解1-4-2:女子同士の融和
そんな中、隣に立っていたショーマがニタニタしながら軽く肘打ちをしてくる。
「ねぇねぇ、ヤス兄。なんかここってデスゲームでも始まりそうな雰囲気とシチュエーションだね。閉鎖空間だし。脱出できるのは最後まで生き残ったひとりだけみたいな?」
「ショーマ、恐ろしいことを言うなよ。それに今、降車ボタンを押せば司令室に戻れるって言われたばかりだろ? 遊びじゃないんだし、あまりはしゃぐな」
「えっへへ……。でも本当はボタンを押しても戻れなかったりして……」
「言ってろ、バーカ」
俺は呆れ返ったように言い捨てた。ただ、実は心の奥底では『実際のところ、ショーマの言う通りだったらどうしよう』って少しだけ思ってしまったのは内緒だ。
一方、ふざけているショーマとは対照的に、カナ兄はティナさんに対して現実的な質問をする。
「ティナ、食事はどうすればいいんだ? お前と違って俺たちは何かを飲んだり食べたりしないと生命維持が出来ないんだが」
「なるべく早急に食堂を整備します。それまでは食料庫の中に入っている固形保存食でエネルギーを補給してください。また、蛇口から出る水は飲用可能です。排泄と入浴はユニットバスをご利用ください。いずれも各部屋に備え付けてあります」
「なんだかビジネスホテルみたいだな……。そうだ、それで思い出したが着替えはどうする?」
「クローゼットに下着や服が入っています。使用者登録が済むと、そのデータを元にサイズの合ったものが用意されます。使用済みのものはダストに入れていただければ、適切に処置が行われます」
それを聞き、『適切な処置』というのは自動洗濯乾燥機にかけるというものとは根本的に違うんだろうなと俺は思った。だってそれなら『洗濯』とか『クリーニング』というような言葉を使うはずだから。
おそらく分子レベルまで分解して再構築するとか、エネルギーに変換した上で新たに作り出すとか、そういった感じのような気がする。だとすれば、ダストに落ちないよう気を付けないといけないという問題も出てくるけど。
いずれにしても、俺たちの世界でそうした技術が実現するのは何百年先になるんだろうな……。
こうしてカナ兄の疑問が解消されると、次はチャイがティナさんに声をかける。
「ティナさん、すぐに食堂が整備できないのには何か理由があるんですか?」
「私はラプラスターにおける全てのデータ処理を行っています。当然、その能力には限界があり、ゆえに各項目の優先順位やリソースの割り当ても変わってきます。居住区画に関することはその順位が低いので、後回しになりがちかつ処理が遅いというわけです」
「そっか、敵の襲撃に備えたり移動したりってことに比べれば、そうなるのも仕方ないですよね」
「ただし、アイ。要望があれば遠慮なくおっしゃってください。否応なくこんなことに巻き込んでしまったこともあり、なるべく優先して
「あはは、それはもう気にしないでください。あの時はちょっと取り乱しちゃって、言い過ぎた部分もあると自覚してます。私の方こそごめんなさい。こうなった以上、協力し合って乗り越えていきましょう」
「はいっ! ありがとうございます!」
穏やかな笑顔で言葉を交わすふたりを見て、お互いにすっかりわだかまりは消えているような感じがした。
少なくともチャイは話せば分かる性格だし、サッパリとしてるから。何か突拍子もない出来事が起きると取り乱すこともあるけど、落ち着けば冷静に状況を判断できるし。それと最後は相手の想いを理解してくれるんだよなぁ。
チャイのそういうところ、俺は昔からずっと好きだ。
…………。
……も、もちろんそれは性格が好きという意味であって、恋愛感情云々ということじゃない、うんっ!
ただ、自然と俺の頬は熱くなってきて、とうとうチャイから視線を逸らさざるを得なくなってしまった。もしこの状態で彼女と目が合ったら、どんな追求を受けるか分からないから。
照れくさくて絶対に本当のことは言えない。誤魔化しきれる自信もない。
――と、心の中でアタフタしていると、カナ兄がティナさんに向かって口を開く。
「んじゃ、ティナ。このあとはそれぞれ個室で休憩ってことでいいんだな?」
「はい。そして1時間後にここへ集合することにしましょう。その時に先ほどの『欠片』についてや私たちの置かれている状況などをご説明します。もちろん、緊急事態が起きた場合にはその限りではありませんが」
「よーしっ、それならとりあえずは解散ってことで!」
カナ兄は両腕を上げ、パチンと大きく手を叩いた。それを合図に俺たちは個室のある通路へ移動し、それぞれの部屋へと入ったのだった。
ちなみにリビングから見て右の一番手前がカナ兄、その正面がショーマ、カナ兄の隣――つまり右側の奥が俺、ショーマの隣――俺の正面がチャイという部屋の割り当てとなっている。
(つづく……)
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