解1-4-4:無に帰そうとする者

 

 程なくティナさんはテーブルの横までやってくると、ゆっくりと話し始める。


「皆さん、先ほどの戦闘ではお疲れ様でした。特にヤスタケ、見事な操縦でした」


「いえ、みんなの手助けがあったおかげです。早速ですが、ティナさんはどこからやってきて何者なのかをもう少し詳しく教えてください。それに俺たちは今、どういう状況に置かれているのかも知りたいですし」


「何からお話しすればよいのか判断が難しいところですが、まずはヤスタケたちの時空がどうなったのかお伝えしましょう。どうか気をしっかり持って聞いてください」


「は、はい……」


 あらためて念を押されると、やっぱり自然と緊張感が高まる。俺は思わず唾を飲み込んで、ティナさんの話に注目する。


「ヤスタケたちのいた地球という惑星はもちろん、あの時空に存在していた知的生命体および文明は滅亡しました。もちろん、人工構造物の瓦礫がれきといった『文明の痕跡』は残っていますが」


「……えっ?」


「また、最初の大爆発の反動で、一部の生物は別の時空へ投げ出されていると思われます。ただし、それぞれの跳躍先の時空に合わせて存在データが変換されている可能性が高いので、どんな状態になっているのかは分かりませんが」


「…………」


 最初、俺は事態が受け止めきれなくて、頭の中が真っ白になっていた。なんとかそれを乗り越えて我を取り戻しても、ぐちゃぐちゃと混乱していて言葉が何も出てこない。



 自然と額に冷や汗が滲む。呼吸が乱れてくる。



 チラリと視線を周りに向けてみると、カナ兄もチャイもショーマも真っ青な顔をして呆然としている。


「もちろん、中にはこの時空における姿とほとんど変わらぬ形でいる人間や生物もいるでしょう。逆に思念体やエネルギー体のように、物質的な存在ではなくなっている場合もあります」


「……あ、あんな一瞬で世界も宇宙も滅亡するだなんてあり得るんですか?」


「百聞は一見にしかず。モニターに映し出しますので、ご確認ください」


 直後、ティナさんの瞳が光ると同時に、学校の教室にある黒板のような大きさのモニターが天井から降りてくる。


 重苦しい空気の中、その様子を俺たちは沈黙したまま眺める。



 ここにはそんな大がかりな仕掛けと収納があったのかという驚きは確かにあるけど、事態の深刻さを考えると感嘆の声を上げるまでには至らない。


 やっぱり宇宙全体が滅びたというインパクトにはかなわないから……。



 そして程なくモニターに表示されたのは、廃墟となった地球各地の景色だった。映し出される場所は数十秒間隔で切り替わり、数千年前から伝わる巨石遺跡群や有名な近代の建築物、自然が作り出した地形など全てが崩れ去っている。


 しかもそこには生物の姿が全くなく、静まり返っているのがより不気味さを際立てている。


 それを認識すると俺は全身に鳥肌が立ち、震えが止まらなくなっていた。ただ、拳を強く握りしめて気を強く持ち、失神しそうになるのを堪える。


「これでも以前に滅んだほかの世界と比べれば、被害が少ない方です。中には星そのものが粉々に砕けてしまったり、空間全体がねじ曲がってしまったりという事例もあるくらいですから」


「……生物が滅んでしまったのなら、形が残っていても意味がないですよ」


「いずれにしても、この時空と地球という惑星は特異点なのかもしれません。インフィによる『崩壊の力』の影響を直に受けたにもかかわらず、原形を留めているわけですから。様々な時空との結節点にもなっているようですし」


「その『インフィ』って、何かの現象の名前か?」


 厳しい顔立ちでたずねるカナ兄に対し、ティナさんは静かに首を横に振る。


「全ての時空を無に帰そうとする者。究極の破壊王の名です。依然としてその多くが謎に包まれていますが、強大な力でいくつもの時空を消してきたということは事実です」


「対抗手段とかそいつの愚行を止める手立てとかはないのか? このままやられっぱなしじゃ悔しすぎる。地球のみんなの仇を取るまではいかなくとも、せめて手傷くらい負わせてやらないと気が収まらない」


「わずかながら希望はあります。今までいくつもの時空が犠牲になってきましたが、その間にインフィに関するデータの解析も進んでいますので」


「希望……か……」


「はい、その希望こそがこのラプラスターです。私やボディはインフィへの対抗手段として、私たちの時空で開発が進められました。その試作機1号という位置づけになります」


 それを聞き、俺は少しだけ色々なことを納得した。


 ラプラスターには目を見張る能力があると感じていたけど、そういう背景があったなら当然かもしれない。だって様々な時空の中でも、対インフィに関する最先端の技術を注ぎ込まれていたわけなんだから。



(つづく……)

 

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