20.潜入inコクレン

再び俺だ。コルトだ。先程歩の魔力反応が消失したから、捕まったのだと判断するまでには少し時間がかかったが、ベガのものと思われる死体袋だけがシスターに担ぎ出され、廃棄された時、俺は歩が捕まったのだと確信した。


まあ、あそこなら十騎士のあいつが居るから問題は無いだろうが、心配なものは心配だ。だからといって王命を無視するわけにもいかない。さっさと仕事を終わらせて迎えに行くことにした。


それにしても地球人は頭が悪い。魔王城のように権威の象徴どうしてあんなわかりやすい建物ばかりを作るんだ。敵に見つかった瞬間一瞬で司令部が特定される。俺達が魔王にも極秘で進めてるプロジェクトにはあんなものは存在しない。そういえばもうすぐ完成すると聞いていたが、一段落したらまた見に行ってみるのも良いか。


しかし、偵察任務などしたこと無いがわざわざ俺を選んだのにはなにか理由があるはずだ。とにかく行ってみれば分かるかという思いで、俺は司令部へと飛んでいった。


上空から観察していると、検問所に差し掛かった、魔王の仕向けたであろう魔族のスパイがいた。暫く話して、彼が通り過ぎた瞬間、検問の男は銃で彼の頭を撃ち抜いた。周囲の人間は怯えたが、銃は一般市民に向けられることはなかった。恐らくこれが理由なんだろう。何らかの方法で魔族を見破るすべがあるから、戦ってもなんとかなって、国にいらない人材を派遣したかったのだろう。まあ、歩は...嫌がらせだろう。


とにかく、あの関門を何回か通り抜けないといけないのだろうが、俺は生憎、空を飛ぶことが出来る。関門など必要ない。限界高度まで飛んで、その後急降下して潜入する。恐らくこれが司令部上空だが、限界高度に来てから一つ気づいたことが在った。


まだ上空、宇宙で星ではない何かが静止している。ギリギリ肉眼で見えるが、地球人のものでまず間違いないだろう。とりあえず落としておくか。この距離なら魔法や魔術では無理だが、刻印の射程内だ。


「刻印・狼烟」


周囲に出た霧を圧縮し、個体にする。これの形を砲弾の形に変え、投げる。


よし、魔力が霧散する前に命中した。これで破壊できただろう。さて、ここらで急降下でもするか。




              ◆◇◆◇◆◇




「ここだな」


防空システムに一階引っかかり、周囲にバレないように近くに着地したが、さて、どう入ったものか。正面突破以外なさそうだ。水道管はさっき調べた所細くて入れたものではない。他の突破口は思いつかない。


手順は考えてある。まず騎士団の高官を殺し、司令部に行く伝令の鎧をパクる。それで潜入したと同時に事前に用意した弱い分身に襲撃させて魔族が急に侵入したように見せかける。その隙をついてシステム系統を破壊し、本部に侵入する。それで後は天井裏にでも入ってそこでなんとかする。以上だ。


まあ一人だから出来るだろう。さて、じゃあターゲットは...いた。騎士団駐屯地にいた、第一近衛騎士団団長だ。あのクラスなら手紙ではなく伝令兵が動くだろう。騎士団上空に飛び、刻印を使う。


死傷者報告:二等騎士 三百五十八名以上

      一等騎士 百名以上

      指揮騎士 三十名以上

      幹部騎士 非公開  等


「伝令!伝令!騎士団第一駐屯地に魔族の襲撃!魔物です!この攻撃により、第一近衛騎士団とその側近十数名が即死、他にも負傷者多数!魔族は現在緊急特戦隊と戦闘中ですが、十騎士クラスの魔族とのことです!そして恐らくこちらに向かっています」


「何!?絶対に此処には近づかせるな。早くお前らも配置に付け!今すぐにでも...」


『ーーー緊急警報、緊急警報。魔族の侵入を確認。特戦隊は壊滅。至急、特殊衛兵は応戦して下さい。繰り返しますーーー』


ここまでは計画通り。避難する素振りを見せて急いで中に入り込む。管理棟。あれだ。侵入成功。見張りと防犯カメラの排除完了。次。


システム統括部。ここだな。扉を開けると同時に刻印の発動、室内で暴発させる。クリア。これで後は...


