30.敵国本土空襲作戦

私達の前回の作戦以降、王国軍の後世は日に日に弱まっていった。反対に、魔王軍は司令部撃破によって一時的に伸びた補給線を攻撃し、敵の物資を略奪したりして、国力を増大させている。


そして、新魔王ノブナガの就任により、新たに防御結界が展開され、魔王城下への爆撃はなくなった。そして、前線の爆撃に関しても早急に打開策が提示された。それはウルトラマックス砲の防空網への転用である。一見難しそうなことをしているように思えるが、実はウルトラマックス砲を上に向けただけと言うものだった。このときはコルトは二時間ぐらいで帰ってきた。


更に、前線の兵士の損害を低減するため、新たに国家魔法師団を四個大隊に分割。それをそれぞれの戦線に配置し、負傷兵の手当と衛生環境の徹底を行った。十騎士は現在作戦参謀室に籠もって新たな計画立案をしている。それでここ数日フェーちゃんの姿を一切見ていない。


私達はと言うと、しょっちゅうコルトが出かけているので、実質女子会だ。戦時中だけど結構楽しくやってたりする。コハルは母国が危険にさらされるかも知れないという意見に対しては、私に忠誠を誓っているからその点は問題ないのだと言って、私にべったりだった。


私はと言うと、そんなコハルを引き剥がしつつ、裏庭で新技の研究を繰り返し、地球で習った技は一通り神印として出来るようになった。そんな感じで各々出来ることをやっていった。


ある日、私だけが直々に魔王城に招集された。そこは厳かな雰囲気に包まれており、そして中央の玉座には魔王ノブナガが座っていた。ノブナガの前にひざまずき、私は形式張った挨拶をした。


「神木歩。御招集に応じ、参上いたしました。魔王様。本日はどのような御用でしょうか」


周りの高官達が私を眺め、こんな小娘がと不安な目で私を見ていたが、ノブナガは小さく笑って言った。


「貴様には今から作戦司令官を務めてもらう。とは言っても、小隊レベルの話だがな。異論は認めぬ。好きなように使うと良い。おい、出てこい!第零魔導空撃小隊」


ノブナガのその掛け声とともに、部屋のど真ん中にある転移用の魔法陣から、ほんの十名ほどのローブのフードを被った人型の生き物が出てきた。彼らは私を見るなり跪いて、フードを半分ほど脱いだ。顔にはあのペストマスクがついていたのでなんとなく言いたいことは分かった。


しかし、彼らのような羽根付き帽子はなく、ただフードで隠れているだけかも知れないが、私の確認できた範囲では彼らの顔面には皮膚が見える場所がなかった。もしかしたら、頭部全体をマスクで覆っているのかも知れない。そうだとしたら本当にヤバい集団なのかも知れないな、レイス教って...


「では下がると良い。そいつ等は貴様の手足と思って使うとよかろう。ただの犯罪者集団も使いようであるな...」


ノブナガが最後に不吉なことを言っていたが、私は聞かなかったふりをして魔王城の玉座の間から離れた。しかしペストマスク集団は私から一定の距離を取ったまま絶対に話しかけてこようとはせずに、ひたすら私の後ろをに列になって歩いているだけだった。私が止まると彼らも止まり、そして振り向くと彼らもそっぽを向くという、遠くから見たら実に滑稽な姿を披露していた。


しかし私はだんだんイライラしてきたので、一旦止まって振り返り、彼らに話しかけた。


「少しは話したらどうなんだ?」


すると、彼らは列を崩し、集まって何やらヒソヒソと話を始めた。そして暫くして、また同じような体型に戻り、黙ってしまった。流石に頭にきた私は彼らに向かって走り出した。


その瞬間、私の方を後ろから誰かが掴んだ。私が驚いて振り返ると、そこにはオシャンティーナが居た。彼もまた、何も言わずに私の肩を持っていたが、彼の手からは猛烈な怒りが感じられた。


私が立ち止まっていると、オシャンティーナは彼らの方へと何も言わずに歩き出し、一人の仮面を引きちぎった。すると、そいつは声にもならないような叫び声を上げて、顔から大量のどす黒い何かを垂らしてうずくまった。オシャンティーなが拳を振り上げたので、私が急いで制止にはいると、彼ははっと我に返った。


