時空変換ラプラスター

みすたぁ・ゆー

第1法則:世界崩壊!? 切り札は変形ロボ!

第1-0式:時空の狭間で……

解1-0-1:時空演算実行! 道具を武器に変換して戦えッ、ラプラスター!!

 

「くそっ! 木が1本でも生えていれば、それを引っこ抜いて武器に出来るのにッ!」


 俺は周囲に視線をチラチラと向けながら歯噛はがみした。


 辺り一帯――というか、地球全体は夢幻魔むげんまによる最初の一撃によって荒野にされてしまっているので、当然ながら樹木どころか草すら見当たらない。


 都市部だった場所へ行けば残骸の中にビルの鉄骨や街灯などの支柱、鉄道のレールといった棒状の金属塊が残っているかもしれないけど、敵と対峙しているこの状況ではそこへ移動したり探したりしている余裕なんてない。



 …………。


 ……そうなると、やはり使える武器は無数に転がっている岩くらいか。



 ちなみに俺は投擲とうてき競技が苦手だ。岩を投げて攻撃したとしても命中率は低いだろうし、威力だって期待できない。


 一方、敵の間合いに入らずに攻撃できる手段がほかにないのも事実としてある。



 ゆえに仕方なく俺は夢幻魔むげんまに向かって、岩を拾い上げては投げつけるという攻撃を何度か繰り返すしかなかった。ただ、予想通りその多くは明後日あさっての方向へ飛んでいき、当たった場合でも岩が砕け落ちるだけ――。


 ヤツ自身は全く動じず、ダメージを受けているようには見えない。


 それでもこちらを警戒してくれたのか、その後はじっとしたままラプラスターの様子をうかがっている。


 こうして再びお互いに牽制けんせいし合ったままのにらみ合いが続く。


『――お待たせしました、ヤスタケ。今からコックピット内に武器を転送します。受け取ってください』


「ふぅ、ようやくか……」


 ティナさんの声が響き、俺は思わず息をついた。


 武器さえあれば夢幻魔むげんまとの戦いが少しは楽になる。今までは敵の攻撃に対して回避するしかなかったけど、これで攻撃や防御などやれることの幅が大きく広がる。


 果たしてどんな武器が送られてくるのだろう? 剣の類であれば最高だけど、この際だから贅沢ぜいたくは言ってられないか……。


 例えミサイルや大砲のような遠隔攻撃系の武器でも、無いよりはマシだし。


 そんな感じで俺が期待感を持って待っていると、直後に目の前の空間に何かが転送されてくる。それらは宙に浮かび、ゆらゆらとその場で漂っている。


「…………。……えっ? これって鉛筆に消しゴム、それにノートぉっ!?」


 俺は頓狂とんきょうな声を上げ、ポカンとしてしまった。


 ――いや、誰でも同じような反応をするに違いない。だってこれを使ってどう戦えばいいのか、全く見当も付かないから。


 当然、ティナさんがふざけているということはないだろうし、だからこそ俺は当惑してしまう。


『指令室内の皆さんに相談した結果、すぐに準備できたのがこれらの道具ツールでした。ショウマが自分のランドセルから即座に取り出してくれたということもありまして』


「いやいやいやっ、問題はそういうことじゃないですよっ! これを使ってどう戦えっていうんですッ? まさかこのノートに名前を書けば、その相手を倒せるってわけじゃないですよねっ!?」


『ラプラスターの最大の特徴は、“道具ツール”を武具に変換して戦えるという点です。時空演算をして既存の道具ツールを別時空で武具に置き換えるのです。どの道具ツールがどんな武具になるのか、現時点ではデータの蓄積がないので変換してみるまで分かりませんが』


「っ!? つまり何らかの処理をすると、この鉛筆などが武具になるわけですか?」


『はい。コックピット内でヤスタケが対象物を意識しながら道具ツール変換の命令をすれば、武具に置き換わります』


 それを聞いて、ようやく俺は色々と合点がいった。そういうことであれば、鉛筆や消しゴムなど何の変哲もない文房具類が転送されてきても不思議じゃない。


 でもそれならそれで疑問も湧いてくる。変換する候補になり得る道具はほかにもたくさんあるはずなのに、なぜ送られてきたのが3つだけなのか。


 どんな武具に変換されるか分からないのなら片っ端から試してみて、その中から使いやすそうなものを選べばいい。でもそれをしていないということは、おそらくそれが出来ない理由があるってことなんだろうな……。


「ティナさん、もしかして変換できる道具ツールの数は限られてますか?」


『さすがヤスタケは察しが良いです。道具ツール変換は操縦者の精神力に依存しますので、際限なくというわけにはいきません。現在のヤスタケなら、一度の戦闘で3つか4つというところでしょう』


「なるほど、それで俺のところに送られてきた道具ツールが3つなんですね。ちなみに限界を超えて道具ツール変換をしたら、どうなるんです?」


『それを実行した操縦者は、今まで通りの生活が送れなくなる可能性があります。最悪の場合、精神が崩壊します』


「…………」



 精神の崩壊――それはつまり心が死ぬということだ。生きるしかばねとも言えるかもしれない。


 それを想像して俺は一瞬、頭の中が真っ白になる。



 敵との戦いに敗れれば肉体的な死。ピンチだからといって、過剰に道具ツールを武具に変換すれば精神的な死。思っていた以上に厳しい立場にいるんだなと実感する。


「……そう……ですか。分かりました、頭の隅に置いておきます」


『変換の前にはバックグラウンドで仮演算が行われます。その結果、操縦者の精神力が限界を超えそうな場合は警告が出て変換の処理が保留されます。そうなった時には私の権限で変換命令を取り消しますので、その点はご安心ください』


「はい、俺はティナさんを信頼してます。それじゃ、この鉛筆と消しゴム、それにノートを変換してみます」


『準備はすでに完了しています。いつ道具ツール変換の命令を出していただいても問題ありません』


「分かりましたっ! ではっ、いきます! ――ラプラスター、道具ツール変換!」


 俺は目の前にある3つの文房具に意識を向けながら叫んだ。



 するとその直後、それらの道具ツールはそれぞれ銀色に光る粒子の塊となり、まばたきしている間にも新たな形に置き換わる。


 まさに電光石火の出来事。これでも仮演算が行われているということなのだから、その情報処理スピードは半端ない。



 今や鉛筆が剣に、ノートが鎧に、そして消しゴムがランチャーへと変化し、それらは勝手に俺の体に装備されている。もちろん、実際に装着されたのはラプラスターのボディなんだろうけど。


「これが……道具ツール変換か……」


 俺は呆然としながらたたずむ。ただ、余韻よいんに浸る間もなく、コックピット内には警告音のようなアラームが響いて全てのディスプレイが点滅を始める。


 少なくとも何かが起きて、通常とは違う状態になっているのは間違いない。


「っ! この警告音、何があったんだッ!?」



 否が応でも高まる緊張感――。



 心臓の鼓動は瞬時に最高潮に達し、俺は意識が飛びそうになる。全身に鳥肌が立ち、震えが止まらない。それなのに顔はのぼせたみたいに熱くて、自然と呼吸が速くなる。


 俺はどうなってしまうんだろう……。



(つづく……)

 

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