荒廃日記

iTachiの隠れ家

1.始まりのストレートパンチ

その昔、世界は荒廃しきっていた。生物の音はなく、ただ虚しい音を立てて、風が吹いているだけだった。鳥も、森も、建物も、すべてがいなくなって、人間さえもいなくなった。


そんなところに、ある二人の人間に近しい生物がいた。人の形をした、何かでしか無かったのだが、彼らは人間であろうとした。二人は、白と黒をまとった者たちだった。


白は、背中から細い剣を抜いて、言った。


「終わらせるぞ」


もう一方の黒は、どこからともなく、まるで初めからそこにあったかのように剣を持って言った。


「あぁ、この一撃で終わらせる。この世界も、何もかも」


そして、二人が同じタイミングで、呟いた。


「「刻印、発動」」


そしてお互いに切りかかった。


剣先が、触れ合った。光と影が混ざり合って辺り一帯を覆い尽くした。


それから全てが終りを迎え、また始まった。




              ◆◇◆◇◆◇




『力が欲しい』そうやって自分の無力さを嘆く人、もしくは現在進行系で欲しいと思っている非力な少年少女は多くいるが、私はそうは思ったことがない。


逆に私は『力なんていらない』と、そう思ったことは山ほどあった。


私は、昔から力が強すぎて何もかも面白みがなかった。異能力ではなく、神から与えられし圧倒的フィジカル&マッスル。周りから見れば私はただの筋肉至上主義者だ。


毎朝起きるたびに自分の身体が嫌になっていく。こんな体だから友だちもできない、そんな寂しい日々を送っていた。


ある日、二〇三〇年十二月八日。大阪の街を歩いていると、一人のおっさんが現れた。ヤクザもどきだ。最近増えてるなーと思いながら、話を聞くことにした。内容は、いたって普通のナンパで、断ろうとすると腕をつかんできたので、空いているもう一方の手で、フルパワーのデコピンをしてみた。


すると、おっさんは十メートルほど吹っ飛んで、近くの建物にぶつかってぐったりとしていた。まぁ、私の力はこんなものだ。人間の力じゃない。ごめんねおっさん、あんまり思ってないけど。


それから数日後、学校までの道で三人の男と出会った。とてつもなく怒っている様子だ。男の中の一番ボスっぽい風貌をしている奴が話しかけてきた。


「お前、うちのボスを吹っ飛ばしといて、なんもないんか?」


あぁ、この前のおっさんのことね。


そう思ったつもりだがその言葉がそのまま口に出ていたようで男たちはなんちゃら袋の尾が切れたように怒った。


「おっさん言うな!お前ちょっとこっち来い!」


「...まあいいけど、恨まないでね。おじちゃまたち」


そのまま私は、路地裏に連れていかれた。これから私は見るも無惨な姿にされてしまうのか!?


三分後、私だけがその路地裏から出てきた。男三人衆は奥でぐったりしている。まあ普通の人間に負けるわけ無いよね。


それからいったん家に帰って弟に買いものに行くとだけ言って、お気に入りで、厨二病を拗らせた時期に買ってしまったなかなか高級な漆黒コートを身に纏って、駅に向かった。


「寒っ」


私の吐く息は気づけば真っ白になっていた。そう言えば、もうすぐクリスマスか。ボッチだけど。


だいたい十分後、私は駅のホームに立ち電車を待っていた。


駅のホームにアナウンスが流れた。電車が通過するそうだ。この寒い中で通過か、まだ待つのかとため息をついていると、電車が来た。それと同時に後ろから線路に向けて私は突き飛ばされた。線路で振り返ると、あのボスっぽい男がいた。


左からは、ものすごい速さで、電車が来ている。もうだめだ。終わった。私はこんなところでミンチになるんだ。


そう思ったのと同時にある声が聞こえてきた。


「諦めんなよ」


女性の声だった。そしてその言葉が私の右腕を無意識に動かし、意味が無いとわかっていながらも電車に思いっきりストレートパンチを入れた。


その瞬間、私の視界は真っ白になり、音も、匂いも、すべての感覚が一度遮断された。


感覚が戻ってきた瞬間、何かが手に当たった。柔らかかった。これは、人か...?


「痛っ!」


その言葉にはっとして目を開けると、そこには自分の頬を抑えながら涙目上目遣いで、局部と、急所しか隠していないような鎧を着た童貞を悩殺しかねない黒髪ロングのロリがいた。


「えっと、あの?ごめん...なさい?」


彼女はまだ頬を抑えて怒りながら私を見つめている。


今思えば、ここから私のとんでもない異世界(?)ライフが始まったのであったが、このときはあんなに壮大な物語になるなど知る由もなかったのだ。

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