13.外の世界②

ドラゴンの背中の感触はゴツゴツしている。それでいて、内にある肉の柔らかさで、少し柔らかく、それで

いて柔らかい。つまりだ。思ったよりぷにぷにしてるんだ。魚みたいだ。


顔を伏せていなければ空を高く飛んでいるドラゴンのスピードに負けてすぐに振り落とされてしまいそうだ。顔を伏せて、感じたことのない、奇妙な感触に身悶えする私を、コルトはまるでイモムシ以下の下劣な生き物を見る目でじっと見ていた。


それに文句を言う私と、文句など一切聞こうとしないコルトが言い合っているのにもかかわらず、頭の悪いドラゴンは悠々自適に空の旅をしている。

暫くして、ドラゴンの巣の上空までやってきた。どうやら酢は山の麓にあったらしく、そう遠くまで運んでもらうことは出来なかった。背中に乗ったままの私達には気づかないまま、結局ドラゴンは私達の背中に乗ったまま地響きのようないびきを立てて、眠りについてしまった。


恐る恐るドラゴンの背中を降りると、足元に、何か、ゴッソっとした感触を持ったものに触れ、一瞬ビクッとしてしまった。


なにかと思ってみてみると...人骨だった。しかも頭蓋骨。

私はこの時ようやくコルトがドラゴンと戦う気満々でここに降り立っていたということに気づいた。

ドラゴンが食らうのは、魔力。つまり、魔獣や人間だ。コルトは先程規格外の魔力を出した。いい匂いのする餌を、大きく育ったドラゴンが見逃すはずがなかった。つまり、これはーーー


「グルルルッ......」


罠だ。


「歩、お前には分が悪い。下がっていろ」


コルトは剣をすらっと抜いてドラゴンと正面から睨み合った。ドラゴンは、地響きのするような轟音で叫び、大きく口を開けて威嚇した。


「刻印・狼烟」


コルトの周りに、一瞬にして魔力の霧が構成された。これで、コルトは霧の中のどこにいるのかが一瞬で分からなく無った。しかしドラゴンはそんなものは関係ないと言わんばかりに、口を大きく開いて、フェーちゃんのものを凌ぐほどの炎を出した。ドラゴンの狙いはコルトだけで、ドラゴンに圧倒されて動けない私は

後で食べると言わんばかりにコルトだけを見ていた。


次第にコルトの霧が炎で見えなくなっていった。

おそらく彼なら勝てるからこの戦いを挑んだんだろうと思っていても、やはり不安なものは不安だ。

そして完全に霧が消え、炎が一瞬全てを飲み込んだ。


「コルト君ーーー!」


私の叫びはコルトには届かず、ただドラゴンに届いただけだった。

ドラゴンは私の方を見て大きく口を開けた。

私は急いで剣を抜き、ドラゴンに向かって構えた。


「刻印・覆滅」


コルトの姿は視認できなかったが、彼の声がした。と、同時にドラゴンの首が真っ二つになり、大きな音を立て首が地面に転がり落ちた。

そしてドラゴンの頭の上に、上からコルトがスタイリッシュに降りてきた。


「大丈夫か?」


私のセリフを横取りして、彼は私に駆け寄ってきてくれた。

私の手や顔、皮膚の出ているところを重点的に見ていった、少し首を傾げて言った。


「お前、あの炎の近くにいてよくもまあこんなに無傷ですんだもんだな」


私のことを今度はバケモノでも見るかのような目で言った。そんな目で見るなとか、嫌味の一つでも言おうかと思ったが、コルトの隠している方の目、つまり右目が一瞬ちらりと見えた。

その目は白目が黒く黒目が黄色いものだった。私は少し恐怖を抱いて聞いてみた。


「コルト君って...人間、だよね?」


彼は私に右目が見られたことに少し動揺したが、すぐに大きくため息を付いて平静を装った。彼いわく、どうやら刻印が使えるようになった瞬間、右目自体が変化したという。これを魔王連邦では魔人化と呼称しているそうだ。ちなみに魔人は魔神になる一歩前の状態で、魔神になるとただの怪物になってしまうらしい。


