26.超巨大レーザー砲かウルトラマックス砲か...

そろそろ国連の全面進行が迫り、街には戦争が近づいてるかも知れないということで、厳戒例を敷いた。そして全ギルドの一時的解散。そしてそのギルドメンバーは全員魔王軍援護隊として徴兵された。着々と戦争へのリミットが迫る中、ギルドハウスのベルが鳴った。


このギルドハウスにベルなんて付いてたっけと思いつつ、扉を開けると、そこにはあのペストマスク集団の一味のアルタイルとベルを持ったオシャンティーナが居た。しかし、目があっても私に何一つ話そうとしなかった。わざわざそんな事をするためにこんなところに来たのかと思って冗談半分で扉を閉めようとした。


「お待ち下さい!『始まり』よ!ほんの冗談でございます!どうかお慈悲をお慈悲をっ!」


必死に嘆いて扉にしがみついてきたオシャンティーナの姿は滑稽で、吹き出してしまいそうになったが、なんとか持ち直して、アルタイルになぜ此処に来たかを聞いた。


「実は、我々の新拠点。つまり、コルト様主導で進めて居られた要塞国家が完成しましたので、お披露目にと思ったのですが、歩様お一人でしょうか」


後ろにはコハルとエリーも控えているが、正直不安な視線がさっきから私の背中を突いている。彼女たちにお留守番を命じて、コルトを探しに行くことにした。せっかく自分の国家が完成したのに、完成お披露目に行けないのは残念だと思ったからだ。


「多分コルトは中央の魔法・魔術兵器研究所っていう施設にこもりっぱなしだから、多分そこに行けばなんとかなるんじゃないかな」


私達は魔王城目指して前進した。まあ前進というよりも国内を一直線に屋根伝いで高速で駆け抜けたと言ったほうが的確で良いが。勿論誰のめにも止まらぬ速さだろう。魔王城の建物は、屋上付きのものが多いので、そこを伝って飛んで走って行くことで、建物には傷一つつけなくて済むのである。


ちなみに、これは完全に余談だが、この屋上、こういうために作られたという話もあるとかないとか...




              ◆◇◆◇◆◇




「コルト様はいらっしゃいますでしょうか」


アルタイルが研究所の門番に訪ねた。門番は、彼らの異様な装いには何も言わずに、今は居ないとだけ言った。二人はなにか察したようで、どこかに行ってしまった。私はその場にただ立ち尽くすだけだったが、彼らの姿が見えなくなると、門番が私に声をかけてきた。


「お前、あのカルト教団の者ではないようだな。此処には一体何の要件で来たんだ?」


「あ...えっと、彼と同じギルドの者で、その...何日も帰ってこないから、顔だけでも思って...」


「コルト様なら研究所の一番奥に居る、案内をつけるから行ってこい。ただし、怪しい動きを見せた瞬間に処刑するからな」


何故か私だけ許可された。しかしよくよく考えてみれば、あんなマスクをした集団がよくわからない奴らを国家の最重要施設に入れる方がおかしいのだ。


私はそんな事を思いながら施設の中へと入っていった。私の案内人は、あのときの道場で私が一発KOした男騎士だった。彼は私を見るなり、少し表情をこわばらせたが、すぐに落ち着きを取り戻して、私をコルトのところまで案内した。


施設の中は地球の研究所と変わらないような、白色の部屋が多かった。しかしそれは地上だけの話で、異世界では全く違うということはすぐに分かった。


地下へと続くコンクリートの階段を降り、そして魔力のこもったカードキーを案内人が扉の前のパネルにかざした。すると電子音とともに扉は開かれ、研究所の真の姿が現れた。


金属部品の転がる床に、大きな連装砲があった。近未来的な形を私、所々には青く光る筋が入っていた。そしてその連装砲には扉がついており、どうやら中に入って狙いをつけたり出来ると見た。私がコルトを探していると、ちょうどその扉の中からコルトが出てきた。


「どうしたん...いや。分かった。分かった、でも、少し手伝って欲しいことがある」


私の言いたかったことを察したコルトは、私に一枚の紙を差し出した。広げてみると2つの文字列があった。二つとも正気ではない名前だったが、恐らく長期研究で脳みそが疲れてこうなっているんだろう。


「...超巨大レーザー砲と、ウルトラマックス砲。どっちかがこの連装砲の名前になるわけね」


「ああ...そうだな」


「コルト君は何も言わなかったの?」


「ああ...そうだな」


私はその返答が不審だったことを思い、コルトの顔を覗き込んでみた。そこにあった彼の顔には、何日も寝ていない証拠として、大きなくまがあった。折角のいい顔が台無しになるほどに、その顔は憔悴しっ切っていた。


「じゃあ、決めて良い?」


もうここは私が決めて此処にいる人達を楽にしてあげなければならないと思った。他の研究員たちも、頷いてくれて、私は上を指差して、大きな声で言った。


「ウルトラマックス砲の方が良いと思います」


その瞬間、全てが終わったようで、研究員達はバタバタと地面に倒れていった。そしてコルトもよろけ始めたので、私が方を貸した。ずっしりとのしかかるコルトの体は筋肉質なだけでなく、色々合わせてもう強い騎士ということが分かるような体だった。


