解1-7-4:可能性と確実性
一方、巻き起こされた神風によって不意に弾き飛ばされたフーリエールはようやく体勢を整え直し、こちらに向かって突進してくる。ただ、その動きには明らかに動揺の色が浮かんでいてキレがない。
ラプラスターの損傷が1秒ごとに目に見えて修復されていっているのだから、それも当然かもしれないけど。きっと何が起きているのか理解できていないに違いない。
まぁ、俺たちだって詳細は分からないんだからそれも当たり前か……。
程なくラプラスターの前までやってきたフーリエールは間合いを多めにとったまま、こちらを警戒しつつ対峙する。
そして戸惑いと怒り、わずかな怯えを滲ませながらフィルさんが叫ぶ。
『泰武ッ、これはどういうことだっ! なぜラプラスターのボディが凄まじい勢いで修復しているっ? それにさっきの衝撃波は何だっ?』
「そんなの教えるわけないじゃないですか。何の見返りもなく有益な情報を与えることなんてしませんよ――って、これはフィルさんの受け売りでしたか」
『くっ! ならばもう
フィルさんは
ただ、先ほどまではほとんど捉えることが出来なかったその動きが、スローモーションのようにハッキリと見えている。次の行動も明確に予測できている。
これはティナさんの処理したデータが
直後、俺はフーリエールの剣による攻撃を『光の剣』で易々と受け止めた。
もはや押し負けないどころか、本気を出せば弾き飛ばすことだって出来る。今や力においてもラプラスターの方が上回っているんだから、言うまでもない。
それに対してフィルさんは焦りの声を上げる。
『ぐっ……なんだこの力は……!? それに動きも反応速度もさっきとは比べものにならないほど上がっているとはっ!』
「これが『変数』ってヤツですよ。ラプラスターは決してフーリエールに劣っているわけじゃない」
『っっっ! 認めないっ! そんなことは絶対に認めないッ! フーリエールは処理能力も全ての数値もラプラスターより勝っているんだぁあああぁーっ!』
半ば自棄になったような感じでフィルさんは強引に剣を押し込んできた。それによってラプラスターとフーリエールの間に空間が生じるや否や、彼は後方へ飛び退きながら誘導弾を乱射してくる。
もちろんその行動は予測済み。ただ、あえてそれは避けずにそのまま食らうことにする。
――なぜなら、その程度の攻撃は今のラプラスターにとって無意味だから。
そもそも防御力が上がっているから、以前と比べて受けるダメージは大幅に少ない。その上、自己修復のスピードの方が圧倒的に速いので攻撃を受けた瞬間にボディの傷は跡形もなく消え去り、新品同様の状態へ復元される。
あぁ、勝負あった! 今回の戦いにおいてはもう俺が負けることはない。それを悟ってしまった。
直後、放たれた誘導弾の全てがラプラスターに着弾し、爆発音と振動が響き渡る。周囲の空間には煙が充満し、ボディを包み込んでいる。
『やったっ、攻撃を食らわせたぞっ! どうだっ、泰武っ! はははははっ! あはは……は……っ……!?』
最初は歓喜に満ちていたフィルさんの声が、次第に陰っていった。
それは周囲の煙が薄れ、こちらの姿が
フィルさんの呼吸がわずかに震えているのが伝わってくる。
『バ……カな……。無傷だなんて……。こ……こんなの……こんなの何かの間違いだ……』
「いいえ、これは夢でも幻でもありません。現実です」
『ラプラスターの上位互換機体であるフーリエールが負けるはずがないっ! そうだ、フーリエールのどこかに想定外かつ観測できていない不具合が起きているに違いないっ!』
彼は焦燥と
そんな現実逃避を繰り返す彼に対し、とうとう俺の頭の中にある糸がプツリと切れる。
「この分からず屋ぁああああーっ!」
『ぐっ!』
「賢いフィルさんならすでに気付いているはずだ! ティナさんが言ったようにラプラスターとフーリエールには基本能力に大きな差異はないっ! 単なるコンセプトの違いでしかないってことを認めろッ!」
『う……』
「ラプラスターは変数による『可能性』に重きを置いた機体。フーリエールは揺らぎの少ない『確実性』に重きを置いた機体。まさに正反対の性質を持つ姉妹機なんだ! どちらが優れているわけでもない! どちらも優れているんだ!」
勢いと意思を込めた俺の声がコックピット内に響き渡った。
(つづく……)
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