『管理棟Aに魔族侵入確認。十騎士と確定。至急、隔離、排除して下さい』


バレたか。まあいい。本命は俺じゃあないだろうし。ここは撤退といくか。


その瞬間、俺の前に特殊衛兵が五人現れた。恐らく分身は瞬殺されたのだろう。全員一気に掛かってこられたら、普通に戦えば無傷では済まないな。仕方ない。


「「「「「スキル・発動」」」」」


「刻印・終焉」


一気に連携の取れた切込み。このクラスでは銃よりも剣のほうが強いから銃は使わないのだろう。まあいい。どっちの道すぐに殺すことには変わりない。


剣を振り下ろした。世界は裂け、時間を開けて収縮し、それに巻き込まれた騎士は二つになった。騎士団が一瞬たじろぐ様子を見せた瞬間、俺は一気に反対方向に走り出し、壁を破壊して外へと脱出した。


空中では魔導騎士が俺を出迎えたが、狼烟でこれを撹乱し、戦闘区域を脱出した。追撃の魔法もなんとか回避しきり、俺は一旦王国を出ることにした。


外壁に近づいた時、異様な魔力を感じ、そこで人気のない地面に降りた。そしてそこにはペストマスクを被った男が一人、俺に合図をしているかのように魔力を放出していた。レイス教の者で間違いないだろう。それもあの黒い帽子と黒い羽、司教だ。こちらに敵意はないようだが、大陸でも有数の武装カルト集団だ。用心するに越したことはない。


暫く待っても、何の返答もなかったので、俺の方から声をかけることにした。


「司教が何の用だ」


「我らが『始まり』を頼みますぞ、勇者様...」


全く、もう少し初めての人にもわかりやすい物言いは出来ないのか?勇者だ始まりだ、意味の分からない妄言だけをつらつらと垂れているだけでは話も通じない。俺は大きくため息をついて、その場を後にしようとした。しかし、司教は俺を呼び止め、こう言った。


「勇者様、貴方様の計画に、吾輩も参加させていただきたく存じます」


「どうしてそれを知っている。というか、誰から聞いた?」


「そんな事をおっしゃらずに、吾輩も出来る側の人間なのですよ。魔族という魔人にしかすがることの出来ない劣等種族とは違うのです」


「お前、人間だったのか?」


「おや?知られてないのですか?我々レイス教は魔人と人間だけで構成されているのですよ」


「てっきり脳みそのイカれた生き物のだった奴らが作ったものだと思っていたが、そうか、それならお前たちの言い分もわかるな」


「分かって頂けたのなら結構でございます。それで、吾輩も参加させていただくことは...いえ、決して悪いようにはしません。全ては我らが主のために行うものですから」


「...好きにするといい」


「ありがとうございます。では、また後日...」


そう言って司教は路地裏に消えて行った。なんとか一段落して、俺は大きく息をついた。それと同時に、今度は俺に向けて矢に巻きつけられた手紙が飛んできて、足元に刺さった。


それを広げると、そこには作戦成功の文字が書かれていた。やはり、あいつも参加していた。十騎士の中でも俺が一回も本体と出会ったことのない、存在しているかどうかも怪しいやつだ。魔王はどうやらその全貌を一応把握しているようだが、その内容を聞いたことはない。完全に国家機密となっている。


まあいいか。作戦成功ということは任務も終わったということ。つまりもう帰っても良いという訳だ。俺は歩を教会から手早く回収して撤退することにした。


その時、猛烈な地響きとともに、地を裂き、轟音を立てて地中から巨大なホムンクルスが現れた。ちょうど教会の場所だ。俺は急いで教会まで向かった。その間ホムンクルスはピクリとも動かず、ただ立ち尽くしているだけだった。


すぐ近くまで来て、とある事に気づいた。


ホムンクルスが死んでる。地上に出てきた瞬間に死んだのか、死んだ状態で打ち上げられたのかはわからないが、騎士団が来る前にさっさと歩とベートーヴェンの死体でもいいから回収しよう。


誰かが途上に横たわっているのが見えた。しかも血まみれだ。ベートーヴェンだった。近づいて息があるかの確認だけ行い、簡易的な回復魔法を掛け、歩の魔力を探った。歩は意外とその近くで、無傷で寝転んでいた。どうやら気絶しているようだ。


一安心したのもつかの間、教会の神父が足を引きずって俺の前に立った。しかし神父は何も言わずに、俺が二人を回収するのをじっと見守った後、言った。


「彼とはもう戦いたくありませんね」


俺は何も言わずに二人を連れて、王国外壁を飛び越えて、近くの森林に飛び込んだ。

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