解1-2-7:一致団結!

 

 誰よりも近くに……か……。


 そうだよな、俺がチャイのことをよく分かっているように、チャイも俺のことをよく分かっているのは当然だ。もちろん、ショーマやカナ兄だって俺の浅知恵に気付いているに違いない。


 それを言い当てられて驚くなんて、骨頂こっちょう以外の何物でもない。ゆえに俺は苦笑いしつつ、指で自分の頬を軽く掻く。


「……ははは、俺がバカなのは昔から変わらないんだよ。幼馴染みならそれも分かってるだろ? ってわけで、今回の戦いは俺に任せておけ。たまには格好付けさせろ」


「バカだよ……ヤッくんはホントにバカだ……」


 俺を抱きしめているチャイの手にさらに力が入った。


 それはじわじわと締め付けてくるような力加減。不安や俺への気遣い、守られる嬉しさ、そのほかの様々な想いがあふれて出てきたような感覚かもしれない。


「――でもっ、バカなのは私も同じだ!」


 直後、チャイは吹っ切れたような声でそう叫ぶと、俺から離れて運転席の横へ移動した。そしてブレザーのポケットに入れていた彼女自身の起動キーを躊躇ちゅうちょなく読み取り機リーダーにタッチする。


 その行動に俺はもちろん、その場にいた全員が目を丸くしている。


 それに対してこちらへ振り向いたチャイは、照れくさそうに微笑んでいる。


「行ってこい、バカヤッくん! その代わり、絶対に帰ってきなさいよっ? 約束だからねっ!」


「――っ! ふふっ、サンキュ、チャイ!」


「あーあ……。いつも最後には自分よりもヤッくんの意思を優先しちゃうんだよなぁ……。ホントに私ってバカ……」


 目を伏せ、苦笑しながら自虐的に呟くチャイ。そんな彼女に俺はゆっくりと手を伸ばし、優しく頭を撫でてやる。


 するとチャイは最初こそ小さく息を呑んで目を丸くしていたものの、その後は嬉しそうな顔をしてされるがままになる。なんだかちょっびり可愛らしい。


「まっ、俺としてもそういうバカなヤツを放って、先にあの世へ旅立つわけにはいかないからな。なんとしてでも無事に戦いを終わらせてみせるさ。バカ同士、これからもよろしくってことで!」


「うんっ! 約束を破ったら、何度生まれ変わったって許さない! 徹底的に恨んでやるんだから!」


「そりゃ、怖いな……。ますます約束を破るわけにはいかなくなったな」


「ふふっ♪」


「あはははっ!」


 俺とチャイは楽しげに笑い合った。そのあと、俺は最後に彼女の肩をポンと叩いて、自分の起動キーを読み取り機リーダーにタッチしようとする。


 でもまたしてもここで邪魔が入り、俺とチャイの間を割り込むようにショーマが駆け込んでくる。そして先に彼が自身の起動キーを読み取り機リーダーにタッチする。


 戸惑う俺に向かってショーマは指で鼻を擦りながら得意気な顔を見せる。


「へへっ、僕だけが除け者なんて嫌だからなっ。それにヤス兄、これでラプラスターの能力低下はないわけだから、負けた時の言い訳は出来ないぞっ?」


すんでところ姉弟きょうだい揃ってプレッシャーを掛けて来やがって。まったく……」


「……無理しないでよ、ヤス兄。危なくなったら遠慮なく逃げて。その時は僕が代わりに戦うから」


「ショーマ……お前……」


「僕だって姉ちゃんと同じくらい、ヤス兄のことを心配してるんだから。僕もヤス兄の幼馴染みだってことを忘れるなよ?」


「サンキュ!」


 俺はショーマとグータッチをした。そして今度こそ、この場にいる全員に見守られながら戦闘形態バトルモードのコックピットへ向かう。なんだかさっきと比べて心が軽い。




 ――そうだ、俺はひとりじゃないんだ。みんなが支えてくれている。


 もちろん、戦いへの恐怖が全くないわけじゃないけど、それよりも勇気と自信が勝っている。


「カナ兄、ティナさん。行ってきますっ!」


「おうっ! 頼んだぞっ、ヤス!」


「ヤスタケ、武運を祈っています」


 満を持して俺は起動キーを読み取り機リーダーにタッチした。


 するとピッという確認音が響くと同時に周りの景色が激しく縦に歪んで、エレベーターに乗った時のような重力の変化を体に感じるようになる。ただ、それも一瞬の出来事。気付くと俺は外の空間に浮遊している状態となっていたのだった。



(つづく……)

 

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