解1-4-6:希望の輝き『導きの欠片(ガイドコア)』

 

 そんな中、チャイがうつむいたまま重苦しい声を漏らす。


「でもそのインフィを倒したとしても、滅びてしまった私たちの世界はどうにもなりませんよね……。確かにまだ攻撃を受けていない世界は救えますし、仇を取ったという自己満足は得られるかもですが……」


「いえ、そうでもありません。どの世界であっても、万物は複数の世界にまたがって存在しています。ひとつの世界が消滅しても、別の世界の存在データを基にすれば復元は可能です。特にオリジナルの存在が残っている世界の再現性は高いです。その存在そのものが莫大なデータ量の保存庫と言えるわけですから」


「っ!? つまり私やティナさんの生まれた世界は、ほぼ元通りに復元できるってことですかっ?」


 チャイは息を呑み、身を乗り出して叫んだ。失いかけていた瞳の輝きも取り戻しつつある。


 もちろん、その反応は俺やカナ兄、ショーマも同じ。だって俺たち自身がカギとなって世界を復活させられるかもしれないんだから。今までで最も希望を感じざるを得ない事実だ。


 だからこそ俺たちは一様に固唾を呑んで、ティナさんの話に耳を傾け続ける。


「その通りです。ただし、復元には膨大なエネルギーと誰にも邪魔されない安定した環境が不可欠です。その両方を満たすためにも、インフィを倒す必要があるのです」


「復元を邪魔されないように敵を排除するというのは分かりますが、必要なエネルギーとインフィにどう関係があるんですか?」


「万物は複数の世界にまたがって存在していると言いましたが、唯一の例外がインフィ自身。ヤツはその存在をひとつにまとめることで、圧倒的な力とエネルギーを得ました。だから逆にそれを利用してやろうということです」


「つまり倒すべき敵がこちらにとっての奥の手にもなっているワケですね」


「ただ、問題があります。それはインフィがどこの時空に存在しているかが分からないということ。かつては自ら動くこともありましたが、今は大抵が夢幻魔むげんま任せになっています。皆さんの世界を滅ぼした時のように、遠隔であってもインフィが力を直接解放するのはイレギュラーなことなのです」


「しかもあれだけの大きな力だと、そんなに頻繁に開放することは出来ないだろうしな。まぁ、それはそれとして、確かに居所が分からなければこちらとしては手の出しようがない。そういう点にもラプラスターの力を警戒していることが分かるな」


 カナ兄は手でアゴを擦りながら『ふむ……』と小さく息を漏らした。



 ――うん、どんなに強いパワーがあっても命中しなければ意味がない。バトルもののマンガやアニメでも、そういうシーンがよく出てくる。それと同じで、相手のところへ辿り着けないのなら倒すことは出来ない。


 それこそ時空間道ポシビリティ・バイパスみたいな場所へ逃げ込まれてしまったら、完全にお手上げだ。


 これは思った以上に厄介な問題かも――と思っていると、ティナさんから意外な事実が知らされることになる。


「もちろん、見つけ出す方法はあります。それはヤツの力で生み出された夢幻魔むげんまをたくさん倒すこと。夢幻魔むげんまは各時空に一体ずつ派遣され、制圧のために動いています」


夢幻魔むげんまの数を減らすことで、インフィ自身が出て来ざるを得ないようにするってことか?」


「いいえ、違います。夢幻魔むげんまの力の源はインフィ自身の存在感を元にした欠片コア。私はそれを『導きの欠片ガイドコア』と名付けました。先ほどヤスタケが回収したものがそのひとつです。導きの欠片ガイドコアをたくさん集めれば、その共通項から位置を特定できるのです」


 なるほど、欠片もインフィの一部と捉えれば、固有の波長のようなものを共有しているはず。それを分析すれば本体の居場所に辿り着けるということか。


 当然、欠片の数が増えれば増えるほど、無数に存在する波長の中から共通するその固有のものを特定しやすい。つまりインフィも夢幻魔むげんまを行使するに当たってリスクが全くないわけじゃないんだ。


 なんだか未来へと続く希望の光がハッキリと見えてきたような気がする。


「先ほども少し触れましたが、ラプラスターはまだ未完成の状態です。私だけではインフィを倒すほどの力を発揮することが出来ません。そして何かの因果かもしれませんが、こうして私たちは出会った。世界を救うためにも皆さんの力をお貸しいただけませんか?」


「この世界を元に戻せる可能性があるなら、オレは全力で協力させてもらう!」


 真っ先にカナ兄がティナさんの申し出に同意した。いつも以上に気力がみなぎり、瞳には炎が灯っている。


「俺もティナさんと一緒に戦います。どうせこのままでも未来は見えないわけですし、それならわずかでも可能性のある方へ運命を賭けます」


「僕だってカナ兄やヤス兄、ティナ姉と一緒に戦う」


「カナウ、ヤスタケ、ショウマ……」


 あまり明確に表情を変えないティナさんが、今は瞳を潤ませながら微笑んでいた。



 ――あとはチャイの返事だけ。


 さっき俺がコックピットへ向かおうとした時に個人識別登録を一度は拒絶したという事実があるだけに、否応なくみんなの視線が彼女に集まる。


「……私もみんなと一緒に戦うよ。インフィを倒せば地球が元に戻るんだもんね。ここで諦めて、後悔はしたくない。自分の未来は自分で切り拓くんだ!」


 それを聞き、俺もカナ兄もショーマも思わず『おぉっ!?』と感嘆の声を上げた。


 肝が据わっているし、なんとも心強い。ここ一番という時のチャイは誰よりも頼りになるということを、ここにいるティナさん以外の全員が知っている。まさに鬼に金棒だ。



 もはや俺たちの心はひとつ。目標に向かって邁進まいしんしていくだけだ。


「ありがとうございます、皆さん。長い戦いになるかもしれませんが、最後まで全力を尽くしましょう」


 ティナさんがそう問いかけると、俺たちは声を揃えて同意したのだった。



(つづく……)

 

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