38.内見と再開

私達は今、山道から少し離れたとんでもないところを歩いている。というか飛んでいる。急峻な山地の尾根線を目印に、空中を浮遊しながら目的地に向かっていた。飛べない私は案の定あるタイルに飛ばせてもらっていたが、いつの間にか飛行魔術を習得していた。いや、コルトかフェーちゃんかにいつの間にか教えられていたのだろう。


私は飛ばせてもらいながらアルタイルにこの前のお礼を言った。


「この前はありがとう。まあ、今もだけどずっと私を浮かせて大変じゃない?」


アルタイルは首を振って答えた。


「いえ、あの魔法と今使っている魔法は違うものです。今は私が飛行魔術でコントロールしていますが、あのときは普通の浮遊魔術です。違いは呼んで字の如くですが、浮遊魔法だけでいいと言っていましたがまさか本当にアレだけで空中を移動するなんて一体どうしたんですか?壁もなければ床もない、足場なんてどこにもなかったのですが...」


「高射砲の弾を蹴ったり、剣で受けたりして移動したんだよ。床にも壁にも足場にもなるしね」


その瞬間、この作戦の発案者のコルト以外が凍りついた。まじか、と言った様子で私の方を見ており、私は、俺TSUEEEEE状態とはまた違った感覚を味わえた。


「...これ以上は聞きません」


アルタイルが理解することを諦めた時、ようやく目的地に到着した。と言っても、ほとんど雪に覆われていて何も見えないが...


コルトが地面の行きをササッと払いのけると地下室への入口のような蓋が現れた。引っ張ると、それは重い音を立てて開き、階段が出現した。


「行こうか。ここは裏口だから、えっと...オシャンティーナ。地図ある?」


「はい、こちらです」


そんなにデカい地下空間なのかと思って、私もその地図を覗き込んでみた。


何だこれ?魔王連邦よりもデカいじゃないか、しかも山頂から隔壁が、三十枚。もしかすると地中貫通爆弾の存在も知っているのではなかろうか。地下の様子はざっと見た感じ、首都国家機能が最下部に、そこから上に行くに連れ、商業部、居住区、農耕畜産部、そして最終防壁部、防壁部×五といった様子で守りに徹した要塞になっていた。で、今私たちが居るのが、第八百十ゲートで...マジ!?入口そんなにあんの?あー、でも中でつながって結局は三本に集約されてるのか...


「よし、行こうか」


それからはコルトの指示と、オシャンティーナの先導によって私達はようやく最終防壁部まで到着できた。そこで私はコルトにここについて訪ねてみた。


「これってなんのために作られてるの?」


アルタイルも頷いてそうですよと便乗してオシャンティーナに言った。どうやらアルタイルも計画の全貌は知らないようだ。コルトは歩きながら説明を始めた。


「もう少し、と言っても数年後だろうが、確実に地球は俺達を殺しにくる。」


コルトの言葉には、コハル以外誰も驚きはしなかった。まあ、これはある程度予測できていただろう。


「地球は俺達の星をただの植民地、いや、それ以下のものとしか捉えていないだろう。今の俺達の技術じゃ、無策で地球に挑みに行っても、意味の分からない兵器で返り討ちにされるだけだ。まあ全部銃のような簡単な仕組みだと良いんだが...」


私だけがウンウンと頷き、アルタイルとコハル以外は全然驚かなかった。これも予測できただろう。中なんて簡単な武器で制圧できる相手ではないと分かっているだろう。


「ウルトラマックス砲を一撃で長距離から破壊できるような砲、電磁砲とかいったな。あれよりもヤバそうな兵器は一応情報としては仕入れてある」


まあコルトならあり得るかと思って、頷いた。コハルとアルタイルとオシャンティーナ以外は驚いていなかった。予測はできたな。今までの行動と地位を見ても、只者ではないことは知っている。


