解1-2-6:不利を承知で戦う決意

 

 おそらくチャイだってそのくらいは理解していると思う。ただ、ティナさんやこんな無慈悲な事態を押しつけた『運命』に対してあらがいたくて、きっと意地を張っているに違いない。


 チャイは自分の損得勘定よりも『想い』で動くヤツだから。幼馴染み歴の長い俺には、手に取るように彼女の気持ちが分かる。そして幼馴染みだからこそ、俺は最後まで味方でいてやらないといけない。


 もちろん、そうなると不利な条件で夢幻魔むげんまと戦わなければならなくなるけど、俺がその穴を埋められるくらいに頑張れば良いだけだ!


 ――こうして覚悟を決めた俺は、ティナさんに向かって静かに口を開く。


「ティナさん、チャイとショーマは未登録のままでも良いじゃないですか。そもそもラプラスターとバスが融合した時の相性で標準性能が75%アップしているなら、1×1・75×0・5=0・875。つまり約88%の力は出せるはずです。それならなんとかやってみせます!」


「……承知しました。それではアイとショーマは未登録のままにしておきます」


「チャイ、ショーマ。お前たちは気にせず、そこで大船に乗ったつもりで見てろ」


 瞳に動揺の色を浮かべるチャイとショーマに対し、俺は笑顔で親指を突き出した。


 そして起動キーを握り締めたまま運転席のところへ駆け寄り、元・運賃箱に付いている読み取り機リーダーに迷わずタッチする。


「――認証確認。これでヤスタケおよびカナウの『精神の同期シンクロニズム』が正常に完了しました。現在、ヤスタケとカナウはラプラスターを思いのままに扱うことが可能になっています」


「どうやって戦えば良いんですか?」


「コックピットで動かしたい操作を思い浮かべれば、自分の手足のごとく、その通りに動いてくれます。三次元世界の皆さんにとっては、コックピットの環境やラプラスターの操作性が驚くべきものかもしれません。いずれにしても実際にやってみれば、すぐに慣れることでしょう」


「もしかしてそれが今おっしゃった『精神の同期シンクロニズム』というヤツですか?」


「その通りです。なお、細かい説明やサポートは状況に応じて適宜てきぎしていきます。常に相互に通信も可能ですので、何かあれば遠慮なくおたずねください」


「はいっ!」


戦闘形態バトルモード操縦者設定――ヤスタケ。ティナの有する権限へのアクセスを一時的に許可。データ更新中」


 直後、ティナさんの瞳に赤色の光が灯って、小刻みな点滅を繰り返し始めた。こういうところはコンピュータ的な印象を強く感じる。会話している時や外見なんかは俺たちと同じ人間そのものだけど。


 それから数秒後、瞳の光が収まって彼女は俺の方へ顔を向けてくる。


「ヤスタケ、もう一度、起動キーを読み取り機リーダーにタッチしてください。そうすれば自動的にコックピットへ跳躍ちょうやくします」


「了解っ!」


 俺は起動キーをしっかり握り直し、それを読み取り機リーダーにタッチしようとした。



 でもその時のこと、思いがけないことが起きる。


 なんと不意にチャイが駆け寄ってきて、俺は後ろから抱きつかれてしまったのだ。もはや身動きが取れず、当惑しながらその場に立ちつくすしかない。


 その手にギュッと込められた力と背中に押しつけられている彼女の顔や体の感触。さらに熱い体温やかすかな息遣い、髪のいい香りなどを間近に感じる。


 そしてチャイは駄々だだねる幼子のように、怒りと悲しみが混じった想いを吐き出す。


「ダメっ! 行っちゃ嫌だよっ!」


「チャイ……」


「もしこのままヤッくんに二度と会えなくなっちゃったら、私はっ!」


「大丈夫だって、カナ兄やティナさんのサポートもあるわけだし。ササッと夢幻魔むげんまを倒して無事に戻ってくるさ」


「バカっ! そのセリフとかっ、まさに死亡フラグだよッ! それに積極的に戦闘形態バトルモードの操縦者に手を挙げたのだって、自分がリスクを取りつつ私やショーマに負い目を感じさせないように考えたからなんでしょ!」


「なっ!?」


「今さら驚くなっ! 私っ、ヤッくんの幼馴染みを何年やってると思ってるんだっ!? ずっとずっと誰よりも近くにいたんだから、それくらい分かるよっ!」


 その魂の叫びのようなチャイの言葉に、俺の心臓はバクンと大きく跳ねた。



(つづく……)

 

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