解1-5-5:時空間道(ポシビリティ・バイパス)

 

 あっという間に狭まっていく距離。このままだと追いつかれてしまうのも時間の問題かもしれない。先に時空ディメンション跳躍ワープが出来るどうか微妙なタイミングだ。


「くそっ! なんとか逃げ切ってくれっ、ラプラスター!」


 固唾を呑み、手に汗握りながら祈るような気持ちで時空ディメンション跳躍ワープを待つ俺。


 でもその想いとは裏腹に、敵はさらに予想だにしない動きを見せる。


 なんと敵のボディの左右からそれぞれアームのようなものが伸び、本体以上のスピードでこちらに迫ってきたのだ。まるでバネかゴムで出来ているかのような動きをしている。


 もはや回避は間に合わない。本能的にそれを悟った俺は全身を硬直させ、間近にある手すりを両手で握って衝撃に備える。


「――っ、ぐうぅっ!」


 直後、世界が割れたような振動と衝突音が指令室全体を襲った。そして最悪なことにラプラスターは敵のアームに挟み込まれたまま、時空ディメンション跳躍ワープが始まってしまう。


 周囲の景色は大きく揺らぎ、乗り物酔いでも起こしたかのような気分の悪さを感じる。そして気付いた時にはラプラスターは漆黒の空間へと跳躍が完了していたのだった。




「ここが時空間道ポシビリティ・バイパスか……?」


 窓の外には散りばめられた無数の光の粒が後方へ流れていく様子が見える。まさに宇宙空間を進んでいるかのようだ。その幻想的な光景に、思わずボーッと見入ってしまう。


 でも直後、指令室を襲う衝撃と轟音ごうおんに俺は無理矢理にも現実へと引き戻される。


 どうやらラプラスターは左右に激しくボディを振ることでなんとか敵のアームを振りほどいたらしい。ただ、もはや逃げ切れるほどのスピードは出せていない。


 一方、敵も最後の超高速移動とアームの稼働でエネルギーを一気に消費したのか、こちらと同様に動きが鈍っている。もちろん、接触を伴ったまま一緒に時空ディメンション跳躍ワープをした時点で敵の目論見通りだろうけど……。


「……くっ、もっと早くそれに気付くべきだった!」


 俺は壁を拳で叩いたあと、奥歯をみ締めていた。


 時空ディメンション跳躍ワープ時空間道ポシビリティ・バイパスへ逃げ込んだ時点で、ひとまずはこちらの勝ち。別の時空へ跳躍するまでは位置を捕捉されて戦闘になることはほぼない。


 しかもその間に俺たちの休息やラプラスターのメンテナンスなどを行うことで、万全の状態に態勢を整え直すことが出来る。



 だからこそ、敵もそれを分かっていて『逃がさない』手段に出たんだ。



 アームで掴むことでラプラスターと一体化すれば、こちらが時空ディメンション跳躍ワープをしたとしても一緒に時空間道ポシビリティ・バイパスの同じ場所へ跳躍することになる。


 再び時空ディメンション跳躍ワープで別の時空へ逃げようにも動力蓄積チャージが必要になるから、一定の時間はそれが不可能。それどころか、ほぼ連戦になる俺たちの方が不利だ。


 今のところはお互いに沈黙したままだけど、いつ戦闘状態に戻ったとしてもおかしくない。


 とりあえず俺はみんなの状態を確認するため、声をかけてみることにする。


「チャイ、ショーマ、大丈夫か?」


「う、うん……私は大丈夫……」


「僕もなんとか……」


 ふたりとも表情を歪めてはいるけど、大きな怪我はなさそうだ。振動や衝撃などにより多少の打ち身はあったとしても、命に関わるほどではないと思う。


 続けて俺は運転席にいるカナ兄とその横に立つティナさんに視線を向ける。


「カナ兄とティナさんはどうですか?」


「オレも怪我はないが、カーチェイスのような運転を強いられたせいで精神が磨り減ってるよ。今はお互いにスピードが落ちて、併走しているだけのような状態とはいえ、いつ何をしてくるか分からんから息もけんし……」


「私自身にも大きな問題は起きていません。今のところボディへの損傷も軽微であり、自己修復機能ですぐに直る範囲です。データ処理も問題なく行えています。敵の分析ももうすぐ完了します。もっとも、その外観に関してはすでに窓からでも目視できる状態ですが」


 ティナさんに言われてようやく俺はハッとした。


 ……そっか、これだけ接近していればそれもそうだ。ほかに優先してやらなければならないことが一杯で、そこまで意識が向かなかった。


 そもそも砲撃している時はレーダーを頼りにしていた上、ディスプレイには影のような曖昧な形しか映らなかった。それに途中から敵のミサイルの迎撃に注力していたわけだし。


 早速、俺は端末を操作して後方の映像をディスプレイに映し出す。



(つづく……)

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る