第1-1式:世界の破滅は突然に
解1-1-1:幼馴染みと日常と
数日前に新学期がスタートし、俺は中学2年生としての生活を歩み始めた。
ただ、だからといって特に気合いが入るということでもなく、日々のキラキラとした輝きも感じられない。そしてその原因は、何かが変わったという実感がいまいち湧いてこないということにあるのだと思う。
確かに学校の授業ではどんどん新しいことを学んでいるし、教室や座席の位置が変わるなど多少は環境の変化はある。でもそれって逆に言えば、そうした物事以外はほとんど変わらない毎日が続いているとも捉えられる。
惰性で過ごしている日常。明確な刺激のようなものがなくて退屈。
中学へ入学した時点では何もかもが大きく変わる新生活にドキドキしていたし、来年になれば進路をどうするかといった問題が出てきて苦労はあれど面白味もあるはずだ。
でも今はあくまでも1年生の延長線上というか、学校生活をマイナーチェンジしたに過ぎないような感覚がある。そう考えると、中学2年生というのは中学生活の中で一番緩慢としている時期なのかもしれない。
もちろん、忙しすぎるのも考えものだとは思うけど……。
「……それにしても桜もあっという間に散っちゃったな」
俺は葉が生い茂るソメイヨシノの枝や地面に落ちた無数の花びらを見やり、大きく息を
舞い上がる花びらと砂埃。俺は思わず目を
ここは通学時に使っているコミュニティバスの停留所。待合室どころか屋根やベンチすらなく、人間ひとり分の幅しかない歩道に案内標が置かれているのみ。
しかもその案内標も実に簡素で、コンクリートの土台にポールが差し込まれ、そこに時刻表などが記してある金属板が付いているだけだ。
片側一車線ずつのアスファルトの車道にも、ここが停留所であることを示すラインや文字がない状態となっている。
もっとも、運行本数が平日の朝と夕方に数本ずつしかないから、そういう雑な扱いなのも無理はないのかもしれない。
しかもこの路線は住宅街の狭い日常道路を中心に経路が設定され、俺の通っている
ゆえに利用者は自動車運転免許を持っていない高齢者や沿線の学校に通う生徒くらいに限られ、車内はいつも閑古鳥が鳴いている状態だった。
俺としては空いている方が座席に座れて嬉しいけど、運行会社に補助金を出している市のことを思うと素直に喜べない。だってこのまま赤字が拡大すると廃止という話になって、後輩たちの通学に支障が出かねないから。
「――ヤッくーん!」
その時、見知った女子が俺のあだ名を呼びながら笑顔で歩み寄ってきた。その隣には彼女の弟で、小学6年生のショーマの姿もある。ふたりは我が家から数件ほど離れたところに住んでいる幼馴染みだ。
女子の方は
凛とした目鼻立ちと太陽のような明るい性格。男女関係なく友達が多くて、世話焼きな面もある。格好は紺色のブレザーに朱色のネクタイ――つまり
ちなみに俺の着ている男子の制服もデザインはほとんど同じで、目立った違いはズボンかスカートかというくらいしかない。
一方、ショーマ――
また、俺にとっては誰よりも気の合うヤツで、よく一緒に遊んでいる。
今は黒色のランドセルを背負い、灰色のパーカーにベージュ色の半ズボンという格好をしている。
「あっ! ヤッくん、また寝癖が付いたままだよ。しょうがないなぁ」
俺のところへ辿り着くなり、チャイはスクールバッグからクシを取り出して俺の短い黒髪を
いつものことながら、避けたり拒絶したりする間もなく懐に入られてしまうのはなぜだろう? これでも俺は剣道部で、それなりに実力も身に付いているはずなんだけど……。
チャイは俺の
目の前にあるチャイの顔と揺れる髪からほのかに漂ってくる良い匂い――。
かつては全く気にならなかったことなのに、最近はなぜか意識してしまう。胸の鼓動も高まって落ち着かない。
(つづく……)
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