解1-4-3:言い忘れていたこと

 

 内部には8畳くらいの寝室と同じ広さのリビング、それと簡易的なキッチン、ユニットバスがある。また、ベッドやデスクなどの家具や生活に必要そうな道具も一通り揃っていて、至れり尽くせりといった印象だ。


 俺は部屋に入るなり、ベッドの上に仰向けで寝転んだ。そして天井をボーッと眺めながら大きく息をつく。


「なんか……未だに信じられないな……。現実味がないっていうか……。まぁ、信じざるを得ない状況ではあるんだけど……」


 なんとなく俺はバスに乗り込んで以降のことを思い返していた。


 その間には色々とありすぎて、でも夢中で全てを乗り切って今がある。これからどうなってしまうんだろうという想いもゼロじゃないけど、不思議とそれは気にならない。


 今後も死と隣り合わせの戦いを続けなければならないのに怖さもない。深層心理では吹っ切れて、この状況を受け入れているということなのだろうか?




 …………。


 ……俺、ロボットを操縦して怪物と戦って、勝ったんだよな。



 冷静に考えてみたら、スゲェじゃん。みんなにサポートしてもらったとはいえ、初めての実戦だったわけだから。


 なんか今になってドキドキして、少し興奮してきた。血が騒ぐっていうか、気持ちが高ぶってくる。世界はとんでもないことになっているのに、不謹慎にも思わず笑みが零れてしまう。


 でも勝ったんだから、少しくらいは喜んだり嬉しくなったりしてもいいのかも。



 ――と、その時のことだった。


 不意にインターホンの音が室内に響き、俺は誰かが部屋にやってきたことを察した。ゆえに即座に起き上がって玄関に向かい、急いでドアを開ける。


 するとそこには何か言いたげな表情で、モジモジしているチャイの姿が……。


「あれ? チャイ、どうしたんだ?」


「えっと……その……さっき戦闘が終わってヤッくんが指令室に戻ってきた時、言い忘れてたことがあったから……」


「言い忘れてたこと?」


 俺が首を傾げると、チャイは照れくさそうに頬を赤らめながら小さく頷く。


「……ヤッくん、おかえりなさい」


「っ!?」


「そ、それじゃっ、またあとでねっ!」


 チャイは慌てた様子でそう言い放つと、髪をひるがえして自分の部屋へと戻ってしまった。


 その場には良い匂いがほのかに漂い、俺はポカンとしたままたたずむだけ。ただ、程なく我を取り戻すと、途端に心臓の鼓動が加速度的に高まってくる。頬だけでなく全身が熱い。



 ……ヤバイ。なんかキュンと来た。それに戦いに勝ったんだなという実感をあらためて明確に感じる。



 おかえりなさい……か……。





 その後、なんだかんだで時間はあっという間に過ぎていき、約束した時刻の5分くらい前になって俺はリビングへと移動した。


 すでにテーブルの座席にはティナさんと俺以外の全員が集まっていて、いつもと変わらぬ様子で雑談をしている。みんな慣れない環境の中で孤独に過ごすのが落ち着かなくて、早めに来ちゃったのかな?


 確かに誰かと話している方が気が紛れるということもあるかもしれない。俺なんかはひとりで過ごして、冷静に頭の中を整理したいってタイプだけど。


「――よう、ヤス。少しは休めたか?」


 俺がみんなのところへ歩み寄っていくと、正面に座っていたカナ兄が真っ先にそれに気付いて声をかけてきた。するとこちらに背を向ける形で座っていたチャイとショーマも俺の方を振り向く。


 この雰囲気だけを見ると、旅行先のホテルのロビーにでも集合した時のような感じ。本当にそういう穏やかなシチュエーションなら良かったんだけどな……。


 そんなことを思いつつ、俺は気を取り直してカナ兄に返事をする。


「うん、そうだね。さっきは頭がオーバーヒート気味で何もかも無我夢中だったけど、今なら落ち着いて色々と情報を処理できそうだよ」


「ははは、その余裕がいつまで続くかな。だってティナからまだまだ想像を遙かに超える説明をされそうだから」


「そ……それは……まぁ……」


 確かにカナ兄が言うことは的を射ているから、俺としては苦笑しながら素直に同意するしかない。ただ、幸いにも少しは慣れたおかげで驚く度合いはそれほどでもなさそうだけど。



 ――と、その時、そんな俺たちのところへティナさんがやってくる。


 それを見た俺は急いで空いている席へと座り、彼女の方へと体を向けて話を聞く姿勢をとる。カナ兄やチャイ、ショーマも背筋を伸ばし、表情には緊張が走る。おのずとその場は沈黙が包み込む。



(つづく……)

 

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