解1-4-5:無限大の中の一点

 

 地球を滅ぼした最初の大爆発に耐えられたのも、夢幻魔むげんまと戦える能力を備えていたのも頷ける。まさに世界の希望だ。


「ゆえに私たちを危険視したインフィは開発途中に襲撃してきて、私はボディとともに這々ほうほうていでその場を逃げ出しました。そして時空間道ポシビリティ・バイパス彷徨さまよっていたのです」


時空間道ポシビリティ・バイパス?」


「無限に存在する様々な世界、その世界同士の狭間にあるのが時空間道ポシビリティ・バイパスという場所です。時空ディメンション跳躍ワープを使い、そこを経由することで各世界と行き来をすることが出来ます」


「そうか、無限と無限の狭間ということは限りなく無限。つまり位置の特定が不可能に近いくらいに困難だから、そこに行ければ敵に捕捉されにくいわけですね?」


「そういうことです」


 俺の問いかけにティナさんは同意した。


 当然、無限大の中から一点を特定できる確率は理論的にゼロ。ただ、インフィがとんでもなく幸運だったり何かの変数によってその確率がねじ曲げられたりしたら、ピンポイントで特定されてしまうこともあり得なくはない。


 なにより世の中には偶然というものがどうしても存在する。今、俺たちが話している範囲はまさに天文学的規模なわけで、簡単に『何かの可能性』を排除してしまうのは危険すぎる。


 事実、その一例を示すかのようなことをカナ兄は口にする。


「ティナがオレたちの世界に現れたのは偶然ってことでもあるよな?」


「はい、たまたま開いた出口がカナウたちの近くでした。地球が様々な時空との結節点になっているようだと申し上げたのは、そこから推測されることだからです」


「無限の中から選ばれた一点……ということか……」


「この世界に降り立ち、今後の対策を考えていた最中にインフィが夢幻魔むげんまを介して世界ごと滅ぼす力を発動させました。私の詳細な位置を把握するには時間が掛かりますから、それよりは手っ取り早く片を付ける選択をしたということでしょう」


「インフィはそれだけティナやラプラスターに脅威を感じてるってことか」


「おそらくはそういうことでしょう。エネルギーを大きく消費するリスクの方を取ったわけですから」


 確かに地球や宇宙全体を滅ぼすような攻撃を実行するには、対象だけを攻撃する場合と比べて莫大なエネルギーが必要になるのは容易に想像がつく。


 一方、面での攻撃は敵の位置が特定できなくても殲滅せんめつさせることが可能というメリットがある。これはシューティングゲームでいうところの『ボム』のようなものだ。


 今回はその切り札を使ってまでティナさんやラプラスターをほうむり去ろうとしたということだろう。ちょこまかと動き回られ続けることに鬱陶うっとうしさを感じたのか、それとも自らを滅ぼす力を備えられてしまうことに焦りがあるのか。


 いずれにしても、そうした理由は意外に人間的のような気もする。インフィがどんなヤツなのか、単純に興味深い。


「じゃ、ティナさんやラプラスターはまだ完成していないということになりますよね? つまりその世界へ行ければ開発者の皆さんや仲間がいて、さらなるパワーアップが出来るかもしれませんね」


 俺は期待を込めてたずねた。なぜならラプラスターは開発途中にも関わらずこれだけの能力を発揮し、確実に戦果を上げられているから。


 今よりも改良がされれば使える道具ツールの数が増やせたり、操縦者の負担を軽減させられたりして、敗北や怪我のリスクが減らせる。さらに量産型が生産されるようになると、戦況が逆転することだってあり得る。


 ただ、そんな俺に対してティナさんは表情を全く変えず、静かに言い放つ。


「私が逃げ出して間もなく、開発者たちは私の生まれた時空ごと消されました。今回と同じように」


「……っ……」


「ただ、先ほども申し上げたように、別の時空に飛ばされている者もゼロではないかもしれません。開発に関わった誰かを見つけ出せれば、今以上にラプラスターを強化できる可能性はあります」


 ティナさんのその言葉が、俺にはなんだか寂しげに聞こえた。


 そうした事態に巡り会える確率がほぼゼロで、奇跡に近いということを理解していると思えるから。


 別の時空に飛ばされている生物の数は限られているだろうし、その中からラプラスターの開発に関わった研究者となるともっと少なくなる。しかも意思疎通が出来る状態かも分からないわけで……。


 確実に頼れる存在はこの場にいる俺たちだけ。ますます頑張っていかないといけない気がする。ゆえに俺はあらためて心の中で覚悟を決める。



(つづく……)

 

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