵器使ってくるか分かる→対策できる→戦う→勝っちゃう→さらなる技術をゲットする。 以上だ


一見簡単そうだが、まあこれがプランA。プランBは俺だけが知っている秘密中の秘密文書だ。まあある程度はプランAでも行けるはずだ。




              ◆◇◆◇◆◇




「これより、魔王連邦総会議を行います」


議長がそう言って、会議の火蓋は切って落とされた。まずはこちらのターンだ。ドロー!十騎士(モンスターカード)。十騎士の辛辣少年、バベルを召喚!


「はいはーい!ちょっと官僚諸君に物申したいことがあるんだけど、いいかな?最近、地球との和平を望むような売国奴がここに潜んでるって話を聞いたんだけど、まさかここに一度侵略してきた敵を信じるバカなんていないよね〜?」


「バベル君!ここは議会だ。言葉遣いを正しなさい」


官僚達の笑い声にバベルはムスッとしたが、すぐにニッコリと微笑んでもう一度先程の言葉を言い直した。



「では、改めて。官僚諸君の間に、一度は敵になって戦争を仕掛けてきた地球を信じて、和平を考えるという下劣な者たちがいるという、ボクの部隊からの通達がありましたが、これは本当のことでしょうか。ボクとしては距離を置くべきだと考えているのですが、どうでしょうか。名は上がっていますから、公衆の面前で名指しされたくなければ、どうぞ自分で発言願います」


バベルがそう言って座ると、一人の官僚が立ち上がって、話し始めた。おぉっ、いい感じに怒ってるな。


「我々のことは穏健派と呼んでもらいたい!なぜ我が国よりも強い国に歯向かうのですか?そのようなことをすれば我が国の滅亡は必至であります。穏やかにしておけば侵略されることもありません」


今度はテレサが立ち上がって反論した。十騎士一の論理的な吸血鬼だ。小柄ながらその破壊力は凄まじい。


「歯向かうのと、距離を置くのは意味が違います。それに、穏やかにしておけば攻撃されない。その理論は国力が同程度の場合に限ります。魔王連邦は地球に大きく劣るので、その理論は通用しません。そして、地球は我々のことを快くは思っていません。証拠に、こちらの音声をお聞き下さい」


テレサがレコードディスクを取り出して、用意された機器にセットしてスイッチを押した。そこからは、講和条約のときにもいた、地球の人間の音声が流れた。


『―――クソッ、王国軍のやつ、しくじりやがって...なぜ俺達がこんな異形共と対等な条約を結ばねばならないんだ!相手が人間じゃないからと思って舐めていたが、少々マズいことになったんだ。―――え?どういう目的でここを使おうとしていたかだって?そんなの決まってるだろ。魔力は大きなエネルギーになる。それに、ここの生き物は珍しいものが多い。人間以外の新種族なんて、向こうの金持ちがペットとして欲しがるに決まってるだろ!―――』


以上だった。会場にざわめきが響き、議長がそれをなだめた。


「これは私が人間の血を吸って人間に擬態して王国に潜入し、地球の高官に酒を注いでいた時にこぼした愚痴です。皆さんにはわかりやすいように翻訳機を使っていますが、どうでしょうか。なにか言いたいことはありますか?」


官僚達が暫く黙った後、一人の官僚が、立ち上がって叫んだ。


「これはデマだ!騎士団の捏造に違いない!それに、私は昔聞いたのだ!騎士団がクーデターを起こすという計画を!」


こいつが知っていたのか、一体どこから誰がわざと情報を漏らしたんだろうな?こんな簡単に喋ってくれるとは思っても見なかったな。


俺は机を叩いて立ち上がり、言った。


「そ、そん、そんなわけけけけけけけないよぉー」


わざわざ声を震えさせるのもつかれるものだ。そして官僚達は今必死に魔王に抗議しているが、これが魔王の一言だった。


「そーなのかー」


そして俺はさらに大きな声で叫んだ。ここが今日の見せ場だ。


「官僚諸君、いえ、『魔王連邦』に宣言しよう。俺は山脈に要塞国家『アトランティス』の樹立を宣言する!」


一気にざわついた会場内では、官僚達の騎士が、剣を抜いた。そういえば、こいつらの騎士は官僚に属すから、この計画のことは一切知らなかったんだろう。議長も取り乱してるし、今頃世間は大混乱だろうな。


「コルト!お前正気か!?」


議長が声を荒げてそう言った。俺はそうだと言うと、官僚たちや、一部の何も知らない騎士はこぞって魔王に講義した。そして、魔王の一言がこれだった。


「そーなのかー」


そして、俺は魔王やその他の官僚共に書類を渡した。


「これが俺の国と結ぶ条約だ。良いだろう?これで」


即座に官僚達が反論し、叫びまくったが、魔王はこれを一瞬で承認してしまったため、地球との関係は殆ど切れたも同然だった。


「では、俺はこれで失礼する。詳しいことは、また追って連絡させてもらう。それでは魔王連邦諸君、最後に一つ言わせてもらう。アトランティスの門はいつでも君たちを迎え入れよう。では、さらばだ」


その言葉を残し、俺は魔王城を飛び出し、ありったけの魔力を込めて山脈までぶっ飛んだ。着地で少々みっともない姿を披露したが、概ね予想通りのプランで進んだ。これで、後は国民が少しでも来てくれればよいのだが...




              ◆◇◆◇◆◇




「アルタイル。今日の入国者は?」


「依然としてゼロ人です」


「なんでだよ...」


依然としてアトランティスには誰一人として移民は来ないままだった。歩はいつの間にかどこかへ消えたし、ほんとに何処に行ったんだアイツは...


そう思ってギルドの椅子に俺は寝転んだ。


その時だった。王国の首都側から大量の人を引き連れて歩みとコハルがやって来た。まさか、首都の人間を全員引っこ抜いてきたのか?急いで確認しなくては!


俺は歩の元へと駆けより、二人に尋ねた。この人たちは一体誰なんだ、と。すると二人は少し申し訳無さそうに言った。


「首都復興してるけど、全復興は無理っぽいからこっちに入りたいという人を募ったら、なんと半分くらいついてきたんだ」


これは、あの作戦の失敗だった。戦争としての短期的な目でしか見れなかった俺の失態だ。やっちまった。人間が地下にあふれかえるぞ。俺が頭を抱えていると、歩がさらに言った。これは有力な情報だった。


「この人たちは、魔族との共存を願っている人たちなんだよ。願ってない人は近隣の町に移住したみたいだし。だいじょうぶだよ、ここに迎え入れてあげようよ」


こうすれば、地球も攻撃しやすくなるな。魔族に洗脳された人間死すべしって感じで。よし、これなら行ける。続行だ。


俺は歩の提案を快諾し、移民、約ニ百万人を迎え入れた。居住区に全員突っ込んでも、まだまだスペースは余ったのでとりあえず一安心。そして彼ら向けにこの国家の説明をして、全員に仕事がいきわたるようにした。仕事道具はもう揃えてあるので、もう明日からでも動けるだろう。だが、心配になってくるのは電気だ。足りるか?これ。まあいい。『あいつ』が居るからなんとかなるか。そう思って俺はため息をついてギルドハウスに戻って情報の整理のための睡眠を取ることにした。

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