解1-7-2:途絶える未来
俺はそう考えた理由をみんなに説明する。
「ラプラスターの良いところは痛覚だけが操縦者と同期していること。つまり具体的に俺の体がダメージを受けているわけじゃありません。俺自身に体力と意識が残っている限り戦えます。――そうですよね、ティナさん?」
『は、はい……。ただ、ラプラスターのボディは破損しています。つまりヤスタケの意思通りには動かない状態です』
「それは操縦者が交代しても同じでしょう? 交代したからといってラプラスターのボディが直ちに回復するわけじゃない。それならこの中で最もラプラスターの操縦に慣れている俺が最期まで戦う方が、このピンチを乗り切れる確率が一番高いですよ」
俺の指摘に全員が黙り込んだ。それは誰もがその通りだと感じたからだろう。
いくら新たな操縦者が体力的に充実していても、ラプラスターが思ったように動かないなら絶対に混乱する。しかも操縦に慣れていないならなおさらだ。
それならボディと操縦者の状況が似通っている俺の方がスムーズに全ての状況を受け入れ、適切に判断できる。なにより相手は戦う技術に長けているフィルさんなんだ、誰が操縦しても事態が容易に好転するとも思えない。
その時、そのフィルさんが沈黙を続ける俺に向かって音声通信で話しかけてくる。
『ヤスタケ、このままキミとラプラスターにトドメを刺すのは
「…………」
『安心しろ、人権を無視するような命令はしない。大切な部下なのだからな。むしろ相応の待遇で迎えようじゃないか。どうだ?』
フィルさんの口調や性格から察するに、その言葉に嘘はないと思う。だけどそこには嘘がないだけで、きっと『別の真実』も隠されている。それは何も言及していない部分にあるはずだ。
だからこそ俺は何の迷いもなく、キッパリと彼に対して言い切る。
「――断る! だって俺以外のみんなは殺すつもりなんだろ? なんとなくそんな気がする。あなたは“合理的”な人だから」
『ふ……ふふっ……あはははははっ! さすが泰武っ、察しが良いな! そういう洞察力や直感力なども含めて、やっぱりキミをこのまま失うのは
「随分と俺がお気に入りなんだな。買い被り過ぎじゃないのか?」
『分かった、キミ以外にひとりだけなら特別に助けてやってもいいぞ』
「全員が一緒でないならお断りだ! 見損なうなっ、俺はひとりとして仲間を見捨てるような薄情者じゃない! 分かっててそんな提案をするなんてっ、性格が悪すぎるぞ!」
とうとう我慢の限界を超え、怒りが爆発した俺は敵意を
もっとも、それでもフィルさんは何の反応も見せず全く動じていない様子。むしろそのことさえも見透かしていたような感じで、俺は心の中で舌打ちをする。
『……交渉決裂か。残念だ、私としては最大限に譲歩してやったんだがな。いずれにしても、やはりキミは気高くて尊い。みっともない命乞いなどせず、自分だけが助かろうとする
「このままやられっぱなしだと思うなよ? 俺はまだ戦える!」
『うん、最期の瞬間まで抵抗するといい。止めはしない。勇敢な戦士として死ねるならキミも本望だろう。せめて私が引導を渡してやる』
フーリエールはあらためて剣を握り直し、振り上げたところで制止させた。その切っ先はラプラスターの頭部に向けられ、そのまま突き下ろせばボディもろとも田楽のように串刺しになってしまうことだろう。
そうなれば今度こそ、そのダメージとショックで俺の意識はおそらく永遠に途絶える。つまり俺は死ぬってことだ。
指令室にいるみんなだって例外じゃない。フィルさんは全員の死を確認するまで、徹底的にラプラスターを破壊し尽くすに違いない。
みんなにはあの世で土下座でもして謝らないとな……。
(つづく……)
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