40.超軍事国家アトランティス
移民の方々を丁重に全員居住区に突っ込んだ後、コルトは少し仮眠を取ってから何処かへと出かけてしまった。私はその間、自室に籠もっていつの間にか戻ってきていたエリーにコカ揚げを振る舞っていた。
「ねえ、アユミンってどうやってあれだけの人数を集めたの?コルト見たく、誘拐したわけでもなさそうだしさ」
エリーは椅子にもたれて私に問いかけてきた。油の温度を調節しながら私は彼女の問いに答えた。
「友人に人望の厚い人が居るから、その人に頼んで王国全域に連絡してもらったんだ」
まあその人がカルメンなんだけど。元勇者、いや、もう一度勇者をするって行ってたから現勇者か。まあ流石に勇者の言葉に耳を少しも傾けないやつはいないだろう。私はそんな事を思いながら、衣をまとったコカの肉を油の中へと突っ込んだ。
ジュワァァァッという良い音とともに、肉の揚がる香ばしい香りが部屋を包んだ。私は慎重に、油がはねないようにコカ揚げを完成へと近づけていった。そんな時だった。部屋を誰かが覗いていることに気づいた。私が目を向けると、彼はすぐに隠れてしまったが、もうとっくにバレているのだ。
「カルメン。どうしてここにいるの?王国で復興の指揮をしてるんじゃなかったの?」
カルメンは扉を開けておずおずと部屋に入ってきて、苦笑いを浮かべて言った。どうやら碌な事ではない事が起こったようだ。私はコカ揚げを皿に移しながら彼の話に耳を傾けた。
「実は、僕がチャキフスと一緒に監督をしていると、彼が邪魔になるからって言って、僕を追い出したんだよ。そうして食料もないまま数日間歩き、いい匂いがするからここに来てみたんだ。やっとの思いで見つけたのがここなんだよ!どうか、ちょっとでも良いから僕に恵んでくれ!」
私は大きく、わざとらしくため息をついて、彼の分のご飯も用意した。エリーは自分の取り分が少なくなると言って怒っていたが、カルメンが全力で感謝しているところを見て彼女は落ち着きを取り戻した。
私はカルメンに王国で何をしでかしたのかを聞くと、彼は何の躊躇いもなく、居眠りしてたとだけ言った。しっかり職務怠慢じゃねえか。
それからご飯を食べ終わったカルメンをさっさと追い出し、私はコルトの帰りを待った。エリーは暫く自室にこもって何かをしていた。多分ぬいぐるみ作りだろう。よく飽きないものだ。
◆◇◆◇◆◇
「ただいま。歩、エリー、移民の方は大丈夫だったか?」
「うん。異常なしだね。コルト君は一体何してたの?」
コルトは私に書類を出してきた。表紙には『要塞国家改、超軍事国家アトランティス』と書かれていた。恐らく国家の名前が変わったのだろう。私は彼にその理由を尋ねた。すると彼は少し躊躇ってから、少し恥ずかしいことなんだが、と言って言い訳をした。
「最初は要塞国家で行こうと思ってたんだが、いざ建国して国家が稼働し始めると、防衛用装備より圧倒的に攻撃用装備が充実していてな。ノブナガやオシャンティーナたちに相談してみたら、この装備で要塞国家はおかしいし、なんか田舎臭いし、まず要塞にしたら魔王連邦を守れないということで、結局のところなんかカッコイイという理由が大半を占めるが、超軍事国家っていう名称になったんだ」
「へぇ~。そりゃ大変だね」
私は資料をめくりながらその要項に目を通した。まとめると以下のようになっている。
・魔王連邦とは永続的な友好関係を結ぶこと。これに違反した場合、直ちに魔王連邦に総攻撃を仕掛ける。
・地球との関係はできるだけ無くすこと。一定以上のラインを超えた場合、直ちに魔王連邦に総攻撃を仕掛ける。
・我が国家は成立宣言からおよそ七年を期限として解体する。以後は魔王連邦の直轄地として管理される。
・魔王連邦が攻撃を受けた場合、我が国家もそれ相応の報復処置を取る。
・国教はレイス教とする。尚、これは強制されるものではない。
こんなもんだが、色々理不尽な部分やぶっ飛んでるなってところはあるが、私は彼に質問したい点が一つあった。
「この、成立から七年で解体ってどういう意味なの?」
正直言って、全く持ってこの部分だけは意味がわからなかった。コルトは真剣な顔で言った。
「俺だけの国家最重要機密だ。そこには触れないほうが良い。まあ、暗証番号みたいなのはあるから、それを俺に言ってくれれば教えてやるよ」