「だがそれはこの星の地球の拠点での話だ。本部ではどうなっているのかはわからない。対して、向こうは王国に付け入ったことにより、魔法や魔術、スキルや刻印のことも熟知しているかもしれない。自分の手の内だけがバレているのに相手に挑みにいくバカはいないだろ?だからまずは要塞としてこの施設を作った。チャキフス達ドワーフが掘削をし、所々地球の技術をパクりながら...そうだな、オシャンティーナが入ったときにはある程度完成してたから...大体一年ほどで完成させたんだ」


「「「「はぁ?」」」」


四人が一気に驚いて、口を揃えてコルトに言った。


いやこの地下施設、さっき見た限りじゃ魔王連邦よりもデカかったぞ?それを一年で?しかも地中で?意味がわからない。どうなってんだ、コルト。って言うよりドワーフ、スタミナバケモンじゃねえか。


「ちなみに何人のドワーフを...?」


あるタイルがそう問いかけた。そうだ、全員スタミナお化けってわけじゃないんだ。きっと数の暴力で行ったに違いない。


「掘削班だけで言えばざっと五百人だな。あいつら、つるはし一振りで百メートルは掘り進めるからな。そのせいで出口まみれになったんだ。」


全員、開いた口が塞がらなかった。アルタイルとオシャンティーナの口は確認できなかったが、多分開いてただろう。でも、この世界のドワーフってそんなにすごいの?全員チャキフスみたいなマッチョなイイオトコ(♂)なの?


「ドワーフは大柄な種族ではありますがあの十騎士の方ほどの腕力がなければ、それほど掘り進めることは出来ないでしょう。一体どうやって?」


私の疑問はオシャンティーナがコルトにぶつけてくれた。コルトは簡単なことだと言って話した。


「魔王連邦魔王直属魔導部隊を使ったんだ」


huh?となっている諸君に説明しよう!魔王連邦魔王直属魔導部隊という、くどい程、魔という文字の出てくるこの部隊は魔王連邦随一の魔道士部隊なのである。そこはもう究極も究極。戦争でも最後の切り札とか言われて最後の最後まで出てかなかったが空襲作戦で一般魔導部隊よりも圧倒的少数ながらそれを上回る戦果を叩き出したのもこの部隊だ。


何が凄いのかはよく分からなかったが、アルタイル曰く魔力の精密さが尋常じゃなく、的確に獲物を狩るための魔法を瞬時に判断して使うのだそうだ。簡単に例えると爆竹と核兵器ほどの差があるらしい。うん、やべえな。


「でも、どうやってそんなすごい部隊を世間に知られずに使ったの?バレそうじゃない?」


私がそう聞くと、コルトはあたかも当たり前のように言い放った。


「誘拐したんだよ。酒のんだ後の寝込みを襲えばいくら最強の魔道士でも気づきにくい。まあ何度か反撃にあったが、丁重に気絶させてここまで運んだんだ。その後はここでドワーフたちにせっせと身体強化バフを掛けまくってもらって、速攻で完成させたんだ」


その後も、あれはどうだ、これはどうなんだという質疑応答の時間があったが、全部気合と根性、時々誘拐ようなトンデモ手段を使っていた。私達が半ば諦めかけていた時、オシャンティーナが何かに気づいたようで言った。


「もうすぐですね」


そして、十字路を右に曲がって突き当りの隔壁を開けると、あの大空間に出た。今度はてっぺんではなく、大空間の端っこから出た。やはり少し風が吹いており、近未来的な町並みは変わっていないが...とんでもなく一つ変わったところがある。


「何で、空が見えるの?」


私達が呆然と空を見上げていると、コハルが何かを察したようで、コルトに言った。


「コルト殿、これは透過魔法ではないでしょうか?」


コルトはフッと笑っていった。


「ああ、そうだ。天井にありったけ装置を取り付けてそこにかけているんだが、王国では盗撮によく使われる魔法だったよな?自分の目にかけることで他人の全裸を拝める。あれは画期的な魔法だった。これでいい眺めになるんだからな。作った人間には感謝しないと」


多分、言いたかった意味とは違う形で受け取られるようなコルトの発言に、私は苦笑いを浮かべてコハルに聞いた。なぜ分かったのかを聞くと、彼女は何の抵抗もなくよく使うから、と答えた。これには流石にコルトもぎょっとした表情を見せたが、男性陣は何かを察した様子で、アルタイルと私だけが顔を固定していた。まさか、男の体を...?いや、このご時世、ワンチャン女の体かも...