「じゃあ、連れ帰ってもいいですか?」


私が案内の騎士に聞くと、彼は快く許可してくれた。私は彼を背負って、階段を登り、そして外に出た。


外にはオシャンティーなとアルタイルが待機していて、じっと門番に睨まれていた。彼らはそんなことは気にせず、私達のことを視認するなり飛びついてきて、コルトの顔を覗き込み、そして回復魔法をかけた。


あるタイル曰く、これで過労死することはないらしいが、私達はコルトを暫く寝かせて、完成お披露目会はまた今度にすることとなった。




              ◆◇◆◇◆◇




あれから数日、国内では徴兵が終わり、訓練も終了し、ほとんどの兵士が持ち場に付いていて、敵のスパイは見つけ次第即刻処刑という体制になった。幸い私達のギルドは直接参戦しなくてよかったため、魔王連邦東壁の見張りだけで良い。コルトも私達と同じところに居るので、早々変な作戦を取られない限り死ぬことはないと言って励ましてくれた。


そして戦争が近くなると国民の顔にも変化が現れ、それに追随する形でメディアも偏向報道を更に強め、まさに国内では総力戦体制が整っていた。


宣戦布告三日前となった今、中央広場で十騎士による出陣式が行われるというのだ。


私達はそれを見に行くことにして、広場に到着すると、案の定そこは出陣式の舞台を中心に人だかりができており、簡単には入れそうにない。ということは建物の屋上から見ればよいということなのだ。


私達は屋上に登り、辺りを見渡した。わたしたち以外はほとんど誰も屋上に上がるような輩はいなかった。隣りにいたコハルが、私に言った。


「歩殿、始まりました!」


いい加減歩殿って呼び方辞めてくれよと言いたかったが、飲み込んで、小さなため息に換えた。どうも彼女は忠誠心の塊のような人間で、そういう所はキッチリとしなければならないらしい。そんな事を考えていると、出陣式が始まった。


「只今より、十騎士による出陣式を執り行います。では早速、十騎士のフェニー・ライズ様宜しくお願いします」


お、一発目からフェーちゃんだ。あのいつものノリではないよな?流石にこれから死地に行く者たちに対してあの言い方はないよな...なんか不安になってきた。どうか真面目にやりますように。


その願いが届いたのか、はたまた彼女の意思なのかは分からないが、彼女は初めてあったときと動揺、前進鎧の姿で現れた。そして、挨拶をした。


「魔王軍の諸君!本日はお集まりいただき感謝する。私が十騎士のフェニー・ライズだ。諸君はこれから死地に出向くことになる。しかし、怯えていては何も守れない。それで、私からは一言だ。魔王軍よ、戦うのだ!健闘を祈る」


その瞬間、群衆から拍手喝采が巻き起こり、彼女は堂々と舞台の裏へと帰って行った。そして次々に似たような挨拶をしたので、内容こそ覚えていないものの、私はなんとか全員の名前を書き留めることに成功した。


フェニー・ライズ、チャキフス・ロード、テレサ・ヴァイア、バベル、マカー・アル、ルインズ・ガーター、ノブナガ、ベートーヴェン。この八人は舞台に上がって直接挨拶をした十騎士で、ちなみにコルトが辞めたことはまだ国には伝わっていないので、もう一人の、コルトが見たこともないという十騎士、ローレンスと共に、手紙という形で紹介された。


そして出陣式が終わると、ほとんどは帰って行ったが、十騎士と屋上に座り込んだ私達だけが広場に残った。私が屋上から降りると、フェーちゃんが駆け寄ってきた。そして何も言わずに私を強く抱きしめて何も言わないで去っていった。




              ◆◇◆◇◆◇




その夜、魔王城の臨時設置の戦術最終決定会議室にて。


作戦立案・総合指揮を担当するノブナガだ。まずこの作戦の概要を説明する


魔王城の東にある高地、ここには情報部からの伝達で砲撃舞台が潜伏しているとの情報がある。そして宣戦布告の前にオレの率いる斥候が強襲、壊滅させる。そして宣戦布告と同時に戦闘が開始される。


魔王城西側にある山地には我軍の砲撃舞台が展開済みだが、これは恐らく敵が知っている可能性が高い。そこで、防御魔法師団を使い、これの保護をする。そして砲撃を加えながら東側の敵を殲滅していく。


そして戦力差だ。王国軍が東側に二十万人、対して我軍は八万人だ。おそれく東側は突破されるだろう。だが問題はない。魔王城結界内の火薬暴発禁止魔法により、敵の鉄砲を封じ、近接戦、または魔法戦闘に持ち込む。


対して西側は敵十万に対し我軍も十万。恐らくこれは防衛できるだろう。


そして今作戦において一番の要所となるのが正門だ。ここには私の選んだ数百名からなる工兵と、最新兵器のウルトラマックス砲三百門が展開しており、これは現在塹壕に埋まっている。敵を補足次第、ウルトラマックス法の絶え間ない射撃により、敵を殲滅できるだろう。ここでの時間稼ぎによって、西側、上手く行けば東側の生き残りからの援軍が期待できる。


空での戦いは魔王様が全て担うとおっしゃっていたので任せている。ここは心配いらないな。


そして今作戦の最難関点。敵主力の包囲だ。正門裏に待機させた三十万の兵力を持って、敵主力百万を包囲する。ウルトラマックス砲の一斉掃射で数十万は撃破できると予想される。


これが今作戦の大まかな内容だ。詳しい内容は順を追って各自に伝えるよう指示を出しておく。


以上。解散。諸君の健闘を祈る。

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