若干不敵な笑みを浮かべる彼の顔は、何処か悲しげなものだったが、私は気づけずに、ひたすらにその暗証番号を考えていた。コルトは私の頭を小突き、バカだなとだけ言って、私の隣に座った。
「なあ、歩。もし、神様が居たら、世界はバッドエンドになるように仕向けると思うか?」
急に深刻そうな声で、夢見がちなことを聞いてきた彼に、冗談で返すことが出来ず、私は真剣に考えた。そして、数十秒間悩んだ後、一つの結論を叩き出した。
「もしも神様が、意地悪な神様だったとしても、バッドエンドは作らないと思うよ。多分、神様をやるような人なんだから、きっと人間や魔族の言い分も多少は聞かなきゃならないと思うんだ。そうじゃないと、この世界じゃ、いつか神様にまで手が届いてしまいそうじゃない?だから、スンゴイ遠回しでも、ハッピーエンドは用意されてると思うよ」
私の言葉に、コルトは少し微笑んで俯いたまま言った。
「まあ、そうだと信じるしか無いな。今は...」
私はそれが冗談で言っていることだとは到底思えなかった。何度もこういう話は聞いたりしたが、実際にされたらこんな事になるのかと思ってしまった。私はコルトの背中をバッチーンと叩いて立ち上がって彼に言った。
「ねえっ!手合わせ、しない?なんか落ち込んでるんだろうけど、気晴らしにでも、やらない?」
コルトはいつもの顔に戻って剣を取って立ち上がった。そして私の方を無言で叩いて、訓練場へと向かった。私も緋色の剣を掴みやすい位置に戻してコルトの後を追った。
そして、訓練場へと到着し、私とコルトは一定の距離を取った。神印をバンバン使ってやろう。流石に瞬殺はされないだろう。お互いに剣を構える。そして、お互いのリズムで踏み込んだ。観戦に来ていたメイドたちが驚きの声を上げたときにはもう勝負は始まっていた。
「略式神印、発動」
「刻印、発動」
私も技は一切なしで、ただ魔力による加速で勝負した。この前、一通り技を履修した時についでで出来るようになった技。ただ神印の魔力の形を保ったまま相手ににぶつける。簡単なものだ。多分今、コルトも一緒の事をしている。
剣を打ち合い、段々と速度が上がる。私の速度に、コルトが合わせているのが分かった。まだ、届かないな。仕方ない。私は少し微笑んで剣を持ち替えた。もう魔力もないから、最終攻撃だ。
「五式。滅」
「狼烟。凝固」
ナイフのような霧が、私のコルトに向けた斬撃をすべて弾いた。そして、攻撃が終わると同時に私は地面に倒れ込んだ。コルトは剣を収めて私をうつ伏せ状態からひっくり返して仰向けにし、膝枕をした。
「何してんの?」
「昔、俺に剣を教えてくれた人がよく俺がこうやって倒れるたび、膝枕してたんだ。どうだ?」
「まあ、悪くは無いかな...もうちょっとこのままでも良い?」
「ハハッ、気に入ってるな」
そんな話をしながら私とコルトは笑い合った。
それから私が回復してから暫く経ち、夕飯を食べて、私はコルトと共に魔王城下に繰り出した。転移石のお陰で簡単に行き来できるのだ。
夜の魔王城下は明るく光り、所々には地球の産物もある。こうしてみてみると、地球はこちらの文化を潰しにかかってきてるということが分かる。それが善意か悪意かは知らないが、いつか確実に反発が発生するような見た目だった。ある意味、コルトの考えはあたってたりして。そんな事を考えながら、私はコルトの後ろを歩き、そして私達は初めてであったところまで歩いた。
もうとっくに奴隷販売は終了していたが、私の入っていた檻には今、ゴリラのような生物が入っていた。あれ?私の入ってた檻って、猛獣用だったの?私がコルトの方を向くと、彼は笑っていた。だが、すぐにいつもの顔に戻って、懐かしむ口調で私にゆっくりと言った。
「でも、ここから始まったんだもんな」
「そう...ね。もう半年くらい経つわよね。転移して、刻印使って、神印使って、戦争して。勝って、クーデター起こして、新しい国家作って、なんだかコルト君も私も焦って生きているみたいね」
「...まあ、強ち間違ってはいないな。それに、人生は一度しか無いし。寄り道するためには色んなことをしなくちゃな」
「ふふっ。そうね」
そして、私達は魔王城下巡りを朝まで続けることになった。
荒廃日記 iTachiの隠れ家 @iTachi-no-kakurega
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