「相手がどんな武器を持っているのか、そして体つきを見ることでどれほどの相手なのかを見るためですよ

?何をそんなに興奮しているのです、アルタイル殿?」


私は、驚いて彼女の方を見た、彼女はなにか物思いに沈んでいるようでボケーっとしていたが、楽しそうな雰囲気は出ていたのでそういう癖が出たのかもしれない。


私も早速コハルに教えてもらって使ってみることにした。アルタイルの顔が見たくなったのだ。コハルを近くの路地に連れ込み、どうやってやるのかを教えてもらったが、難しそうで出来ないと確信した。そしてコハルに私の目にかけてもらうことにした。


急いで戻って、コハルにかけてもらった。そして、彼女の顔は...え?


どうして?何で?こんな事、ありえないよね?だって、彼女は死んだはずじゃ?


「...ベガ?」


私がそう呟くと同時にアルタイルは現世に戻ってきて、私をじっと黙って見続けた。私からすれば、ベガが居るなんて亡霊を見ているようなものだった。暫く体が動かなかったが、やっとの思いで動いた口から出た言葉は、こうだった。


「久し、ぶり...?」


あるタイルはニッコリと笑って言った。


「やっと気づきましたか?歩様が最後の一人だったのですよ。コルト様も、フェニー様も、皆、もうとっくに気づいていたのですが」


「は?え?おいコルト気づいてたのか」


私が彼の胸ぐらをつかむと、彼は横を向いて吹けない口笛を吹いてごまかそうとした。あるタイルが急いで釈明を初めた。


「実は私の本当の名前がアルタイルで、ベガは私達が幼い時に死んでしまった長女の名前なんです。それを少しばかり借りて、フェニー様のもとにいたのです。勿論フェニー様は私がアルタイルだということは伝えてあります。魔力の動かし方で気づくと思ったのですが...まあこれ以上は無しですね」


「あれ?じゃあ、あの時刺されたのは大丈夫なの?」


「あの程度では死にはしませんよ。私、一応魔人ですから。硬いんです」


安堵なのか、バカにされたのか、驚きすぎたのかは分からないが、私は大きなため息をついた。なんにせよ、これで心が少し軽くなったのは間違いない。


「あ〜。感傷に浸ってるとこ悪いんだが、もう一人、設計者のことについて話してもいいか?」


「あ、うん」


彼は私の返事を受け取ると、一枚の設計図を私に渡した。この都市の最初の図面だろう。でも、どこかで見たことがあるような...たしか、世界首都ゲルマニ...あー、そういうことか。たしかにどっかで見たことあるなと思ってたんだが、そういう事だったのか。


「この図を書いた設計者はもう死んでいるって話がしたいんでしょ?」


「あ、ああ。よく分かったな。設計図を書いた後あの悪魔に捕まってホムンクルスに押しつぶされたんだ」


「ん〜。まあ、良いんじゃない?あのまま生きても辛いだけだろうしさ」


「向こうで有名な人だったのか?」


私は腕を組んで熟考した後、ゆっくりと言った。


「まあ、有名っちゃ有名だけど、世界一の大悪党になった人だね」


コルト達はウゲッと言った顔をした。そんなやつの図面を採用したのかと言わんばかりの表情だ。私は少し笑って話題を変えるために言った。


「仕方ないさ。で、ここからどうするの?」


そう言うと、コルトは少し不敵な笑みを浮かべて言った。


「『例の計画』を発動させる。オシャンティーナ、アルタイル。歩を監視しといてくれ。大事な式典に水をさされたら困るからな」


そして、私は暫く新ギルドハウスにコハルと軟禁状態にされることとなったのだ。

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