彼の目はまだ色が変わっただけなら良かったが、後々どうやら特殊な効果があることが分かったのだ。つまり現代風に言うと魔眼になったという事だ。その効果は、自分の刻印を他者にも転用できるというものだった。当然魔人の刻印なんて危なっかしくて転用できたものではないので、眼球の摘出をしようとした所、魔眼の効力が発動して、それに耐えきれなかった医者数名がその場で魔力の膨張で爆発四散して死んでしまったらしい。


そして次に眼帯で覆うことにしたが、魔眼は常に魔力を発し続けており、それを眼帯で覆ってしまえば今度はコルトが脳天炸裂の危機にあったということで、髪を伸ばして隠すことに決めたそうだ。ちなみに効果の発動条件はコルトの魔眼を十秒以上見続けることで、これまでに耐えられたものはいなく、刻印の転用というのも憶測に過ぎないらしい。


一通りはなし終えた彼は、ドラゴンの巣を漁りだした。私はそれを後ろからかがんでみていたのだが、やはりドラゴンの巣なだけあって、中々グロテスクなものが多かった。一番多かったのはう●こだ。う●こと言ってもものすごく前のもので、消化されずに出てきた人間の一部や、その装備品、たまに裕福な人が食われたのか、宝石のようなものもいくつか出てきた。コルトはそれを何の躊躇いもなく自分の袋の中に突っ込んでいった。




              ◇◆◇◆◇◆




暫くして私達はドラゴンのスカラ脱出し、山脈の奥地へと猛スピードで入り込んでいった。急峻な山地で、あちこち地理の教科書で習ったようないかにもな風景が広がっていた。所々には雪が積もっており、地球では見られないような動物もいた。太陽が山脈に隠れ、私の体力が底をつき始めた頃、山脈を抜けた。


山脈の向こう側は草原や森、大きな湖などが一望出来て、それにそこに緋色の日光が差し込んで...それはまさに緋色の大地だ。(あかしけ やなげ、と言い始めたくなったのは伏せておこう。)しかしそんな中、地平線の遥か彼方に、なにか見覚えのあるものが目に入った。それは、この世界に存在していてはいけないもの。交わることのないと思っていたものだった。たしかに、こちら側から認識できているのなら、向こう側から認識できていても何ら不可解な点はない。


「何で、ここに、国連の旗が...?」


間違いない。この正距方位図法の地図。地球のもの。じゃあ、向こう側はこちらをもうとっくに支配下に置く準備は整っているということなのか?きっとここだけじゃない。この星全てにこの基地があるのだろう。そう思うと、ゾッとした。もうこの国の人達は見世物や、搾取対象になり、平和を語る地球人に自由に生きる権利を奪われてしまうのか、と。


「おい!歩、しっかりしろ!お前、これを知っているのか?」


コルトの声で私は我に返った。それから、コルトに私が知っている国連の情報を座りながらすべて話した。その間、彼は私の話をじっくりと聞いていた。話し終わると、彼は立ち上がって言った。


「まあ、今回の目的はあの組織の建物に侵入して、それでどんな兵器を使うのかを調べるっていう任務なんだが、どんなのを使うか想像できるか?」


「...多分、自動小銃と戦車がメイン。それに迫撃砲、榴弾砲も。いや、もしかしたらドローンとか爆撃機、戦闘機も大量に...」


「俺はその言葉は初耳なんだ、わかりやすく説明してくれ」


あ、たしかにそうだった。私はそれぞれの絵を簡易的に地面に書いて彼に説明した。彼は私の話を聞き終わるとニッコリと微笑んで私に握手した。


「情報提供感謝する。これでお前は地球のスパイだな。もう二度と家には帰れないぞ」


「...あ!はめられた!」


ここから、私は地球に帰れなくなったというわけだ。まあそこまで今の生活に苦労してなかったから別にいいんだが...

そんなことは一旦置いておいて、コルトは今夜は野営して、翌日王国に侵入し、爆破工作を...ん?爆破工作?


「爆破工作って言った?」


「ああ、情報がある程度揃ったんだ。それだけで今回は勝てるから、嫌がらせと残りの情報だけを集めて、ついでに捕虜も奪還して帰る。」


「捕虜はついでなんだ...」


コルトは少し微笑んで野営の準備をした。私は持ってきた食材で軽く料理を作って二人で食べて、寝袋にくるまって、明日の作戦会議をした。その後は、ドラゴンに襲われることもなく、普通に眠る事ができた。

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