「申し訳ありません。我が『始まり』よ。どうか我らのご無礼をお許し下さい」


「い、いやぁ、まあうん。分かった。とにかく、この人たちって一体何者なの?レイス教の人ってことは何となく分かるんだけど、何で魔王軍にこんな従軍聖職者部隊があるの?」


私がそう言うと、オシャンティーナは懐から一冊の本を取り出し、私に渡してきた。中を見てみると、ご丁寧なことに、すべて日本語で書かれていた。翻訳してくれたのだろう。でも一体この教団、どこまで知っているんだろう。なんか怖くなってきたな。


「そこには教団のことが書かれております故、何卒お大事にお使い下さい」


私はその本をしまい、後ろにいるフード集団に向かって言った。


「何をするかは聞いていないのか?」


そう言うと、彼らは一枚の紙を私に渡した。広げて読んでみると、そこには私が指揮官となって行うであろう王国空襲作戦の概要が書かれていた。


簡単にまとめるとこうだ。


まず敵の制空権を自走式ウルトラマックス砲・改で奪取。その後前線を押し上げながら山脈へと到着した後、魔道士のステルス性を高めるための戦闘服を装着し、山脈から王国まで飛行し、上空で三個師団ほどによる絨毯爆撃が始まる。


しかし、それだけでは全員等しく攻撃されるので囮役を務めるのが私達の部隊となる。わたしたちの部隊は戦闘服の着用はせず、他の部隊と比較して低いところを飛んで敵の的になりに行く。ここで重要なのが、私達の部隊はできるだけ派手な攻撃をして敵の弾幕を一点に集めなければならない。


ちなみに他の部隊は一時間後に爆発する小型魔法で攻撃するので、敵から見れば私達の部隊しか見えないということになるのだ。だが、ここで一つ問題が発生する。一時間しか作戦が行えないということだ。これは今の魔王軍の技術ではどうしようもないので、速やかに本土全域を爆撃する必要がある。


以上。まじでこれ考えたやつ正気か?ぶっ飛ばしに言ってやろうかな...


そんな事を思いながら私はペストマスク集団を引き剥がして家に帰った。




              ◆◇◆◇◆◇




―――数日後


敵国本土空襲作戦が決行された。作戦は概ね想定通りに進んだので問題はない。ただ言えることは一つである。講和条約の準備をしておけ。


以下、こちら魔王国山脈部隊作戦本部からの現時点までの戦況報告―――


山脈を超えた部隊はそのままステルス性を活かして敵国本土上空まで浸透。途中に存在する基地は全て無視し、結局敵首都まで迫ることができた。しかも夜間での空襲となるので、敵の配備はまだ完全ではなかった。


作戦決行時刻。午前三時四十五分二十二秒


爆撃は第零魔法小隊が機能停止するまで行われた。そして、その一時間後。


敵首都の国家防衛紀行が瓦解し、周辺基地は混乱に陥った。それに連なって正式に魔王軍の主力部隊が山脈を出発。翌日未明には敵首都を包囲する形となった。


しかしここで緊急事態発生。敵首都に位置する教会から巨大な人形ホムンクルスが出現。それの攻撃で隠れていた三個師団の存在が敵に露呈。急いで撤退したが、敵の僅かながら残っていた兵力に一割ほど削られてしまった。


なお、ホムンクルスは現在神木歩が一人で応戦中である。念の為連絡の付いたレイス教の幹部も向かわせている。


続いて、同日魔王城に核爆弾が投下されたが、事前に仕入れた情報により核兵器用の特殊結界が発動。これを防ぎきったがっ魔王城下から一週間ほど外に出ることができなくなり、その間、前線の兵士は持っていった分の武器食料で戦わなくてはならなくなるだろう。


しかしその間に敵首都が完全に陥落し、続いて周辺の重要産業地域も確保されたことにより王国は降伏し、王国軍の組織的抵抗はなくなった。しかし依然としてホムンクルスとの戦闘は続いており、早急な対応が必須となる。


―――以上。魔王軍山脈部隊作戦本部からの連絡及び戦況報告。近々また連絡する。

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