解1-6-2:合理主義と変数
どういうことなんだ? フィルさんとあっちの機体の正体はなんなんだ?
敵なのか味方なのかも含め、何もかもワケが分からない。動揺して心臓が激しく脈動を続けている。
そしてとうとう爆発寸前にまで脳内が混乱した俺は、居ても立ってもいられず慌ててティナさんに問いかける。
「ティナさん、どうなんですかっ?」
『フィルの言う通りです。そして今の発言により、その予測は限りなく確信へと近付きました』
相変わらず冷静なままのティナさん。一方、それを受けてフィルさんが答え合わせでもするかのように淡々と言い放つ。
『当機の識別名称は『フーリエール』。ラプラスターと同じタイミングで開発が進んでいた機体だ。試作時期や搭載されている技術はこちらの方がやや後継ということになるが。つまり性能はフーリエールの方が上ということになる』
「…………」
頭を思いっきり殴られたような衝撃を受け、俺は言葉を失っていた。
要するにこのラプラスターとフィルさんの操縦するフーリエールは姉妹機ってことだ。それならラプラスターのことについて色々と詳しいのも頷ける。
ただ、それならおそらくフィルさんもフーリエールもインフィや
それこそ合理的な思考を好むであろう彼なら、そういう選択をしてもおかしくないと思うんだけど。
つまりこの状態に至っている裏には、きっと何か理由があるんだろうな……。
俺は色々と考えを巡らせつつ、ティナさんとフィルさんの会話に耳を傾け続ける。
『性能面に関してのフィルの認識は正しくありません。ラプラスターとフーリエールは開発に対するコンセプトが異なる程度に過ぎず、基本的な性能はほぼ同等です』
『いずれにせよシステムや操縦者など、外的要因によって性能差は大きく違って現れる。特にそちらのラプラスターは機体と
『……外的要因によって性能差が出るという点に関しては否定しません。データ処理の能力とスピードもフーリエールと比べればわずかながら落ちます』
『しかもそちらは複数の操縦者がいなければ本来の力を発揮できない。意思決定にも支障が出る。ラプラスターはデメリットばかりの失敗作なのだ』
勝ち誇ったように言うフィルさん。ただ、彼の話を聞いていて俺は違和感を覚える。
確かにデータ処理の面から見れば、ラプラスターはフーリエールより劣る部分があるのかもしれない。一方で別の角度から考えると、そのシステムであるがゆえのメリットだってあると俺は思う。
ティナさんが言うように、それらはコンセプトの違いに過ぎない。得意な分野や場面が違うというだけで、優劣に直結しているとは限らないんだ。
少なくとも俺にはラプラスターが劣っているとは思えない。だからこそ、すかさずフィルさんに異議を唱える。
「フィルさん、ちょっといいですか? 合理的なことばかりが正しいとは限らないんじゃないですか?」
『……どういう意味だ?』
「意外性がないってことですよ。フィルさんが指摘したように、数値や確率だけで比べたらラプラスターはフーリエールと比べて見劣りするかもしれない。でもそれだけなんですよ」
『意味が分からん』
「要するにフィルさんが見下しているラプラスターの要素は、どれも『変数』になりえるってことです。もちろん、デメリットが強く出ることもありますが、時としてその変数は信じられないくらいの大きな力を引き出すこともあります。予測できないほどに」
俺のその言葉をどう捉えたのか分からないけど、フィルさんはしばらく沈黙していた。ただ、やがて堰を切ったように大笑いを始める。
『……フ……フフフ……アーッハッハ! 泰武、キミは面白いなっ! 確実性を捨ててギャンブル性を取るとは。一度の失敗が全ての終わりなのだぞ?』
「はい、ですから状況によっては確実性を優先させた方が良い場合もあります。フィルさんの考え方を完全に否定しているわけではありません。ただ、変数を排除してしまうのも違う気がするんです」
『不確定要素などない方が良いに決まっているだろう』
「そうでしょうか? 例えば、人間って追い込まれると普段以上に力を発揮することがあるんですよ。火事場の馬鹿力ってやつです。最後の最後ではその『変数』が奇跡を生むことだってあります」
今までにその経験や実感のある俺はハッキリと言い切った。
もちろん、『変数』には『三人寄れば文殊の知恵』や『三本の矢』のように、みんなで力を合わせれば大きな力を生むという意味合いはある。ただ、俺としてはそれ以外の要素も『変数』になり得ると信じている。
――いや、むしろその『それ以外の要素』の方が重要のような気がしている。
(つづく……)
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